【日本語と外国語】鈴木 孝夫 著
日本語を扱う人、必読の書。「漢字を駆使できるとカッコいいですよね」と話していたら、文章の達人から薦められたものです。Amazonのポイントはイマイチなのですが、個人的には★5つ。
前半は、外国と日本との文化やものごとの捉え方の違いなどで、目からウロコが取れまくりです。海外との色の定義の違い、虹は七色か、イギリス人はなぜ靴を脱がないのか、難しい英語の表記はなぜそうなるのかなど「トリビアの泉」状態です(ついでながら、イスラム教の国旗に「月」が多い理由もわかりました)。さらに後半の「漢字の知られざる働き(1)(2)」は圧巻です。「日本語はテレビ型(聴覚と視覚を駆使)、英語はラジオ型(聴覚のみを使用)」という説明の箇所では、読みながら唸ってしまいました。
1990年初版でもう店頭にはないかもしれませんが、図書館で借りられますので、ご興味のある方は是非読んでみていただければと思います。

【城下の人】石光 真清 著、石光 真人 編
「血沸き、肉躍るから是非読みなさい」と、元・上司に言われたのが半年前。著者のお孫さん(石光さん)は会社の大先輩で、その方の話をしているときに薦められました。そのまま忘れていたのですが、手嶋龍一氏が日本のインテリジェンスの手本として石光真清氏をあげ、岡本行夫氏の「危機の外交」でも過去に石光真清という素晴らしいインテリジェンス(スパイ)がいたと紹介。俄然、読む気になりました。
全四巻ですが、まずは第一巻のご紹介。著者は熊本生まれで、新風連の乱・西南戦争から始まります。第一巻では、日清戦争に勝利して日本が湧き上がっているなか、著者が「次なる仮想敵国はロシア」とロシア探索準備にウラジオストックに渡るところまでとなっています。やがて、ロシアの諜報活動となるのでしょうが、第二巻をいま読み進めています。
司馬遼太郎ばりの文章と小説風の出来で、とても読みやすく、情景が目に浮かびます。「血沸き、肉躍る」はこれからでしょうが、一級の歴史書であることは間違いないと思います。
因みに、著者の叔父・野田豁通氏は戊辰戦争で会津を攻め、その後、青森県知事に就任。育英事業として会津藩から2名を選抜してに県庁に採用したうちの一人が柴五郎氏で、その後、柴五郎氏が東京に居を構えた際に著者が預けられたとあります。「ある明治人の記録(会津人柴五郎の遺書)」はご子息の石光真人氏の著作ですが、石光家と柴五郎氏の関係がよくわかりました。
石光さんとは、毎秋、恒例の飲み会があるので、それまでに全巻読了しようと思っています。
【塞王の楯】今村 翔吾 著
久々に感動してしまいました。これは傑作です! ぶ厚い本で、ずっと積読山の住人でしたが、読み始めたら止まりませんでした。
お城の石垣はどうやって組み立てるのか、以前から不思議だったので手に取りました。楯となる石垣職人と矛である鉄砲職人の「職人同士の戦いを描く」と帯にはありますが、むしろ「圧倒的戦国小説」のほうが正しいと思います。小説としての面白さと文章の巧みさ、織田信長対浅井・朝倉から関ケ原までの知られざる歴史とこれに関わる石垣の使われ方の勉強とで、一粒で何粒もおいしい出来になっています。
特に、この本では、戦に弱いものの閨閥で出世し、それが故に「蛍大名」と呼ばれた京極高次という人物について初めて知りました。高次は、領民を守ることを優先して大津城に籠城し、秀吉をして「天下無双」と言わしめた武勇に優れた立花宗茂と対峙。第7章の「蛍と無双」から最終章の「塞王の楯」までは圧巻です(泣けました…)。また、石垣職人の穴太衆、鉄砲職人の国友衆、そして甲賀衆といった技能集団が滋賀に集中していたというのも新しい発見でした(滋賀に行くことにしました)。
初版は、2021年10月30日。まだウクライナの「ウ」の字もない頃ですが、まさに現状を描写しています。矛・楯いずれの職人も、極めることでこの世から戦がなくなることを願うものの、「世に矛があるから戦が起こるのか、それを防ぐ楯があるから戦が起こるのか。いやそのどちらも正しくなく、人が人である限り争いは絶えない」、「戦とは突き詰めれば意志の衝突だ」など、最近のことも思い巡らせながら読めました。
本を持つ手が少々疲れますが、これはお薦めしたい1冊です。
【土と内臓】 デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー著
ちょうど読み終えたところ、今日の「クローズアップ現代」が「腸内細菌の知られざる力」とあったので、先を越してご紹介(この本が紹介されるかはわかりませんが…)。
植物も動物も如何に微生物との共生が重要かということを教えてくれる本です。人間の身体には数キログラムのマイクロバイオーム(≒微生物)が棲んでおり、ヒトの皮膚1平方インチに約50万個もの微生物がいるとのことです(著者はこの面積に住む微生物の数は、「ワイオミング州の人口とほぼ同じ」と表現していますが、自分流には、故郷の「鳥取県の人口とほぼ同じ」と思いました)。
植物は根から微生物が喜ぶ物質を放出し、代わって微生物は必要な養分を根(植物)に供給するそうですが、腸も植物の根と同様の役割を果たしており、「免疫系の約80パーセントは腸、特に大腸に関係している」ということを実証しています。全粒穀物を推奨していますが、精白した穀物は、単純糖質となって身体への吸収が早いのに対して、全粒穀物の場合には糖成分をゆっくりと吸収するので腸(身体)に良いのだという部分はなかなか読ませる内容でした。
