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"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

【札幌誕生】 門井 慶喜 著

 

 同じ著者の『家康、江戸を建てる』の札幌版。サッポロはアイヌ語で「広い乾いた土地」の意。函館(江戸時代の箱館を明治に改名)が最も栄えていたものの対ロシア対策上、内陸に首府を置くこととし、当時、野原だった札幌を拓殖(開拓・殖民)することに決定。現在の碁盤の目の形にして札幌を誕生させ、関連する人々や氾濫する石狩川の河川工事などを通じて幕末から昭和までを概観します。

 

 新渡戸稲造、内村鑑三、有島武郎などと北海道との関係や、現在の札幌の基礎をつくった島義勇、アイヌ歌人のバチラー八重子、石狩川の治水に取り組んだ岡崎文吉など、知らない人々の活躍が描かれており、とても興味深く読みました。また、かつての「蝦夷地」を改名する際には、アイヌに配慮して「北海道」(「海」=「加伊」はアイヌ語で「その土地の人」の意味)とアイヌ語を盛り込んだなど、いつもながら門井慶喜氏の著作は面白くてためになります。

 

 QRコードのある栞が挟まっていて、ここから地図に飛ぶことができます。さらに、書籍のあるページの数値を入れると詳しく見ることができるのですが、これからはネットと連動した書籍制作がありそうだとも思わせる一冊です。

 

「地図サイト」

https://sapporo-tanjo.rekichizu.jp/

【わたしが正しい場所に花は咲かない】 アモス・オズ 著

 

 これは名著です。「イスラエルとパレスチナ人の紛争は、宗教戦争でもないし、文化の争いでも、二つの異なる伝統の不和でもない。その家がだれのものかについての、ただの不動産をめぐる争いです」という著者の言葉を引用した本を読み、「なるほど、だから某国の元不動産王の某大統領がこの地を買うと言ったのか」と本書を読んでみました。しかし、中身は濃厚です。

 

 著者の両親は東欧から迫害を逃れてエルサレムにきたユダヤ人で、「受けた仕打ちがトラウマになっている難民」。一方、パレスチナに住む人々も同様に迫害を逃れてきた難民であり、パレスチナ問題は「二つの被害者集団同士が争っている」状態。血で血を洗う戦いを繰り返しながら一緒にいるのは無理で、「ハネムーンの寝台ではなく、公正な離婚」をと二国家方式を訴え、国境に壁の設置も「よい垣根はよい隣人をつくる」と推奨しています。8割の人がこれに納得するはずが、いずれの側にも狂信者がいて進まず、相手の立場を考える想像力をもち、よい「妥協」を行って人命被害を食い止めるべきという考察です。

 

 原著は2002年の「How to Cure a Fanatic(狂信者を治療する方法)」。邦訳は2010年で、邦題は冒頭の詩「わたしたちが正しい(と思っている)場所に花は咲かない」(イェフダ・アミハイ作)からで、自分が絶対的に正しいとする姿勢に警鐘を鳴らしたいという訳者の判断とのこと。

 

 本文は3編構成で103ページと短いのですが、どこにもある差別、抑圧、狂信主義などを洞察し、惨事、例えば火事があった際には、逃げるのでもなく、投書を書くのでもなく、ティースプーンであっても水をかける行動をとることを促しています(スウェーデンでは本書が高校の教科書となり、実際に「ティースプーン教団」が設立されたようです)。「今日のお昼は何を食べようかな」ばかり考えている自分とは違う深い思索に目が覚める思いでした。

 

【「世界の終わり」の地政学 上・下】 ピーター・ゼイハン 著

 

 トランプ氏の行動がこの本によるのではないかと思えてきます。もしかしたら、米国民がこのように感じているのでしょうか。

 

 米国は地政学的に恵まれたため自国で完結が可能。そのため「統治が本当に苦手」であり、これまでは、ソ連に対抗するため同盟国を「購入」し、グローバル化によって同盟国が輸出しやすい環境を構築した。そうした「秩序」は「米国の犠牲の時代」であり、「そんな時代は終わった」。それにも拘らず、同盟関係を維持する費用を支払い続けるのは、「住宅ローンを完済したのに、まだ支払いを続けるようなものだ」。戦後からこれまでの70~80年間が「歴史的に見て異例」で、「秩序」の時代は終わり、「真の米国の世紀はいま始まったばかり」。「秩序」崩壊により米国は優位性を保ち続け、「この新たな無秩序の時代に最大の敗者となるのは中国」という論調です。日本は本書では高評価で、特に海軍力が優れているため海上安全保障を含めて立ち回れるというのは少々意外でした。

