憲法改正に向けた動き | 「アジアの放浪者」のブログ

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11月17日、タイ国会(両院合同)で2017年憲法の改正審議が始まりました。

改正案は、与党が1本、野党が5本、提出しています。それ以外に、「iLaw」という民間団体が1本、提出しています。

それぞれの要点について、タイの電子メディア、「Nation Thailand」が上手にまとめていますので、そちらを転載します。

 

 

少し解説しますと、与党案では「憲法第1条、第2条には触らない」とありますが、これは王室に関する条項です。青年たちは「王室改革(廃止でなく、権限の明確化)」を求めていますが、与党案では、少なくても憲法上は王室改革を避ける意向が見られます。

 

一方の野党案。野党の一部は、王室に関する部分は改正すべきでないとしていますが、それ以外の4案は、王室に関する条項をスルーしています。第1条は「タイ国は一体、不可分の王国である」、第2条は「タイ国は国王を元首とする民主主義制度の国家である」となっていますので、仮にこの条項が手つかずで残ったとしても、権限規定を明確にすることで王室改革は可能です(もちろん王室廃止まではできませんが、それは青年たちの要求にもありません)。

 

野党は、どちらかというと、軍事政権時代に指名によって選ばれた上院議員の権限制約に気持ちが集中しているようです。憲法第270条、同271条は、上院議員による憲法改正への関与が記載されていますが、その権限を封じ、選挙で選ばれた下院議員のみで議決できるよう求めています。また同272条の改正は、国会での首相指名に、上院議員が投票することを禁じようとするものです。

 

一方、iLawsがまとめた改正案は、個々の条項というよりも、憲法を改正するに際しての基本姿勢を訴えたものになっています。つまり、与野党案と比較して、憲法全体の改正を試みれる内容です。因みに青年たちはこの改正方針を支持していますし、iLaws自身も、98,824人もの賛同署名を集めています。

 

ただ、上院議員と与党議員の一部は、iLawsという団体が、タイ国内のみならず欧米からも資金援助を受けていることを問題視。欧米の勢力がタイの内政に干渉していると批判的です(この点、王室護持派が青年たちの民主化運動の背後に、欧米の影があると訴えている所以です。それは疑えば切りがありませんが、私自身は論理の飛躍を感じます)。iLawsは資金援助の外国からの寄付金受け取りは認めているものの、提言の内容自体については、欧米の関与・干渉を否定しています。

 

そして今日は、7本の法案の採択日。しかし焦点は7つのうちのどれか一つを選ぶということではなく、予想される折衷案にiLawsの提案が含まれるか否かがポイントとなっています。与野党とも、憲法改正を審議する特別委員会を設置することについては合意しています。しかしその特別委員会構成員の選出方法が、野党+iLaws側が「全員を選挙で選ぶ」としていることに対し、与党は「選挙による選出+政府による任命」を掲げています。また、与野党ともに限定された条項を改定する方針を示しているのに対し、iLawsは先述の通り、改正の基本姿勢を示しています。つまり、昨日と今日の国会論戦は、憲法改正自体ではなく、特別委員会の設置と、改正に向けての基本方針を議決するためのものです。

 

民主化運動は、iLawsの提案も含めた国会議決を求めています。そして当の国会は…議場はガラガラ。それは、国会の場よりも、水面下での非公式なやり取りが活発化しているからでしょう。透明性の点でそれはいかがか…と思いますが、水面下での調整にしても、なんとかiLawsの提案が含まれることを期待します。国王がCNN記者を前に語ったように、タイは妥協(compromize)の国であるはずですから。