新・カクテルグラスの夜景 28 置き去り | たそがれ館へようこそ

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夕暮れ時に物思うことはありませんか。来し方のことを振り返って小説を書いています。

 

     〈 清司のパート 〉

 

つむじ風が起きた時

清司は本庁舎玄関前の広々とした

石畳のアプローチに立っていた。

 

 

梅雨の合間のよく晴れた日で

日差しがたっぷり降り注ぎ

気温はぐんぐんと上がっていた。

 

 

時おり強い風が吹くので

立木の落ち葉がさらさらと風に流され

ところどころで小さな渦をつくっていた。

 

 

離合集散して一つの大きな渦にまとまると

生き物のように立ち上がり

清司めがけて襲ってきた。

 

 

突風だった。

 

清司はとっさに顔を両手で覆ったが

激しい風が体を打ちつけ

なすすべもなく、そのまま体を固くして

しばらくやり過ごすしかない。

 

 

耳元でゴーゴーと音が鳴り

落ち葉が体に沿ってからからと舞い上がった。

 

 

一陣の風が過ぎ去り

清司が固く閉じていた目を

おそるおそる開けてみると

驚いたように振り返って歩く男性や

風で乱れた髪を整えて

羽織物の前をぎゅっと合わせる女性がいた。

 

 

車がない。

車が消えてしまっている。

 

 

清司はその場で呆然と立ち尽くした。

足元には段ボール箱が一箱だけ残されていた。

 

 

本庁舎の中から運んできた

荷物を乗せるために

アプローチの脇に停めておいたはずの

ワゴン車が見当たらない。

 

 

まるで手品のように

跡形もなく消えてしまっている。

 

 

やられた。

車は清司を置いて行ってしまったのだ。

 

 

つむじ風とともに

あっという間に消えてしまい

もう戻ってこないのだろう。

 

 

彼は途方に暮れていた。

その時「おい、早川じゃないか」

と後ろから声がかかった。

 

 

 

※ 2021年2月~に掲載したものを

   修正して再投稿したものです