プレートの半分を野菜・果物、残り半分の多くを植物性タンパク質、残りを全粒穀物で構成する「ハイジの皿」という図柄も紹介されますが、やおら微生物にとって棲みやすい食事にしようと思わせてくれる1冊です。
【危機の外交-岡本行夫自伝】 岡本 行夫 著
日本人「必読の書」です。岡本氏は、この本で命を縮めたのではないかと思えるほどの渾身の力作。素晴らしい内容です。
1900年頃のご両親を取り巻いていた歴史からコロナで亡くなるまで、実際の外交の舞台裏を鮮明に描いています。
記憶に残る場面や洞察は数え切れませんが、まだ若い頃の岡本氏が、米国のホテルに泊まっていたシーンがあります。バブルの頂点だった頃、見知らぬ米国人が訪れ、「剣道で言えば、米国は竹刀で教えたのに、日本人は木刀で叩き返した。打たないでくれと懇願したのに日本はやめなかった。今度は米国が真剣で戦うから覚えていろ」と言われたとか。これなどは、いまの米中対立でも同様の心情が働いているのではと思いました。
また、首脳会議などでは、シェルパが事前に調整はするものの、会議の場では「基礎的な教養を欠いた首脳は議論に参加できなくなる」のだそうで、ある日本の某首相が話し出すと周囲で新聞を読み始めたとか。システムとして素養を持っている人間をリーダーにする重要性を痛感したとあります。さらに、日本が核を絶対に持てない理由を4つの側面から議論を展開していますが、その他にも一般人の考えに及ばないところがてんこ盛りです。
圧巻は、何といっても第4章の「湾岸危機」。副題は「日本の失敗、アメリカの傲慢」ですが、実際の日米省庁の動きなどを、実名をあげて見事に書き上げています。当時の政権で日本の立場はぐらつき、次章では「日本の安全保障のために必要なのは憲法改正の前に
、まずきちんとした政治家なのだ」と断じています。
「日本外交とは7割がアメリカといかにつきあうかで」決まるとのことで、日米関係が主軸で書かれていますが、沖縄や中東問題や、近年の中国、北朝鮮、ロシアについても正面からこの問題を取り上げ、日本外交全般についても論じています。最後に、若者へのメッセージを書き残したかったようですが、絶筆となってしまいました。命を懸けて真摯にこの本を上梓したことについて最大の敬意を払いたいと思った1冊です。
20Mami Higashi、福田 正文、他18人
コメント9件
絵本なので、読むのは5分程度。しかし、奥深い内容の絵本です。初版は、1979年ですが、副題は「なぜ戦争をするのか?」。まさに「今」に通じるお話し。
「六にんの男たち」が平和な土地を求めて歩き回り、ようやく安住の地を発見。ところが、守りのための番兵を置いたことから事態は変化。平和なままだと、兵隊たちはゴロゴロ寝そべるばかり。戦いを忘れるのではないかと心配になり、また「何で遊ばせておくのか」となって、近くの農場を襲撃。簡単に農場が取れたことから、「もっともっと」と戦線を拡大(産軍を抱えている国では軍部がおとなしくしておらず、一旦うまくいくと増長するということを風刺)。やがて大軍の敵と川をはさんで対峙するなか、鴨を射止めようとそれぞれが放った矢がきっかけで大惨劇(盧溝橋事件を彷彿させます…)。結局、大戦争になって兵隊は全滅し、生き残った「六にんの男たち」は、平和の地を求めてまた歩き始めるという内容。
もろネタバレですが、まさに今のウクライナ情勢のようです。何かのきっかけで大戦争にならなければよいがと思つつ読んでいました。子供ではなく、むしろ大人が読んで欲しい、なかなかに示唆に富むお話しでした。
著者は、元・都立松沢病院の精神科医長。確か、単行本の時に読んだのですが、文庫でもあり気軽に再読。しかし、読み返すと、とても良いです。
まずは解釈の仕方ということ。「あ〜、認知行動療法のことね」と読み飛ばしたのですが、心の3つの能力(①自分から離れる能力、②絶望できる能力、③純粋性を感じる能力)によって、現在からより深い解釈を得て古い自分を乗り越える(人が変わる)というお話は、実際の臨床事例を交えて説得力がありました。
また、文字を書くという行為が、「意思(主体性)によって肉体の物理法則(客観性)が反応する」ことを引き合いに、人(主体)が変われば運命(客観)も変わると説いています。いわゆる自己啓発本というより、臨床体験を踏まえた温かい目線で人を見てきた独特の視点があると思いました。
「人が変わるには、ある程度の人生経験が必要」とのことですが、初めに読んだ時より心に沁み入ったのは、ある程度の経験を積んだためでしょうか。ふと振り返るのに最適の1冊です。
「民主主義について過不足ない本を書いてみたい」という著者の思いが見事に実現した良書です。既に、2021年度の石橋湛山賞を受賞し、書評等でも高評価になっていますが首肯できる内容です(この一冊で、大学のテキストにもなるくらいコンパクトかつ親切なつくり)。政治思想史とも言え、古代ギリシャから現代までの考えを紹介の上、日本の民主主義について考察します。「結び」の20ページほどで著者の考えを述べていますが、相対する考え方を両論併記しつつも中庸の考えを展開しており、著者のバランス感覚が垣間見れます。
民主主義とか日々の生活からは縁遠い印象を受けますが、この本が多くの人に読まれ、その上で政治論議が活発になることを期待したくなる1冊です。







