こんばんは。

大好きな安城市の在宅医療に貢献したい!

日だまり訪問看護ステーション

看護師 山田万理です。

 

 

 

 

 

今でこそ、私のように

女性が起業して会社経営をしたり

大手企業の重役に起用されて

男性と肩を並べて働くことができますが

1985年に男女雇用機会均等法が制定される前は

女性が労働の対価を得るのが難しい時代でした。

 

その時代に全国を駆け回り

美容部員の育成をして

その業界の会長になった

強く優しくしなやかなMさんが

7月4日18時4分 ご家族に見守られ

旅立ちの時を迎えました。

 

娘様お2人が

エンゼルメイク(死化粧)をしながら

 

だんだんお母さんらしくなってきたね

口紅口紅はどれにする? 

こっちがお母さんらしくない?

お母さんはオーラが違ったよね

存在感がスゴイ人だった

手がやわらかい 爪もキレイ

だってさ家事はお父さん任せだったもんね

お母さんさ、たくさん稼いでいただろうけど

何十万とするスーツをためらいなく買うし

私たちにも気前よく御馳走してくれて

お母さんの辞書に貯金ってなかったよね

 

先駆者として働いた母親への敬意や

そのためにどれだけ家族が

サポートしてきたか

母親が自分を大切にする人であったこと

愛や幸せを与える人だったことを話しました。

 

愛される人って

自分に対しても誰に対しても

ギブ&テイクのバランスを取るのが

上手だと思う。

 

 

Mさんとの出会いは1年前の5月です。

脳出血で入院治療して

リハビリ転院先で脳梗塞を発症して

寝たきり状態になりました。

脳梗塞の後遺症により

失語症や嚥下機能(飲食すること)障害

排尿障害があって、胃ろうで栄養管理

膀胱留置カテーテルで

排尿管理をしていました。

 

Mさんは認知症からくる記憶障害もあり

意思決定能力が不十分です。

なので家族が療養場所や望む医療を

本人だったらどんな選択をするだろうと

推測して代理意思決定をします。

 

愛犬がいる暮らし慣れた家で過ごすことが

Mさんの幸せだろうと思って

ご家族が在宅介護を決めたのが

出会いのきっかけになりました。

 

訪問看護の目的は

健康管理、膀胱留置カテーテル管理

排便処置(浣腸と摘便)、介護指導

緊急時対応で

毎週火曜日に30分未満の訪問でした。

(膀胱留置カテーテル交換日は60分未満)

 

Mさんは幸いなことに仮性球麻痺といって

食べる機能が完全に消失したわけではなく

リハビリ次第で機能回復が望める状況でした。

 

リハビリに必須なのは、食べたい気持ちと

嚥下(噛む、飲み込む)に必要な

筋力をアップすることです。

 

Mさんは美容部員育成のために

講演することや接待を受けることが

多々ありました。

食べることが好きで

話をすることが得意なMさんだったので

機能回復が早く退院時には

生命維持に必要なカロリーを

口から摂取できるようになりました。

 

胃ろうは栄養を注入する目的だけでなく

薬を確実に投与できるメリットがあります。

 

食欲低下した時に栄養を注入するためと

苦くて飲みにくい薬を確実に投与するために

しばらく胃ろうを

残しておくことになりました。

 

胃ろうから栄養管理する場合

通所施設や入所施設の

受け入れ条件に合わなかったり

枠が少なかったりして

利用制限がかかることがあります。

 

また膀胱留置カテーテルで排尿管理していると

発熱、血尿や痛みなど感染を疑う時や

尿量が少なかったりカテーテルが

閉塞しかけると

介護者に連絡が入りお迎えや

病院受診を促されることがあります。

介護者がフルタイムで仕事をしている場合

業務に支障が出ることになります。

 

Mさんは介護保険サービスの1つである

『小規模多機能型居宅介護』を使って

在宅療養することになりました。

 

小規模多機能型居宅介護とは

・デイサービスへの『通い』

・施設での『短期間のお泊り』

・ヘルパーが『自宅に介護のため訪問』

3つのサービスを自由に組み合わせて

介護度に応じて定額で利用できるサービスです。

 

通常のデイサービスと違って

ヘルパーがお迎えに来て

オムツ交換や更衣など出かける支度をして

送迎車まで付き添ってもらえたり

ヘルパーが1日3回介入しても料金は変わらないし

デイサービスの利用も

食事だけ、入浴介助だけなど

部分利用することができます。

 

短期間のお泊りを月に数回利用できるし

介護者に急用ができた場合に

緊急措置としてお泊り対応してもらえます。

 

素晴らしいサービスなんですが

物事すべてに一長一短あるものです。

 

このサービスのデメリットは

介護度に応じて決まっている定額料金が

支給限度額の大半を占めてしまうので

介護ベッド、車椅子など福祉用具を

レンタルして残りの単位数で

訪問看護を利用する場合は

月2回~週1回程度しか利用できないことです。

さらに、訪問入浴サービスは

利用できないことになっています。

 

