ONCE MAGIMAGI -13ページ目

恋の行方・真田優希

「この娘はもらったー!」

学祭もせまった、二学期のある授業中のことである。

史奈子がさらわれた。

あれは確か、オリンポス十二神の一角、狩猟の神ディアナだったか。

後で知ったことだったが、学祭に向けて演劇のメンバーを、盛り上げ主任で十二神が一角、酒と演劇の神バッカスに頼まれてディアナが勧誘していたということらしい。

その白羽の矢が、金髪美少女(他称)夏木史奈子に当たった。

優希は混乱して危うく光弾を放つところだった。

その日から史奈子は演劇部に、仮部員として参加することになる。


「チャーンス」

火だ。

「ナデシコとかいう、邪魔がいない間にダーリンを、くっくっく」

そして放課後。

「ダーリーーン」

「紅さん」

火、ヘッドスライディング。

古っ。

「なあ、優希、今度の日曜日どこかへ行かないか?」

「何であなたがここにいるんだい?」

「あ、火さん」

火がコスモスと優希の間に立つ。

「あら、肝心な時にいなかった火さんじゃないかしら」

天空船での戦いのことである。

「あの時は修行中で……って、そんなことはどうでもいい。あんたが今なんでここにいる?」

「それは―――」

天空戦の時に命を救ってくれた優希に恩返ししたい。言おうとして、性格が、生き方が邪魔をする。

「なんでもいいでしょ、それより優希って…」

「お兄様ー、今度の休みにうちへ来てですわー」

「中等生!」

愛子だ。

本当の妹とわかって以来、優希はどういう顔をしていいかよく分からず、少し避けていたのだが、愛子にしてみれば何も変ったことはない。

いつもどおりに接してくる。

「い、家?」

「お父様に紹介しますわ」

「な、な、な」

それは普通、婚約の儀式と、勘違いする。

もちろん火もコスモスもご多分にもれず。

愛子からすれば、本当の父親との再会を演出したいところだろうが。

「中等生ーーーっ!!!」

「きゃ、なんですの?」

「ゆーちゃんは渡さないんだから」

「姉さん!」

芙由だ。

「ゆーちゃん、今日こそは禁断の愛に目覚めるのよー」

「おばさんは去れ」火。

「あーら、化粧の濃い小娘だこと」芙由。

「お兄様?」愛子。

「なあ優希、それで、今度の休み―――」コスモス。

「って、いな―い」

優希は逃げ出した。


「おー、色男」

「桜」

学校を出る校門の前で。

「大変だなお前も」

「はは、桜程じゃないよ」

二人の関係は、すでにいつもの距離に戻っていた、ように見える。

まだ、わだかまりが完全に取り除かれたわけではない。

それでも長い付き合いだ。

表面上は、普通どおりだった。

「ナデシコ、頑張ってるぞ」

「うん、ボクも」

魔法の練習は欠かさない。

最近、優希はマジックキャンセルの修行を中心に頑張っている。

SSフィールドがはれるようになった今、世界律変換法を実行するには、このキャンセル魔法が欠かせないのだという。

理屈は知らないが、魔人がそう助言してくれた。

最近では放課後、近くの公園で、その練習にも魔人に付き合ってもらっている。

そのおかげか、魔法の腕はどんどん上達していた。

「学祭が終われば、生徒会長占拠だ。今度も俺が勝つぜ」

「ボクも負けない」

そのあと二人は世間話をしながら帰った。

しかしどこかで歯車は、ずれていた。


毎日がその繰り返しだった。

女の子四人に言い寄られ、桜とは心がかみ合わない会話をして、

そして史奈子には授業中しか会えない毎日。

史奈子は休み時間も劇の練習を欠かさなかった。

台本を見たり、何かを書き込んだり。

優希に分かったのは、その台本がボロボロで学祭まで持ちそうにないこと。

日に日に予想を超えてボロボロになる、その台本を、優希はどこか嫉妬に近い感情を覚えていた。

ナデシコと普通に話したいな。

しかしその願いは、なかなか叶わなかった。

たまにあいさつをした。

体は大丈夫か、と気遣いの言葉も掛け合った。

ただそれだけだった。


学祭が始まった。

史奈子のいない日常は、思ったより優希に負担だった。

会えない悲しみを忘れようとして、魔人との練習に余計な力が入った。

キャンセル魔法は、力より正確さが、より強く問われる性質を持つ魔法である。

余計な力は、生傷を絶えなくつくった。

ナデシコの舞台だけは見なければ。

その思いが強く、史奈子の舞台は午後からだったが、体育館で朝から席を取っていた。

