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"Food for Thought"

日々考えていることを、自分の思考をまとめるためにも書きつづっています。

 ある眼科で、恩師の眼の手術に立ちあった。大病院から「今年中盤には視力を失う」と告げられ、一縷の望みを託したそうだ。朝8:00集合にも拘わらず、17:40に始まり19:20に終了。しかし、前の患者さんは「夜の1:00、2:00にやることも多く、今日は早く終わった」と喜んでいた。

 

 長い待ち時間、パワハラ言動もありで、時に患者にも説教。「業界」から爪はじきされ、マスコミからも叩かれている。そして、何より高い診療報酬。誰も寄りつかないはずが、

 

 「自分の預かった患者は『絶対に』失明させない」

 

という「信念」と、その「腕」で世界中から人が集まる。まさに「令和版(眼の)ブラックジャック」。

 

 2週間後の術後検査。「術後の経過は順調。失明は防げた」と伝えられたそうだ。今どき、こんな医者もいるのかと驚かされた一件。

 

『動物会議』 エーリヒ・ケストナー 著

 「まったく、人間どもったら!(中略)戦争さ! 戦争をやろうっていうんだ。それから、革命、ストライキ、食糧危機に、あたらしい病気もだ。」 人間の愚かさに腹を立てた世界中の動物たちが、動物ビルに集まって、最初で最後の会議をやるというお話し。会議の議題は「子どもたちのために!」 人間vs動物という設定は面白いです。

 手元の大型絵本の初版は、1999年。ヴァルター・トリアの絵とともに、まったく色褪せない内容です。『動物会議』の結論は、ジョン・レノンの「イマジン」というところでしょうか。

 既に読まれた方もいらっしゃると思いますが、今この時期に読むと感慨ひとしおの一冊です。

 

『神経症的な美しさ』 モリス・バーマン 著

 ユングがアフリカ旅行をした際、一人歩く原住民を馬車に同乗。5分ほど走ったところで「一息つきたい。あまりに速いので、魂が置いてきぼりになった。追いついてくるまでここで座っていないと」と言われた例を引き合いに、ペリー来航に始まる明治維新、マッカーサーによる戦後体制といった2つの大きな進展が、日本のアイデンティティに影響を与え、「日本は神経症的に引き裂かれた」と分析しています(「その進展がすさまじかったために、最も神経症的である」)。

 一方で、日本にある「拠り所となる一貫した伝統」が米国にはなく、アメリカン・ドリーム体現のための精力的活動が崩壊すれば、「口を開けて待っているは真空、深淵」と見ています。

 日本では、社会・文化・環境の利益を優先する価値観がすでに社会の一部となっており、(そうした神経症がおさまれば?)「日本は世界初のポスト成長経済のモデルになる」かもしれないと「予言」しています。

 著者は米国人ながら、日本の著作を多数読みこなしており、これには驚かされます(日本文化への造詣も深い)。いわゆる「日本礼讃本」ではなく、またさらっと読めるタイプの本でもないのですが、「アウトサイダー」からの視点が面白く描かれている一冊です。

 

 『黒い海』 伊澤 理江 著

 

 2008年千葉県犬吠埼から350㎞付近で突如転覆・沈没し、17名が犠牲になった第58寿和丸事件を追った秀逸なルポルタージュ。「波による転覆」と調査報告では結論づけられたものの、生存者の証言による「黒い(油が一面に広がった)海」に疑義をもった著者が追跡取材した記録です。単なる記録ではなく、真犯人をさまざまな証拠・証言をもとに追い詰めていくミステリーのようで引き込まれます(文章も短くて読みやすい)。

 

 「1番は旅客の事故、2番は商船、3番目に漁船の事故」と命に軽重をつけられ、情報開示を行わない「国」の不条理と闘う姿には著者を応援したくなります。

 

 第58寿和丸を所有していた「酢屋商店」は福島県・小名浜をベースとしていたことから、2011年の福島原発の影響を受けてその後も悪戦苦闘。「絶対善も絶対悪もない」と言い、「不条理」に立ち向かう著者と酢屋商店・野崎社長には心から敬意を表したいと思いました。

 

 明けまして、おめでとうございます。本年、最初に読了したのはこの本。以前、「週刊ポスト」に連載した内容を書籍化し、「現在の日本から何が連想され、暗示され、寓意されるのか」を訴えることを意図したとあります。494ページもありますが、半分は写真なので気の向いたときに読める感じです。

 

 とは言っても、松岡正剛氏の博覧強記には圧倒されます。日本の伝統・文化・風物・風習などの様々な側面を、見開き2ページで記載していますが、日本人でありながら知らないことだらけ。「三猿は実は四猿」、「近世日本の稀にみる軍縮(江戸時代に木版活字や鉄砲製造をやめ、浮世絵・花火などに転換)」、「漢字の『運』は軍を動かす意で、転じて福禍が動く意」、「正月に歳神を迎えるため門松を立て、火を使わないおせちを用意し、客神が帰るまでを『松の内』」、など備忘録的に書かせていただきましたが、「君が代」の原意も恥ずかしながらこの年で初めてしっかりと知ることができました。

 

