第三話 日常・ってこれ日常?
三㎝前姉さん。
ぐわし
「まったまった待った―」
「っち、起きたか」
近づいてくる姉さんの顔を押し離す。
「なんで姉さん、なんで家、今何時―――」
「ゆーちゃん、落ち着きなさい」
「は、はい」
一番落ち着かなくしたのは姉さん―――言おうとして止めた。
いつものことに戸惑っているのはむしろボク。
一息ついて、姉さんが状況を説明してくれた。
「ゆーちゃんはね、学校に見学に行って、ちょっとの間行方不明になったの」
「行方、不明?」
「見つけられた時にはぼろぼろで、たぶんあの犯人の魔法をくらって―――」
「犯人って……アポロ?」
「あら、そう名乗っていたの聞いてたんだ。私たちはニア、2アポロの略ね。そう呼ぶことにしたのだけれど―――」
「????あれは―――ボクだよ」
「?ゆーちゃん……疲れているのね」
「疲れてないよ、アポロはボクの体を乗っ取って―――」
「あのね、ゆーちゃん。あのニアはゆーちゃんより背低くて、顔も違うし、何より」
朝食を食べて、落ち着いたところでよく考えてみることにした。
「女?」
何がどうなっているのか、さっぱり分からない。
唯一つ、大変なことが分かった。
それは眼鏡が―――
「女で悪いか、女のほうが見た目いいだろうが」
ニアだ。
「なんでぼくの眼鏡にニアが―――(涙)」
「お前がプロパティ書き換えたからだろうが。一度ログアウトしたらログインするのには半年や一年じゃ利かんのだぞ、仕方なしにログアウトする前に眼鏡にくっついて―――」
「ログアウト?ログインって…?」
「死ぬか生きるかってことだ」
そこで眼鏡は悪態をつく。
「わかりやすいように言っているのに、鈍いなお前」
「鈍いって…」
そこでニアがぼそりと言う。
「この一年は繰り返さない。一度っきりだ。その前に、言わなければ……」
「???」
しゃべる眼鏡っていうのは思った以上にうざい。
「歩くってのは遅いな飛べ飛べ」「どこだここは、どこへ行く」「おお、これが世界か」
「…お願いだから黙って」
「うるさい、お前こそ何してる」
「何って…」
優希は外に出ていた。
家の中で腐っていっても、仕方無い。晴れた日は外を歩く。それは優希の日課でもあった。
ぶらぶらと街を歩く。
特に本屋では、何時間もつぶせる。そんな変な自信があった。
「爺むさ」
「悪かったね」
「えぃ」
何か聞こえた。
痛い。
何かにぶつかった。
いや、何かにぶつかられた。
倒れそうになるのを、何とかこらえた。
「助けてください」
女の子がいた。
「?」
そこへ、背広を着た礼儀正しそうな男が優希に話しかける。
「よーよーにいちゃんおれのおんなになにかようか」
すごく棒読みの気がする。
小声女の子「ちょっと、石原もっとしっかり脅しなさい」
小声背広の男「は、はい。お嬢様」
聞こえてる。
再び男が優希に向かって話しかける。
「おれのおんなにてーだすとはいいどきょうじゃないですか、いえ、ねぇか」
「きゃぁ、怖い。そこの人、助けて。わたくし、この方にいきなり絡まれていましたの」
「は、はぁ」
「てめえ、やっちゃうぞ」
そこで沸点が異常に低いニアが切れた。
「うるさい」
目からビーム。
正確には眼鏡からビーム。
「ぐおぉ」
ビームが背広の男に当たって倒れた。
「くくそうここはひいてやるおぼえていてください」
小声女の子「石原、ここは『くださいまし』よ、無礼の無いよう」
小声背広の男「はい、お嬢様」
聞こえてるって。
背広の男が襟を正す。
「くくそうここはひいてやるおぼえていてくださいまし」
そして背広の男は逃げて行った。
「ニア、今の魔法?」
「…くそっ」
?
「ニア?」
「その名前いつの間にやら定着しているな」
「うん、アポロのほうが良い?」
「殺すつもりでやったのに、あいつ無傷か」
「無視?はぁ……ニアでいいね」
「ありがとうございます」
そこで女の子が話しかけてきた。
「あ、うん。怪我なかった?大丈夫?」
改めて女の子を見る。
あ、かわいい。
赤いリボンをヘアバンドのようにつけている。
それがよく似合う。
「わたくし式臥愛子と申します。そこの人、どうかお礼に」
女の子が言葉をためらう。
何を言おうとしているのかな?
決意を決めた女の子の一声。
「お兄様になってください」
脳みそ白紙。
時間をおいて意味を理解……
できない。
「えっと……?」
