【鼻先の寒さ】

 寒さが応える。髪を切ったせいかもしれない。気がつくと洟水がじわりとにじみ出している。うっかりするとタラリと流れ出す。拓郎ではないがこんなことはなかった、こんなことは。そのうちに惚け、洟を垂らしながら市中を徘徊するようになるのかもしれない。洟をたらした爺である。

【しめて25両】

 その恍惚の気配を察知してのことなのか、郵便局の貯金をおろそうとしたら局員がしつこく質問してくる。人の金なのに、「何に使うんですか」というのである。

 株の利確を一部現金化してみたものの、使うあてが何もなく、仕方がないのである使途を思いついた。すると、前回におろしたのでは不足するため、追加で15両相当をおろすことにした。その際のことである。

【騙されそうな恍惚ぶり】

 連中がそういうだろうと予期していたので、申請時に黙って免許証を添えた。同時に株の配当金領収証の換金も依頼した。金融事務手続きに遺漏なく、正常な精神状態にあるから余計な心配をしないで欲しいとの、言外の要求でもあった。しかしその効なく、詐欺注意を喚起するパンフレット交付と共にいわれてしまったのである。

 ムカッとするのは、それが、あなたは惚けて見え、正しい金融取引が不可能で、まんまと詐欺に引っかかるようにしか見えないので確認するね、といわれたも同然だからだ。よくそんな無礼なことがいえるものである。

【上に命じられて人を怒らせる人たち】

 詐欺られるご老体が多いことは承知している。今日も何億円かの金塊を騙し取られた事件が報じられていた。その防止のために、確認するようにとの通達が上の方から発せられているのだろう。末端の局員がそれを無視したりできないことや、しぶしぶ従っているのだろうことも推量する。客よりも組織論理を優先させているのだ。しかしそれが当方に向けられるとなると、感情を害さずにはいられない。自然な反応というものである。

【洟を垂らして金】

 人の心配をするより、運転前の点検やフリーランス法を無視していないか、自分たちを律することを先にやれ、と怒鳴りたくなる。

 いやいや、そういうふうにい怒りを爆発させることこそ老化の証しである。それにひょっとすると、窓口に立ったときに、洟を垂らしていたからかもしれないしね。