 知っていても何の得にもならないのですが(笑)、古来からもつ日本の伝統・文化の奥深さを改めて感じさせてくれる1冊です。本年もよろしくお願いいたします。

 

 

【十字架のカルテ】 知念 実希人 著

 大学では刑法のゼミでした。そこで、犯罪と認められるのには、①構成要件該当性、②違法性、③責任性、の3段階で考えると習いました。まず①は「人を殺したるものは…」という刑法の条文に合致するか、②は「正当防衛」や「緊急避難」などやむを得ない場合などで違法性を問えるか、さらに③で精神状態はどうか、を見るというものです。

 この本は、③の責任性が認められるかどうかを判断する「精神鑑定医」のお話。このようなお仕事があると初めて知りました。

 メンタル疾患が騒がれていますが、ミステリーを通して実際がどうなのかがわかります。主人公は二人ですが、ストーリーは5つあって各々ほぼ独立。展開は「精神医療版ブラックジャック」という感じです。

 『ムゲンのi 』を読んでその筆力には感心したのですが、今回は本業の(?)の医者の知識も交えながらの展開で、また知念ワールドにハマりました。

 

 田坂広志氏の著書は満遍なく読んできましたが、これは、氏の思索の集大成とも言えます。いや、田坂氏というより、人類の思索の集大成と言ってもよいほどの内容です。これほどの内容を新書一冊にまとめ上げた力量は素晴らしく、個人的には文句なしの「★★★★★」。

 量子科学の「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」をもとに、人は死によって「現実自己」から「深層自己」へ変容することを、科学的論拠によって解き明かしていきます。また、宇宙生成から、記憶の場である「ゼロ・ポイント・フィールド」によって現在まで進化した過程(仮説)も検証。前著まで「ゼロ・ポイント・フィールド」はたびたび登場していましたが、まさにこれが集大成です。「科学」と「宗教」の融合を図ろう呻吟し、量子論、宇宙論、哲学、心理学、宗教の粋を集めて、ようやく辿りついた境地がこの本と言えると思います(こちらも霧が晴れました)。

 詳細は書き切れませんが、これで約1千円というのは超破格。月食も忘れて読みふけってしまいましたが、帯に「人生が変わる一冊」とあるとおり、まさに世の中の見方が一変する一冊です。

 

 こわ面で、日本遺族会の会長だったなど、古臭いというイメージがあった古賀誠氏ですが、この本で一変しました。

 政治については、さまざまな意見があると思いますし、それで良いと思いますが、(最近はあまり騒がれませんが)こと憲法について考える際には必読書と思いました。

 古賀氏のお母様が戦争未亡人で苦労されたこと、それを契機に遺族会を引き受けたこと、靖国に対するお母様の思いや古賀氏の考え方など、読んでいてウルッときました。

 92ページと短く、喫茶店でコーヒーを飲みながら読み終えたのですが、色々な意見を踏まえて考えるという観点でもお薦めしたい一冊です。

 

 「聞く、読む、書く」のできた稀有な哲人政治家と称され、「楕円の思考」「永遠の今」「60点主義」「任怨分謗」などの思想を考案。総理存命中には、「9つの政策研究会」を設置して国家ビジョンを策定。そのなかの「田園都市構想」「環太平洋連帯構想」「家庭基盤の充実」「多元化社会の充実」は、それぞれ「デジタル田園都市構想」「APEC・TPP」「女性活躍・WLB、こども家庭庁」「多様化社会」と形を変えて今に引き継がれ、GDP偏重から文化重視を打ち出した「文化の時代」や、防衛のみならず経済を含めた「総合安全保障」は、今まさに問われる内容と思います。

 第3代宏池会会長であった故・大平総理へは、第9代会長の岸田文雄総理から寄稿。林芳正外務大臣、木原誠二官房副長官をはじめとした宏池会議員の方々からもメッセージが入っています。

 御厨貴氏の序章「なぜ令和の今、大平正芳なのか」(これは圧巻です)を筆頭に、宇野重規・翁百合・谷口将紀・柳川範之氏といった日本屈指の政治・経済学者による座談会も収録。「9つの政策研究会」が、自らの政権維持のためではなく、後世への指針を目的としたことから、「ローマ教皇がシスティーナ礼拝堂に天井画として『最後の審判』を描かせるのか、それとも自分の肖像画を描かせるのか。(中略)(岸田政権は)肖像画を描かせててはいけない。後世の人が仰ぎ見るような天井画を残すこと」こそが成果になるという谷口氏のご提言は示唆に富むものと思います。

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【海の地政学】竹田 いさみ 著

 前半では、スペイン・ポルトガルの大航海時代からオランダの勃興、海賊国家から海洋国家への変貌したイギリス、捕鯨から海に進出し石油に目覚めたアメリカという歴史が展開されます。こうした歴史を踏まえて国際ルールを模索する動きに至り、それに挑戦する中国と、高度な「法執行機関」として対峙する日本の姿が描かれています。多くの文献と海上保安庁へのヒアリングも充実し、主義主張に依るというより、客観的な記述で「これまでと今」の課題がよくわかりました。

 うっすらと理解していた領海やEEZ(排他的経済水域)などの考え方も図式化されて明確になり、読むとシーパワーについて全て理解したと思わせてくれる1冊です。