前回までのあらすじ
メールを残し蒸発した若手社員(仮名・ファンニステルローイ)を探す
みかんせいじんは、彼の下宿の大家さんと共に彼の部屋を開けるが、
匂わないゴミで荒れ放題の部屋には誰もいない。
「お互いこの部屋はみなかったことにしましょう」
「そうだね、面倒はごめんだよ。でも・・・すごいねえ」
大家さんも相方の申し出に賛同した。
「テレビつけっぱなしで行っちゃったんだねえ」
部屋を元通りにして鍵を閉め、大家さんと別れた。
誰もいない南へ行く、という文字を見た時から北海道の実家に帰ったのだろう、
と相方はほぼ確信していた。わざわざ身寄りのない所に行って死ぬ気になる度胸があるなら
恐らくはじめからこんなトラブルを起こすはずがない。
大家さんから聞き出した実家に電話をかけ続けたが、誰も出ない。
今日は勘が冴えていると思ったけど、最後に来てはずしたかな・・・
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結論としては相方の勘は当たり、次の日の朝電話をかけると
母親に堰きたてられた本人と電話口に出てきた。
彼の実家は北海道の××空港から100㎞以上離れた町にあり、
往復車でたっぷり4時間はかかるため、両親で送迎に向かった為電話に出なかったようだ。
とにかくこういう形で会社を辞めるのは良くないよ、と説得して
仕事の引継ぎをしてから辞めてもらうことにした。彼の父親が
「失業保険をすぐもらえるようにしろ!」と電話口で怒鳴るという騒ぎはあったものの。
その後彼が何をしているかは知らない。が、この問題は解決した。
しかし、1つだけ謎が残った。
洗濯物を干しながら「引っ越しましたよ」と言ったおじさんは何者だったのか。
彼が実家に泣きついたか何かしたため父親が連れ戻しに来たと考えるのが妥当だが
電話で話した父親の声とは違うし、彼も1人で帰ったと言う。
「君は引っ越したって言った人がいたんだけど・・・」
「え?」彼は誰からもそのようなことを言われる心当たりがない様だった。
会社では「みかんさん、幻でも見たんちゃいます?」と社長に笑われて片付けられた。
あれは何だったんだろう。誰が何の為に嘘をついた?
思い出す度に引っ掛かる。まるで部屋の隅に出し損ねた匂わないゴミのように。
自分も自分の知らない所で誰かに小さなデマを流されているかも知れないんだけれど。(終)