芥川賞候補になった『わたくし率 イン歯ー、または世界』が掲載されていて、他の作品も気になったため購入。表紙のペラペラさが尋常ではなく、すぐに捲れあがって大変。収録されている小説は以下のラインナップ。
川上未映子『わたくし率、イン 歯ー、または世界』
青木淳悟『日付の数だけ言葉が』
青山慎治『遊水地の眺め』
鹿島田真希『美しい人』
仙田学『肉の恋』
荻田洋文『ユキチ・コード』
向井豊昭『ドレミの外』
横田創『嘘で塗りかためられた人生』
中原昌也『執筆委任』
他にも斉藤美奈子と森達也の対談や評論、寺山修二の小特集などが掲載されている。
一般小説ばかり読んできたので、こういう実験的な雰囲気の純文学はあんまりよく分からない。青木淳悟や青山慎治など有名どころも今回始めて読んだが、さっぱり理解できなかった。中原昌也『執筆委任』も何やら目の前にいる女性に対して小説を書けと延々語りかけているという、実際に喋ったのをそのまま文章にしたんじゃないのかと思われる短編で、何だろうこれはと思っていると最後には早稲田文学新人賞募集の告知ページになって審査員が中原昌也というネタなのか小説なのかよくわからないものになっている。そんな中で僕なりに楽しめた作品をいくつか紹介。
『わたくし率 イン歯ー、または世界』川上未映子(著者のブログ )
前回の芥川賞候補になった作品。これを読んだら芥川賞を受賞した『アサッテの人』がものすごくフツーの小説の思えるほど混迷を極める内容になっている。自分のアイデンティティは歯なのだと激しく主張する女性が主人公。勤務する歯医者で同僚に苛められながら、いつか生まれるかも知れない未来の自分の子供に向けて手紙を書いていて、その文面でなかなか会えない恋人への思いを綴ったりしている。タイトルは変だが、それは内容が変だからなのであって、このタイトルは内容から考えると的確だ。
鹿島田真希『美しい人』
二つ年上の兄を愛する15歳の妹の、崇拝の念と鬱積した感情と屈折した憎しみと自虐の思いとが入り混じる。このラインナップのなかでは一番の直球。仰々しい文体で熱い想いを綴っていて兄はヘッセの「デミアン」を読んでいたりと高尚な雰囲気がありつつも、その傍らで老人ばかりの町内会の話題とか、豆腐買ってきてと頼まれたり庶民派な空気も流れるなど、愛憎以外にも様々に裏表が入り混じっていて独特の読み心地が楽しめた。
仙田学『肉の恋』
僕がホラー短編アンソロジーをつくるなら、ぜひ入れたい。スーパーで売っているスライス肉が異常に好きな女性の物語。純文学として真剣に読み込んだらスーパーの肉が食べられなくなりそうなので、これはホラー小説ということで流しておきたいところ。
荻田洋文『ユキチ・コード』
フリーマーケットで散髪をしてもらう話と、寓話的な世界のどかの小国での国王選挙のドタバタ劇が並行して描かれている。僕がそれほど作家を知らないのでもっと的確な人がいるかもしれないけれど、中村航と長嶋有を足して二で割ったような雰囲気を持っているような。ぼんやりフリーマーケットの店をひやかしたり、馬鹿な友人の騒ぎに巻き込まれたりと、取り立てて派手な展開はないものの、ゆるやかな日常の心地よさなどが感じられた。