2021年に他界した義父も

『小規模多機能型介護』サービスを

利用して在宅療養していました。

 

義父は10万人に1人が発症する

大脳皮質基底核変性症という神経難病でした。

 

訪問看護の利用方法は

・介護保険(要支援1~2.要介護1~5)

・医療保険(後期高齢者医療保険、社会保険など)

・自費サービス

3つの区分があります。

 

制度がややこしいのですが

訪問看護は介護保険が優先されます。

特例として、がん末期状態や

義父のような神経難病など

厚労省が認定している16特定疾病の場合は

医療保険が優先されます。

またこの場合は通常週3回までが限度の

訪問看護の利用制限がありません。

 

義父は医療保険で訪問看護を利用していました。

 

参考にどうぞ

  下差し

 

Mさんは週に4回のデイサービスと

娘様の仕事の繁忙期に数日お泊りをして

在宅療養をしていました。

暮らし慣れた家には愛犬がいて

訪問看護に伺うと

愛犬がお腹を見せながら

かまってアピールをします。

可愛くていつも癒されていました。

ペットと暮らせるのは在宅療養の醍醐味です。

 

穏やかな日々が続きました。

 

1月のこと。

お孫さんがコロナ禍のため

延期していた結婚式を挙げることになりました。

医療の現場では『おめでとうございます』と

口にする機会はとても少ないです。

 

訪問看護師で良かったと心から思える

お仕事をさせて頂きました。

 

訪問看護の自費サービスを使って

お孫さんの結婚式に同行させてもらえたのです。

ハッピーオーラに溢れる空間で

心からの笑顔がたくさん咲いていました。

  

 

 

 

結婚式のあと訪問したら

すっかり忘れているMさんの口ぶりに

ずっこけそうになった。

認知症の人は

その瞬間を楽しむ天才なので

ユーミンの音譜やさしさに包まれたならを

口ずさんでいたMさんの幸せそうな笑顔を

私が覚えていればいい。

 

結婚式でフランス料理のフルコースが食べれて

スパークリングワインを飲みました。

薬も内服できるので

胃ろうは不要と判断しました。

 

胃ろうや膀胱留置カテーテルなど

異物を体に留置することは

感染が起こりやすくなります。

不要なら取り除いた方がいいのです。

4月に胃ろうを抜去しました。

 

 

 

 

 

6月から時々熱が出て

尿量が減り血尿を認めるようになりました。

デイサービスに行けない日もあって

食べることが好きなMさんが

食べたらと吐きそうと言って

少ししか食べないのです。

熱と血尿は感染兆候なので

膀胱留置カテーテルを交換して

かかりつけ医は抗生剤を処方しました。

 

一時的に改善して食べれるようになり

デイサービスも再開しました。

 

今年は梅雨入りが早くて

暑さとジメジメとした湿気で

不快指数が高い日が続きました。

そのせいか熱は下がり尿が正常になっても

デイサービスから帰るとぐったりとしていて

食べることを楽しむことはなく

眠っている時間が多くなりました。

 

食べれない寝てばっかりいるときは

人生会議のタイミングです。

  

 

人生会議というのは

どこでどのように生きるか

生命の危機的状況でどの程度の医療を望むか

本人と家族、できれば専門職を含めて

話し合って決めるプロセスを言います。

 

4月に胃ろうを抜去したので

確実に栄養摂取する方法がありません。

採血の結果、

炎症反応は治療を要するほどではなく

体調不良は脱水症が懸念されました。

 

ご主人と娘様と看護師で話し合って

娘様は関東の医療機関にお勤めの

医師のお孫さんに相談して

認知症のご本人に代わり

数日点滴をして経過観察することを決めました。

 

かかりつけ医に話し合いの結果を報告して

連日の点滴を開始しましたが

体調が良くなるどころか

39℃台の高熱が出て

呼吸状態が悪化しました。

感染が疑われますが

内服ができる状況ではないので

抗生剤も点滴することになりました。

解熱剤は座薬で投薬しました。

 

それでも状態は改善しません。

不可逆的な変化が起きていると予測されました。

つまり看取り期に入ったということ。

 

今のまま在宅医療を継続するか

24時間医療体制の入院治療を希望するか

ご本人がどこで最期を迎えたいか

家族はどこまで寄り添えるか

自宅看取りができそうか

医師を交えて検討すべき課題が出てきました。

そこでかかりつけ医に往診依頼をしました。

 

 

 

 

 

6月30日

病状と治療の推移と

今からだに起きていることが話され

入院治療と在宅医療を継続する場合の

違いを説明してもらい

ご家族が理解納得した上で

最期まで家で過ごすことが決まりました。

 

自宅で看取ることが決まったら

介護保険サービスを調整して

ご本人と家族が穏やかに過ごせるように

しなければなりません。

 

Mさんが利用している『小規模多機能型介護』は

デイサービス、ショートステイ、ヘルパー

この3つのサービスが定額で

無制限で利用できますが

3つのうちの1つだけ

もしくはどれも使わないとしたら

もはやそれは『利用』ではなくて

『寄付』になってしまいます。

 

