第六話 練習・魔法の条件
「DDSフィールドとはー」
精神を集中する。
自分の境界線、周りの境界線。
それらをあいまいにするように、自分を広げていくように。
「言ってしまえば、魔法の効果範囲のことですー」
先輩はそう言った。
第三魔研部。
同好会なのに、部活って呼べるのは、愛ちゃんの権力の賜物らしい。
愛ちゃんって、結構、謎モノ。
部員は只今、四名。
ボク、ナデシコ、愛ちゃんに先輩。
「頑張って、お兄様っ」
あと六人で部活として正式に成立。
道は長い。
「2つのフィールドがシンクロして初めて魔法使用可能となるですー」
先輩ってのは、真紅 沙由理先輩。3年生。
瓶底のような分厚い眼鏡が特徴的な女性だ。
のんびり屋で天然、眼鏡をとると美人、が桜情報。
昨日、部活のことを話したら教えてくれた。
桜情報に引っ掛かるほどだから、美人は本当なのだろうが―――背が高い。
175を何とか超えるくらいって言ってた。
決して小さいほうではない男の優希でも負けている。
そういえば外人の血が入っているナデシコも165近い。ここって女性おっきい?
ちなみに、愛ちゃんは150後半って言ってた。
「ど、どう?ユウちゃん」
「よくわからない」
先ほどから、DDSフィールドの練習をしているがさっぱりだ。
「一休みしますですー?」
「愛ちゃん、疲れた?」
「わたくしは大丈夫ですわ、お兄様が決めてくださいまし」
「うーん」
DDSフィールドは1人では成立しない。
2人で張って、初めて魔法が使えるようになる。
魔法の基本中の基本になる、条件だ。
これができないと魔法使う使わないの問題じゃない。
そのため先ほどから、愛子はずっとDDSフィールドをはっていた。
しかし、史奈子も優希も一向にフィールドを展開する気配はなかった。
「自分を広げる、それがキーですわ」
「自分て…」
「フィールド展開は一休みして講義にしましょうー」沙由理先輩が言った。
「はい」
そして愛子がDDSフィールドを閉じた。
周りから、ある種の気配が消えるのがわかる。
「難しい」
その日の部活動は、そのまま終わってしまった。
「機械もあるんだけどねー、あれただ張るだけで自分から魔法使えないしー、あくまで相手いないようなのよねー」
帰り道、途中まで一緒だった沙由理先輩の言葉。
「愛ちゃんもねー……ってこれは秘密ー」
何が秘密か分からなかったが、その時は気にしなかった。でも気にするべきだった。後から考えると。
家では姉さんが待っていた。
「DDSフィールド?あれは感覚で覚えるしかないよ、ゆーちゃん」
「感覚?」
「一度覚えちゃえば、簡単に出来る―――いくらでも使いようのあるフィールドだからね、いつでも張っていつでも閉じれるようにならないと、ちょっとこの先きついよぅ」
ニアにも聞いてみた。
「知らん。SSフィールド張れる私には無用のものだ」
そっけない。
「そのうちできる、できなきゃ死ね」
ニアなりの励まし方なのだろう。
だけど、鬱は深まった。
次の日には変化があった。
史奈子がDDSフィールドを張った。
「練習4日目に成功、素質あるよー、なこちゃーん」
「お兄様もファイ!ですわー」
「……」
「やった、やったーよユウちゃん」
横で喜んでいる史奈子が遠い。
「ユウちゃん?」
「……」
「ユウちゃん」
「あ、うんごめん何?」
「DDSフィールド張れたよ、つぎはユウちゃんの番」
言葉が遠くで聞こえてくる。
あぁ、遠い。
「大ジョブ、ユウちゃんにもできる」
「うん」
自分を広げる。
意識を集中する。
「お兄様がんばって♪」
自分はひとり。
「優希君がんばー」
一人なんだ。
「ユウちゃん!」
一人しか――――――いない。
「お兄様?」
崩れ落ちた。
何か自分がひどく惨めに見えた。
基本もできない。
何のために、この学園に入ったんだ?
血のつながっている姉さんにもできる。
兄と呼んで慕ってくれる女の子にもできる。
同時に学び始めた幼馴染にもできた。
ボクの体を使っている存在にだってできた。
じゃあボクにも、
できない。
ボクはできない。
ボクは――――――
「お兄様、大丈夫」
優しく手を伸ばしてくれる、ボクを兄と呼ぶ女の子が言った。
でもこの子はできる側の人間。
「だって、お兄様は世界を救う運命をもった人間ですもの」
手が出た。
何が癇に障ったのか、自分でも分からなかった。
ただ切れた。
「女に手を出す男は男じゃねぇ」
瞬時に"出た"手の支配権だけがニアに移る。
すんでのところでボクは屑にはならなかった。
だがそれは自分の意思ではない。
それがますます癇に障る。
「う……うがぁぁぁっ」
「お兄様っ」
そう呼ぶな、
ボクは
ボクは――――――
駈け出した。
その場にいたくなかった。
「お兄様」
夜は深まる。
家のベッドで布団にくるまっていた。
下の玄関のあたりがにわかに騒がしくなる。
どうでもよかった。
一人でいたい。
誰とも会いたくない。
階段を上がる音がする。
足音は部屋のドアを開けた。
「ゆーちゃん、式臥愛子さんが家に帰ってこないって、行方不明って―――」
「―――え?」
外では、雨が降り出した。
