第十話 天使・神々の系譜
「ニア、ここはボクが…」
「無駄だ。私にハッタリはつうじない」
「え?」
「わかってるんだよ、あいつも」
眼鏡ニアが言う。
「女に手が出せねえお前が、この火とかいう女にちょっとしたハッタリで勝ったってことを、な」
当たりだった。
優希は、火に光弾を当てたりはしなかった。
ちょっとした熱風、服が多少焦げる程度の熱風を作り出しただけだった。
もちろんそれだけでは、火を倒せなかっただろう。
火の気が失われるほどのショックを与えたもの、それが瞬間移動だ。
加えて、ニアによる、実弾。
この二つが相乗効果を現し、火を倒すショックにまでに至った。
それをニアも天使も見破っていた。
「でも」
「忘れているか?私も女だ。女同士の戦いに男の出る幕はねえ」
「ニア…」
優希は考える。
確かにあの天使を倒すほどの実力が今の自分にあるかはあやしい。
女を殴れない。それは思った以上に大きなハンデだ。
だがニアに任せていいものか。
ニアは女だ。その点では、条件をクリアしているように思える。
しかしそれは違う。
優希に言わせれば、女の人自体に戦ってほしくない。
女は偉い、偉い奴は戦う必要はない、の二段論法だ。
女尊男卑の考え方なのだ。優希は。
母親の影響だろう。
母は、とても強い人だ。
強すぎるゆえに儚く守らなければならない存在だった。
「信念をかけた戦いに男も女もねえ、ぐだぐだ言わずにやらせろ!」
言ってることが矛盾だらけだが、ひとつ、ひとつだけ聞き逃せない言葉をニアは言い放った。
「信念……これは信念をかけた戦いなんだね?ニア」
それにニアは、臆すことなく言い放つ。
「当たり前だ!!!」
言い放ったと同時に、プロパティの書き換えが行われ、姿がニアになる。
信じる。ニアを信じるよ。
「……」
ニアが何か考え事をしている。自分の言い放った言葉に、戸惑いを覚えている?優希にはそうとらえられた。
「そうかそれほどにまで私はこの世界を…」
ニア?
「愛してしまったんだな」
???
「お前が好きだ。優希」
…?…ニ………ア?
「なんでもねぇ、行くぞ!聞くものよ」
気配が充満する。
フィールドが展開された。
「決心はついたか?悪魔、お前はこの世界にかかわりすぎた」
「知るかっ!なりゆきだよ、なりゆき」
「滅ぶには充分すぎる理由だ」
天使が、手に光の剣を作り出す。
巨大だ。男の人の身長の三人分はある。
ニアどうするの?
「真っ向迎え撃つ!信念のぶつかり合いだ。っくぞぉっ」
ニアも剣を右手に作り出し、体を光子体化させた。
豪、と音がした。
二人の剣が重なり合う。
一瞬。
一瞬で勝負はついた。
ニアの剣が、天使の剣をぶった切り、天使の体を切り裂いていた。
剣は心臓にまで達している。
「くそ、ここまでの強さとは…」
「親分を呼ぶんだな、聞くものよ」
親分…いるの?
「あぁ、私ら従属の神と区別をつけるために主属神って呼ばれている」
天使が笑う。その体は徐々に光の粒に削れていく。
「悪魔が神を語るか?」
「……そうだな……」
ニアの静かなつぶやきの中、天使はかき消えていった。
「さらば…だ」
…ニア?殺したの?
「神や天使の―――悪魔もだが―――死は、人と概念そのものが違う。そういう存在は死なねえ。この世界では…な」
でもっ!
「何度でも生き返れるんだ。本体は別の次元に存在するからな」
ニアも…なの?
「……あぁ、私は死なない」
プロパティが静かに書き換えられた。
「そういえば、ボクの姿が変わったことに気付けていたね、ボクより魔力があったの?」
「ない、だが気付けるようにプロパティが設定されていたんだろうな」
「プロパティの書き換え…で?なんでもできるんだね、プロパティって」
「あぁ、そうだ。なんでもできるんだ……」
雨は、再び強く降り始める。
まだ、終わりではない。
「はぁっ!!!」
石原の攻撃は確かにそいつに当たっていた。
しかし、まったく効いていない。
金髪の髪が風に揺れた。
「衝撃波が利かないとは、…ならば拳でたたくのみです」
「無駄だ」
石原は一瞬で金髪の男との距離を詰める。
拳は確実に鳩尾に入った。はずだった。
しかし、金髪の男は次の瞬間には石原の後ろに立っていた。
「これが番長の実力…」
「この程度か」
金髪の男の拳がうなる。
一撃に見えた。
十二発の拳が、である。
石原に耐える体力は残されていなかった。
すべての石原の攻撃はかわされていた。
相手の攻撃だけが、確実にヒットしていた。
徐々に体力を削られ、今の瞬打で決着がついた。
「歴代ユピテルでも最強と呼ばれた男の実力がこれか…弱すぎる」
「お……お譲さ……ま…」
石原の震える手が眠れる愛子に向けられる。
そこで石原は気付いた。
石原と愛子の間には金髪の男が立っている。
石原にごく近いところに、だ。
手がおかしい。
手が、
手が金髪の男をすり抜けている。
「あなた…は?」
「俺は番長だ。この世界を終わらせるために来た、番長様だ!!!」
「…い?」
そこで石原は、倒れた。
「地か。他の奴らはどうしたっ」
地と呼ばれた男は何も語らず、ただ首を振る。
「やられたか」
地のその答えは無言だった。
「まぁいい、この無敵番長直々に世界を壊してやる。今ある魔法世界を、なっ!」
高笑いが辺りを覆う。
その男、幽霊につき
石原の最後の言葉はむなしく空に消えた。