 

 原著は2022年発刊で、原題は「The End of the World is Just the Beginning」。2年後の現在、著者が予想したのは違うところもありますが、下巻では世界の「エネルギー」「原材料」「製造業」「農業」について分析しており、大きな流れを理解するのに良書と思います。

 

【外交とは何か】 小原 雅博 著

 

 この本は、もう「名著」としか言いようがありません。外務省での実務経験と東京大学での教鞭経験から、実務と理論、現実と理想など様々な両面を踏まえ、新書とは思えない重厚な内容になっています。特に、外交と軍事の考察は圧巻。足元のトランプ政権の動きなど直近の課題についても考察を加えていますが、ペリー来航に始まる外交史を踏まえた本書は、苦闘を重ねた先人たちの生き様や思想も交えた優れた歴史書にもなっています。

 

 終章では、著者の思いが凝縮されており、その真摯な姿勢に感銘を受けます。本書を的確に表現する知見は持ち合わせていないのですが、長く読み継がれることは間違いない一冊です。

 

【世界は善に満ちている】 山本 芳久 著

 

 またまたPodcastからの情報で恐縮です。トマス・アクィナスを扱っており、その参考文献として紹介されたものです。彼の思想を哲学者と学生による対話形式で明らかにし、「哲学講義」とありますが、とても読みやすく仕上がっています。

 

 トマス・アクィナスは神学者で『神学大全』を記述したという知識しかなかったのですが、ものすごい「ポジティブ思考」ということがわかります。「神」「愛」「善」などが登場するので、ここでの紹介は憚られるのですが、いわゆる現在の「ポジティブ・シンキング」ではなく、理論を突き詰めてこうしたものが実在することを証明しています。また、直接、本論とは関係はないのですが、ラテン語のpassio(受動)は、passion(感情)の語源となっており、感情が受動的なものであり、これによって人間の心に「刻印」ができるというのは面白い発見でした。

 

 個人的には、久しぶりに眼を開かされた思いでした。Podcastを聴いた上で読むと分かりやすいと思いますが、読後は世界が一気に明るくなった気分になれる一冊です。

 

 

【わたしの人生】 ダーチャ・マライーニ 著 

 

 1943年、イタリアが連合国軍に降伏した後、罷免されたムッソリーニは北イタリアにドイツ傀儡政権となるサロー共和国を樹立。日本政府は、在日イタリア人にサロー共和国への忠誠宣誓を問い、両親がこれを拒否したことから、両親らと当時7歳の著者を名古屋の天白強制収容所に抑留。監視する警官たちは横暴で、食料を収奪・横流して収容所の食糧事情は極悪。一日、16人に少量の米とたまご2個程度で、蟻や蛇を捕まえて食べるほどで、「人間の生存がいかに食べものかかっているか、信じられないほどだ」とあります。 

 

 こうした収容所が日本全国に多数あったというのは初めて知りました。また、米軍はこれらの場所を認識しており、長崎(同様の収容所が幾つかあったが、造船所、兵器工場、製鋼所を擁する最大の港湾都市)以外には空爆を控え、終戦直後には食料を投下したというのですから、彼我の情報格差は圧倒的です。 

 

 権力を振りかざす警官と近隣市民との対比も書かれ、最後に「わたしは日本と日本人を愛している、なぜなら収容所にいたあいだにも、ふつうの人たちの親切、寛大さ、連帯感を知ったから。警官たちのサディズムと狂気の国家主義、人種的偏見による軽蔑に苦しめられはしたけれども」と述べていますが、日本の庶民の親切さにこれまでどれだけ助けられただろうかと思いました。本編は157ページと長くはないのですが、色々考えさせられた一冊です。 

 

【ゲーテはすべてを言った】 鈴木 結生 著 

 

 これまでの芥川賞とは一味違う書ではないかと思います。多くの箴言・名言を引用し、知識や教養をひけらかすペダントリー的とも言えますが、これを23歳が書いたというのは驚きです(ビートルズなど我々世代の話も出てくる)。 

 

