【シリアの家族】 小松 由佳 著
これはもう…壮絶。本年上半期の暫定第1位、文句なしのノンフィクション賞です。
写真家の著者がシリア人と知り合い結婚。シリア難民が国外に出ようとする惨状や英国に渡るまでの壮絶なルポ(この難民たちはボートが転覆して全員死亡)、アサド政権とこれを支援するロシア軍と反政府軍との戦闘、加えてISとの戦闘、反政府軍によるアサド政権の崩壊とその後のイラン・ヒズボラ対イスラエル戦争によるイスラエルからの空爆。これらを著者自身が肌で感じたことや、シリア親族・市民の動き、経済などを克明に描いて、全巻ハラハラ・ドキドキの連続です。国際政治に翻弄される国の姿や、『夜と霧』『エルサレムのアイヒマン』を彷彿させる極限状態での人々の生きざまも書かれ、シリアという国が如何に凄惨であったかがわかります。また、写真家である著者は、シリア内戦で荒れ果てた夫の故郷を撮ろうと単身乗り込み、秘密警察と交渉を重ねますが、こちらも緊張の連続。
笑ってしまうのは(いや、笑ってはいけないが)、そこまで苦労して戻ると夫から「第二夫人を娶りたいから、自分と彼女の生活費二人分、工面して」と言われる場面。著者も衝撃で「第二夫人騒動」として1章を割いていますが、この章はアラブと日本の価値観(書きたいが書けない内容含む)が如何に違うのかがよくわかります。
こうした惨状は、たった一人の指導者に起因し、その影響が如何に大きいかを思い知らされます。しかし、「独裁国家は、強力な独裁者が存在するから維持されるのではなく、それに同調し、従う民衆が一定数存在するから維持されるのではないだろうか。(中略)今置かれている状況は、ある意味、それを選び取ってきたシリアの人々の選択の結果ともいえるのではないか」という問いには、本書を読むと「YES」と言わざるを得ないと思います。
何だかんだ言っても平和に過ごせる日本に感謝と、自分には思いもよらない世界があるのだということを痛感させられた圧巻の1冊です。
PS
かつて、ヨルダン出張の際、地元料理を所望。「お前、マジか!?」と呆れられながら、砂漠を突っ切って、ベドウィン料理を食べに行きました。最初に出てくるのが、本書にも出てくる「マンサフ」。客人への最高のおもてなしと聞いて期待していたところ、出てきたのは、お皿の上にポンと置かれた羊の頭の丸焼き。「舌(一つしかない)⇒目(二つしかない)⇒耳(同様)」と目の前で切り出され、結局、どれも食べられませんでした…。