Mさんは日中ご主人と過ごしていて

フルタイム勤務の娘様が主介護者です。

市内在住の娘様の協力もあります。

訪問介護(ヘルパー)は必要ありません。

寝たきり状態となった今は

デイサービス利用も不可能です。

また、ショートステイは

看取り対応はしないので適応しません。

 

つまり

3つのサービスを利用しないことになります。

 

今、Mさんに必要なサービスは

快適に過ごせて介護がしやすい

介護ベッドやマットなど福祉用具の工夫です。

 

それから毎日の訪問看護で

適切な医療を受け苦痛緩和されて

身体を清潔に保ち快適に過ごすこと。

看取りをするご家族の不安を和らげ

穏やかに介護ができる環境を作ること。

 

『小規模多機能型居宅介護』における

デメリットは訪問入浴が利用できないこと。

連日高熱が続き汗をかいていたので

入浴してさっぱりとした気分で

過ごしてもらいたかった。

寝たまま体拭き、足湯や手浴、洗髪をしても

入浴に勝る爽快感はないですから。

 

小規模多機能型居宅介護を利用している場合

専任のケアマネジャーがいます。

このサービスを利用しないとなると

居宅介護支援事業所とケアマネジャーを

変更しなければなりません。

現ケアマネジャーに早急に

後任を探して引継ぎをしてもらいました。

 

後任ケアマネジャーが早速

訪問入浴業者と調整して

7/6に予定されました。

 
 

7月1日

関東の医療機関にお勤めのお孫さんに

近況と往診結果を電話でお伝えしました。

医療職なので状況把握が早いです。

『急変リスクが高く

数日以内にお亡くなりになる可能性が高い』

と伝えたら職場の理解が良いのか

スケジュール調整ができて

7/4に帰省することになりました。

 

7月4日 9:30

高熱と血圧低下、無呼吸を認め

酸素飽和度は74~84%

足先が冷たくなってきました。

抗生剤点滴と水分補給の点滴が

お孫さんが帰省するまでの

時間かせぎになることを願う。

 

同日 13:30

点滴終了、体は燃えるように熱く

汗をかいています。

なるべく負担をかけないように

体拭きとオムツ交換をして

身体を清潔に保ち

身だしなみを整えました。

 

残された時間が数時間と思われ

覚悟を決める時であること

会いたい人会わせたい人に

連絡するように娘様に伝えました。

 

17:20 緊急コール

「息を引き取りました」

娘様からでした。

残念ながら

お孫さんは間に合わなかったけど

娘様家族、ひ孫さん

お孫さんの彼女まで

たくさん集まっていました。

 

Mさんは自分を愛することができる人で

分け隔てなく愛を与える人でした。

 

Mさんに愛された誰もが

Mさんの人生は幸せだったと思うと

表現していました。

苦労もたくさんしただろうけど

やりたいことをして

人生を楽しんで生きた人。

周りの人まで幸せにしてしまう人。

 

 

 

 

 

私は世間一般的に

キャリアウーマンと呼ばれます。

それが成立するのは

家族や友人の支えだったり

同じ志を持つスタッフのおかげです。

毎日感謝の日々を過ごしています。

 

看護師人生において

失敗から学んで糧にしてきたし

常に自分のベストを尽くしているので

後悔はありません。

 

一方で母親としては

後悔ばかりしています。

子供会の役員やPTAの副会長だった時は

多忙だったけど

母親をしている実感がありました。

 

でも、看護の仕事に夢中になるあまりに

子供たちの成長を見逃してきたし

年中無休の会社を経営しているがために

時間管理が難しくて体力不足もあいまって

部活動の大会の日は

お弁当作りから送迎に至るまで

旦那さん任せです。

私が弁当の日を忘れているのを

旦那さんが気づいて

作って子供に持たせてくれた日は

情けなくて泣きました。

 

看護の仕事において

もっとうまくやれたんじゃないかという

未消化な思いや課題は

頂くご縁に活かすことができるけど

子供たちの成長を見逃してきた後悔は

取り返しがつかない。

 

エンゼルケアを終えて退室するとき

「お見送りさせてください。

山田さんのこと応援しています。

体を大事にして頑張って下さい」と

母親の存在を誇りに思い

支えてきた娘様お2人から

温かい言葉を頂いて

掬われたしありがたかった。

 

『そのまま進めばいいのよ』

キャリアウーマンの大先輩が

ほがらかな笑顔で

エールを送ってくれた気がした。

 

 

私の背中を見て育った子供たちが

母親の役割を果たせないことに

ジレンマを感じながらも

使命を追求して生きている女性に

いつか慰めの言葉をかけてくれたら

私が今抱えている思いが消化できそう。

 

受け取った愛や手にしたお金を

分け与えて

まっすぐにひたむきにしなやかに

笑顔で生きていきたい。

 

 

 

それでは今日はこの辺で。

最後までお読み頂き

ありがとうございました。