 ゲーテ研究家が、結婚記念日に取り上げた紅茶のティーパックに書かれていた「Love does not confuse everything, but mixes(愛はすべてを混淆せず、渾然となす)」というゲーテの名言の出典を探るというミステリー仕立てとなっています。ドイツでは、「ゲーテ曰く」を枕詞にすると尤もらしく聞こえるということから表題となっていますが、こちらの「名言」を探る旅が中心です。 

 

 若い著者ですが、かなり哲学書を渉猟したようであり、23歳でこんなだと一体これからどうなるんだろうと思いました。ストーリー展開はある意味で淡々としていますが、結果どうなるのかとつい引き込まれて読んでしまいました。すでに読まれた方もいらっしゃると思いますが、感想など伺いたい一冊です。 

 

【史上最強の哲学入門】 飲茶 著

 

 まさに「史上最強」! こんな本があるとは知りませんでした。「真理、国家、神、存在」のそれぞれについて、哲学者たちのバトルが繰り広げられます。

 

 愛聴する「COTEN RADIO」を運営する(株)COTENのスタッフ・「しながわ」氏が運営するPodcast「日本一たのしい哲学ラジオ」で、「哲学入門で読むならこの一冊!」と紹介していたものです。しながわ氏は、京大で法学を学んで弁護士になるも、この本に出会って哲学に転身し、(株)COTENに入社したというのですから、そのインパクトは凄いです。

 

 ドラゴン・ボール並みに、過去の哲学者からさらに強力な哲学者が出て反駁を加えるという設定ですが、一連の流れが理解できる上、とにかく泣けるほどわかりやすい! 著者はブロガーのようですが、哲学というややこしい内容を、これだけ面白くわかりやすく書くとはタダモノではありません。表紙からイメージするのとは全く違い、誰もが読んで欲しい一冊です。

 

【機械仕掛けの太陽】 知念 実希人 著

 

 これは読み応えがあります! 本書に書かれてはいますが、「機械仕掛けの太陽」とはコロナウィルスのこと。総合病院の医師、看護師、町医者の3人を軸に、コロナ禍に医療従事者がどう対応したのかが描かれています。

 

 コロナ発生からオミクロン株まで、国の対応や政治家などは実名であげながら展開し、今になって「そうだったのか」という内容も多々ありました。これに、恐らくは実体験と取材をもとにした医療従事者の人間模様をかみ合わせ、小説として見事に仕上げています。あまり知ることのなかった医療現場の実態は壮絶。過労や心ない批判、反ワクチン団体の動向などで精神を病む医療関係者も続出するなか、多くの医療従事者が志と使命感をもって命がけで対応する姿には本の前で頭が下がりました。医師でもある著者でなければ書けない小説と思います。

 

 最後の部分には、ロシア軍がウクライナに侵攻する記述があります。「一人の老いた独裁者がいとも簡単に、何千、何万という人々の命を奪っている」と虚無感を独白する町医者の言葉は、それまでの壮絶な救護劇を読んでいると納得の一言です。「ブラック・ジャック」の『病院ジャック』編で、彼が最後に言い残す「たいした奴だな。簡単に五人も死なせるなんて。こっちはひとり助けるだけ精一杯だ」を思い出しました。

 

【激動の韓国政治史】 永野 慎一郎 著

 

 韓国が揺らいでいます。韓国に駐在したことのある友人から、映画「ソウルの春」を薦められて見ました。1979年の全斗煥のクーデターを表したものですが、これは衝撃的です。以前、光州事件を扱った「タクシー運転手」、「工作」なども見て、韓国の政治を扱った映画は凄いと思っていたのですが、全体像を知ろうと本書を読んでみました。

 

 新書では淡々と事実を書くというイメージですが、本書では実際の人物が躍動します。「金大中拉致事件~朴正熙暗殺事件~全斗煥クーデター~光州事件~ラングーン爆発事件~大韓航空機爆破事件~民政移行・金大中大統領誕生」までの「激動の韓国政治史」が描かれています。「そう言えば、あったな」と記憶に残っている事件の内幕も詳述され、今になってようやく実態がわかりました。

 

 軍政から「血で勝ち取った」民主政であり、過去の記憶からか血を流さないことを重視した尹大統領の発言も、本書を読んでよくわかりました。因みに、映画を見てから本書を読むとヴィヴィッドに情景が浮かんできすが、もしご覧になる際は、「ソウルの春」~「タクシー運転手」の順がいいかと思います(いずれも実話をベース)。