第九話 展開・炎の中で
「我は火。冥府四天王最強の火なり!!!」
長髪の女が、立ちふさがる。
「ボクは真田優希。愛ちゃんの兄だっ!」
決意は決まっていた。
力がほしい。
すべてを守る力が。
「この先に強大な魔力の持ち主がいます」
石原は言った。
「わかるんですか?」
魔力を察知できるなんて聞いた事がない。
ただ自分が知らないだけで、そういう魔法があるのかと考えた。
「SSフィールドです。これだけ巨大なものは、自分でも張れるかどうか…」
「SSフィールドを展開して待っているとなると、まずこれは……罠」
「でしょうね」
優希に迷うという感情はなかった。
石原の方がはるかに強い戦う力を持っている。
ならばここは自分がおとりになって石原を先に行かせる。
「いいのですか?」
「ボクは決めたんです。裏切らないって」
「お嬢様を……ですか?」
「信じてくれる人をです」
愛子が魔法を使えない。その事実を知って、優希は変った。
彼女は言った。
「大丈夫」
その言葉の重さに、気付けた。
持たざる者は持っている者の気持ちは分からない。
だから持っているものになりたい。
そして、なってしまうと、持たざる者も気持ちを忘れる。本当の、持たざる者の気持ちを。
その立場からの愛子の言葉だと、優希は思っていた。
しかし、それは違った。
愛子は持たざる者だった。
それも優希とは違う。永遠に持てないものだという。
そんな愛子の言葉なのだ。
「大丈夫」
そんな持たざる者ならば、誰だって思う。おまえも持たざる者のままでいろ。
持っているものになんかなるな。
自分とおなじ持たざる者のままでいろ。
普通ならそう思う。
「大丈夫」
「ボクなら、さっきまでの僕なら言えなかった」
「真田弟……優希様」
そして優希は言う。
「大丈夫」
「ボクはもう、大丈夫」
「変われっ!いくら雨の中でも、あの女の炎は弱まる気配を見せない。このままでは―――」
「ニア、ボクはやるよ。すこし、黙って見てて」
状況は劣勢だった。
相手は油断することなくSSフィールドを展開。光輝く体、光子体とか言うのになって魔法を放ってきた。
「奴は油断をしていない。光子体ってのは、人間の反応速度を限界まで引き上げた体ってことなんだ。まともな人間の姿では全く相手にならない。速度に追いつくことさえできはしない!変われっ」
「DDSフィールド展開」
「………は?」
場の空気が変わる。
フィールドの展開が確実になされた。
「お前、いきなり……」
「ニア、魔法の使い方教えて」
静かに、火の攻撃を何とかやり過ごしながら、優希が言った。
眼鏡ニアは、何か思うことがあるのか考える。
「…そうだな、私の目的はお前に魔法の素晴らしさを教えること。奴らとは真逆だ。教えてやる。いくらでもな!」
眼鏡ニアも腹を据えたようだ。
「だがピンチになったら代われ、お前に死んでもらっては困る。それだけは肝に命じろ」
「うんっ」
「何を話しているのだ!死にたいかっ!」
火は魔法を連続してはなってきた。
「右手の感覚だけを自分のものにして支配権を私にゆだねろ、基本的な光弾の使い方、自分で感じろっ」
「わかった!」
右手のプロパティをそう、書き換える。
初めての書き換え方だったがうまくできた。
「やはりお前は……」ぼそりと眼鏡ニア。しかしその言葉は優希にはとどかない。
「ニア?」
「あぁ、行くぞ」
その時には火の魔法は、すでに優希に当たる直前だった。
「うざいっ!」
右手に魔法のコーティングがなされるのを感じる。
その手で火の魔法を薙ぎ払う。
「これが基本だ。この防御魔法を展開しておかないで火の魔法など使ったら、火傷するぞ」
「うんっ!」
「そしてこれが、光弾だっ!」
「うぬっ!?」
優希の右手から、光弾が放たれる。
火は完全に虚を突かれた感じだった。
魔法を優希が使えないと、信じ込んでいたらしい。
火を直撃する。
爆音。
「今ぐらいの威力なら死にはしない、連続して叩き込め!」
「やってみる」
プロパティを書き換え右手を自分のものにする。
光弾を作ってみた。
出来た。が、
「あっつい!」
熱かった。
「防御魔法を展開しないからだ。言ったぞ」
「貴様ーっ!」
火が爆煙の中から姿を現す。
光子体ではあったが、体のあちこちの服が、燃えていた。
ちょっと、えっちぃ。
「あーっ、服が、制服がっ、真田様から頂いた、大事な制服ーっ」
「ご、ごめんなさい」と、反射的に優希。
「お前、誤るな」眼鏡ニアの突っ込み。
「許さん許さん、絶対許さんーっ!!!」
光子体が燃え上がった。
「いかん!本気の速度になったら、ただの人間では追い付けんっ」
「大丈夫」
優希が静かに言った。
「えっ?」
「?」
優希は、火の背後に立っていた。
「はや―――」
「うおおおおおぉぉぉぉっ!!!」
優希の光弾が火を包み込む。
「馬鹿な、こいつ、いきなり瞬間移動魔法だと?」
光の中に徐々に火が消えて、
「どんだけ?」
爆音。
「なんか出来そうだったから」
爆音の止んだ後にぼろぼろの光子体から通常状態になった火が倒れていた。
「勝った?」
間。
そして笑い声、
「はははっ、優希お前魔法の才能あるよ、絶対」
眼鏡ニアだ。
そして優希が違和感を覚え、そして気づく。
「あ、初めて名前でー」
雨はやむ気配を見せはじめ―――。
しかし、
「悪魔よ、これ以上の干渉は許されない――――――」
静かに雨の中、舞い降りる羽根があった。
「あれは―――」
「天使っ」
「お前は、越権行為を行った。よって―――」
「連戦かっ」
「ニア?」
「ここは代われ、私の問題だ」
「排除する―――」
夜、雨の中、ひとひらの光が残酷なまでに、悪魔を照らしていた。