静かな早朝の墓地に、人影はなかった。
メアリとジョンのロック母子は、同じ石の下に葬られていた。
警察はいまだに消息のわからないサイモン・ロックを、不審火の何らかの事情を知っているかもしれない人物として捜索しているが、その行方は決してわからないだろう。
碑のまえにうずくまっている彼、彼はいつもひとりぼっちだった。誰かに助けてほしいと願っていた。
母さんも兄弟たちも、なぜあんなに僕を嫌ったんだろう?
「お前は犬に生まれるべきじゃなかった」
母さんは何度もそう言ったっけ
それに人間
一度話しかけただけなのに、「こいつテレパシーを使いやがった。超能力犬って、どのくらいで売れるだろう」なんて・・・
僕、何も悪いことしないのに、なぜみんな僕を追いまわすんだ?
この子は、この子だけはわかってくれたのに・・・
僕をいじめっ子からたすけてくれて、心で話しても、「お前と俺はもう、友だちだ」って・・・
ジョン、僕を守ってくれたジョン・・・
ごめん、僕、あいつらことが怖くて、隠れて震えるばかりで何もできなかった・・・
ふと、彼は物思いにふけるのをやめた。誰か、温かい声で呼びかける人がいる。
(ロック・・・)
勇悟は樹の陰から、そっと歩み出た。勇悟も震えるほど怖く、それ以上に喜んでいた。呼びかけて、応えてくれる相手がいる日々が、今始まろうとしている。
(おいで、ロック。それが君の名前だったんだね)
子犬は嬉しそうに起き上った。そして弾かれたように駆けだした。力強く地面を蹴り、両手を広げて待つ勇悟の胸へ向かって飛んだ。
共鳴する二つのエネルギーが、互いの間に虹色の光の架け橋を渡した。
子犬はその橋をゆっくりと渡り、温かな胸に飛び込んだ。
「ロック、これからは僕が守ってあげるよ」
勇悟は生まれて初めて出会えた親友を、右手でやさしく撫でながら言った。
八月。夏の日差しが南風に揺れている。二つの魂の喜びのせいか、その日の風はやさしかった。
Fin.