『ふがいない僕は空を見た』窪美澄/新潮社 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

ふがいない僕は空を見た
窪 美澄
新潮社
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「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位。「2011年本屋大賞」第2位。第24回山本周五郎賞受賞。第8回「女による女のためのRー18文学賞」大賞受賞とういことで、性描写など過激な部分が多々あるが、その剥き出しの「性」の存在が人が生きる「生」と絡みあい、物語の強靭ないテーマとして描かれていく。

家に帰るなり女のでかいあえぎ声が聞こえた。おれのおふくろは助産師で、自宅でお産の介助をしている。つまり、俺の家は助産院でもあるわけだ。たいして防音設備が整ってない普通の民家だから、産婦さんの苦しむ声はこの家のどこにいても聞こえる。ちんこを入れたときも、その結果としてできた子どもを出すときも、同じ声っていうのが不思議。お産の、って言われなきゃ、まんまAVの声だもの。そんな声を聞きながら、おれはこの家で大きくなった。
P11


連作短編集ということで短編ごとに主人公が変わり、その誰もが幸福とは程遠い場所にいる。どこかで道を間違えたのか、そもそも始めから道は行き止まりしかなかったのか。グルグルと迷いながら袋小路を彷徨う人たち。人を傷つけ人に傷つけられ生きていく彼ら彼女たちの姿がそこにある。その苦しみを自己責任だと非難することはあまりにも容易い。けれど、ひとりの人間の意思では避けられないことがある。それは生まれながらの環境であったり、誰かをどうしようもなく好きだということだったり。

読み終えると「ふがいない僕は空を見た」というタイトルが胸に深く残る。読み終えたのはもう半年も前なのに、今でもしっかり残っているのがわかる。落ち込んだ時とか、このタイトルを見ると、なんだか心が暖かくなる。こんな風に思える本はあまりない。