学生の自殺者が多いインド | 「アジアの放浪者」のブログ

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現在、インド出張中です。

今回、滞在中に耳にしたインド社会に関する情報の中に、自殺の多さがありました。

 

インド政府による統計ですが、2021年に自殺した人は164,033人。人口が約14億人と多いので、自殺率(10万人あたりの自殺者数)にすると約12人となり、日本の約16.8人を下回ります。しかし世界保健機関(WHO)は、世界全体の自殺者数が年間約80万人と推計される中、インドの割合がその20%に達していることを危惧しています。

 

ちなみに、インドでは自殺者の男女比が、男性72.5対女性27.4。圧倒的に男性の自殺者が多いのですが、自殺の理由は家庭内の問題によるものが32.4%、続いて病気が17.1%と、この2つの理由が全体の半数を占めています。

 

ところが、最近になって目立ってきているのが、勉強に関する理由で自殺する若者たち。15~29歳の年代層では、自殺が死因のトップになっているのです。なかでも、学生の自殺が特に顕著になっている…。

 

インド政府による統計では、2021年に自殺した学生は13,089人。2020年は12,526人だったので増加しています。傾向は過去5年間続いており、インド政府も心療内科カウンセラーによる支援に力をいれているところです。ちなみにこの男女比は56.51(男性)対43.49(女性)。インド全体の自殺者の男女比を鑑みると、女性の自殺が多いことが伺えます。

 

学生による自殺。

ここにも、インドの伝統的な身分差別が背景に見え隠れしています。未だにインド社会に根強く残っているカーストですが、このしがらみから抜け出せる数少ない方法のひとつが、教育なのです。

 

インド工科大学(IIT)のような、合格率1%未満といわれている超難関大学をしかるべき成績で卒業すれば、インド国内の大企業はもちろん、世界的な企業からも引き手数多。特にGoogleなどIT業界では、IIT出身者がCEOを努めている時代です。世界で奪い合いがおきている、と指摘する報道もあります。

 

 

しかるべき教育さえ受けていれば、次に開かれる世界の扉はもはや実力主義であり、カーストなどまったく問題にされません。それゆえ、数少ないチャンスを得ようと、おおぜいの若者たちが、少しでも高い点数を求めて躍起となっています。こうした過酷な競争を勝ち抜いてきた経験を積めば、もう世界を舞台にしたって物怖じがないのでしょう。

 

でも、全員がトップクラスに立てるわけではありません。

全員が超優秀な成績を収められるわけではありません。

目指した目標に達しなければ、そこで負け。将来の希望を打ち砕かれて、精神的に一気に崩れてしまう…。おそらくこのような強いストレスが、学生たちに大きくのしかかってのでしょう。

 

人生は、学業による成績ばかりじゃない。

というのは、ニッポンに生まれ、カースト差別を受けていないガイコク人による虚言。インド人学生からは、耳にはやさしく響いても、実生活では役に立たない理想論だと受けとめられてしまいそうです。

 

あぁ、お気の毒なインド人学生。

カーストという社会差別に加え、高学歴という新たな差別にも苦しんでいるのです。これを「社会発展」と呼ぶのは、あまりにも残念。社会が近代化していくということは、人にとても冷たく感じられる場面も出てきます。