リークした収容所の実態 | 「アジアの放浪者」のブログ

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日本でも、法務省入国管理局…おっと間違い、去年の4月1日から、法務省の外局として再編され「出入国在留管理庁」となっています…。

とにかくこの管理庁に収容されているガイコク人に対しては、数年に渡る長期収容や健康管理、あるいは職員による集団暴力の問題など、関係者から大きな非難を受けている面もあるようです。

 

おそらくそうした批判をかわす目的があるのでしょう。

管理庁は、収容施設の内部や食事内容、医療設備などの情報を公開しています。

 

http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/taikyo/shisetsu.html

 

それは収容施設ですから、ビジネス・ホテル並みの快適さ…というわけにはいきません。まぁ理解できるレベルの設備だと思いますが、ただ難民申請をしている人たちの長期収容については、もう少し何とかならんか、という気持ちはあります(これは収容施設そのものに対する批判とは異なります。施策運営の課題です)。

 

ましてや、タイの移民局の収容施設やその状態とは、比較しようもありません。

 

実は1月30日、香港に本拠を置くカトリック系メディア「Union of Catholic Asian News」社が、バンコク都サトーン区にある移民局付属収容施設の実態を、写真付きで報道しました。今日はそれをご紹介いたします。

 

https://www.ucanews.com/news/caged-like-animals-inside-bangkoks-notorious-idc/87104

 

もちろん、同施設は写真撮影禁止。スマホの持ち込みもできません。ですので、ここで報道されている写真がどのようにして外部に流出したのか、そこは不可解です。しかしタイのメディアにも転載されているところから、どうやら本物のようです。

 

まず、いくつかの写真を先述の報道から転載します。

 

いやはや、すごい人。

記事によれば、この施設は収容人数上限500人を想定して設計されているとのこと。しかし最近では、一時的に1,200人を超える人たちが収容されることも稀ではないそうです。そのため、このような大混雑に。

 

留意していただきたいのは、ここは刑務所ではないことです。

ビザの期限を超えて滞在していた人…。不法就労をしていた人…。犯罪であることに間違いありませんが、そのレベルにしては、何だかちょっと、酷すぎる…。こうした印象を持つ人は、決して少なくはないはずです。まぁ、タイの移民局は法務省ではなく警察庁の組織下ですから、人権についてはさほど関心がないのかも知れません。

 

一昨年頃から、タイ警察は「不良ガイコク人の取り締まりを強化する」と宣言。夜の繁華街などでガイコク人を抜き打ち的に任意聴取しています。本来の目的は、麻薬密売とか、売買春とか、不法就労斡旋など犯罪組織の取り締まりが主だったはずですが、何しろ夜間の繁華街捜査ですから、網にかかるのはビザ切れで滞在している人や、個人的な不法就労者が中心。こうした人たちが、一度の捜査で100人以上検挙され、詳しく取り調べを受けているのです。それは、こうしたやり方をしたら、収容施設が満杯になって当然。日本だって、新宿あたりにいるガイコク人一人一人を任意聴取したら、どれだけの人が逮捕されることでしょう。

 

いや、たしかに酷い。

捜査自体が悪いとはいいませんが、逮捕した先のこともきちんと考えなければ。ましてや観光大国なのですから、オーバー・ステイは悪いことばかりではないはずです。

 

でも一方で、なぜカトリック系のメディアがわざわざこうした実態を報じたのか…?社会正義を訴えるにしても、いささか不自然な…。そこも気になるところです。

 

しかしそれも、記事を読むとある程度の推測が立ちます。

こうした収容者の中には、観光ビザで入国したあと、難民申請をしている人がいるということです。この記事では、パキスタンで迫害を受け、タイ入国後に難民申請をしているキリスト教徒が紹介されています。おそらく難民と認定されれば、第三国に移住するつもりなのでしょう。なるほど、そういうことなら、カトリック系メディアがタイの移民局施設に関心を寄せる理由がわかります。

 

タイは、1951年に国連で採択された「難民の地位に関する条約」に加盟していません。そのため、難民に関する直接的な国内法はなく、第三国への亡命手続きも曖昧です。それどころか、個人よりも外交関係を重視しますから、たとえば中国政府の弾圧から逃れてタイに不法入国してきたウィグル人を、中国政府と良好な関係維持を優先させるために、中国に強制送還したこともしばしばあります(これがウィグル人やイスラム教徒の反発をかい、バンコク都内での爆弾テロにつながった、とみる向きもあります)。

 

現在の政府は、これまで実権を掌握していた軍事政権の延長線上にありますから、あまり人権には関心がなさそうです。

しかし今後、アセアンの地位が世界的に高まり、そのアセアンの中でリーダーシップを取っていくことを目指すのであれば、この人権問題をいつまでも避けて通ることはできないでしょう。

 

注記:難民条約を批准していないのですが、タイ国内にはまだいくつもの難民キャンプがあります(特にミャンマーからの流出)。根がやさしいタイ人ですから、法律云々のレベルを超えて、大らかに対応しているようです。そこに政治(外交)が絡まない限り。