疲れからか、午前の部の演目、吹奏楽部による演奏が終わったあたりから、優希は眠りについた。


周りが騒がしい。

優希は眼をさます。

ちょうど史奈子の演目だった。

オリジナルの題目だったが、途中からでもストーリーは、なんとなく読めた。

ありきたりの話だったからでは、ない。

史奈子の演技力が、複雑に絡み合う人間模様を単純化させていた。

ただ愛することを、伝えていた。

史奈子の役は、乙女の恋を純粋に演じきっていた。

優希は、いや、おそらく見ている人すべてが、史奈子の恋の行方に一喜一憂していた。

それはまるで魔法のようで………。


その演目は、大盛況のうちに幕を降ろした。

女子生徒のうちには、涙を流している人も見受けられた。

男子生徒の目は、ハート型に血走っていた。

史奈子は、一躍有名人になった。

金髪で目立つというだけではない。

その実力を、みんなが認めた。

魔法学園で、魔法ではなく演技力で、みんなを認めさせた。

それは、前代未聞の素晴らしい出来事だった。


ただ、優希には史奈子が、遠くに行ってしまったようで、言いようのない感情に襲われていた。

なにか、体の一部が欠けてしまったような。

だから、その盛り上がりが一様に収まった後、優希は史奈子に話しかけた。


史奈子の着替えが終わった更衣室の扉の前で、優希は話しかけた。

裏方なので、人はあまりいなかった。

「すごかったよ、ナデシコ」

「ありがとう、ユウちゃん」

そういえば、ナデシコ、いつからかボクと話すときに、どもらなくなった。

「なんか、ナデシコが遠くに行ったみたいだった」

何を言っているんだ、ボクは。

それに対する史奈子は少し困った顔で、

「私も感じた」

「ユウちゃんが、遠くに行ったみたいで」

「ボクが?」

何で?

「SSフィールドを張れるの、一年生二百人以上いて四人だけだよ。兄さんと、火さんと、紅さんと、ユウちゃん」

「この学園に入学できた人なら、いつか張れるようになるよ」

「でも、でもでも、私は今見たい。ユウちゃんと同じもの、おんなじ所に立って、今」

「なんで……」

史奈子は戸惑った。

何かを言おうとしている。

でも言葉にできないらしい。

なにか、失敗したくないこと。

間違ってしまったら、多分もう、なくなってしまうこと。

それでも、史奈子は言った。

いつかは通らねばならない道。

思い焦がれた道。

怖くても、自分が自分でいたいなら、絶対通らないといけない道。


「好きなんだよ、ユウちゃんが」


「大好き」


わからない。

優希は、止まる。

考えなければならない。

答えは決まっている。

でも、今それを言うべきなのか、

どうなのか、

わからない。

「ありがとう、言いたかったの。これからもお良い友達でいましょうね」

―――え?

だめだ、今を逃したら―――。

史奈子が立ち去ろうとする。

優希は反射的に史奈子の腕をつかむ。

つい力が入る。

でも、この手だけは、離しちゃいけない。

「ボクも、ナデシコが―――夏木史奈子が好きだっ」

「―――」

史奈子は一瞬あっけにとられる。

意味がわからない。

何か、幸福なことだけ分かった。

次第に実感がわいてきて。

その名を呼ぶ。

「ユウちゃん?」

「前にも言った。たとえ世界がボクの敵でも、史奈子さえ味方なら、ボクは立ち上がれる。何度だって。君を守る」

「―――」

「たとえ、すべてを失っても、史奈子だけは失いたくない。すべてと引き換えにしてもいい」

「―――馬鹿」

「馬鹿になっても君を忘れない」

「―――当たり前だよ」

「そう、当たり前にしよう、二人が二人でいることを―――」

「うん―――うん」

「史奈子、ボクと付き合ってください」

その言葉だけ、伝えたくて。

何年も、何年も思いだけが積り重なって。


晴れて二人は付き合うことに―――。


「おい、しーちゃんだ」

「しーちゃん親衛隊、只今参上!」

何か、すごいものが出来上がってる。

先ほど、演目が終わったばかりなのに。

「あの男を消せー」

「神聖なるしーちゃんに、近寄るものに制裁をっ」

「―――!?」

「逃げよう」

優希は逃げ出した。

しかし、その左手は愛する人をちゃんと捕まえて。

「ははっ」

「ユユユユユユウちゃん」

またどもってる。

やはり二人は変わらない。

これからも。

ずっと。



逃げろっ!