『新釈 走れメロス 他四編』森見登見彦/祥伝社 | 砂場

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新釈 走れメロス 他四篇
祥伝社
森見 登美彦(著)
発売日:2007-03-13

中島敦『山月記』、芥川龍之介『藪の中』(映画「羅生門」の原作)、坂口安吾『桜の森の満開の下』、森鴎外『百物語』。これらの名作を下敷きとして、森見流のまったく新しい物語として描き直した短編集。堅苦しい文学的な物語を現代的に、さらに森見節で読ませる力量。やはり、モリミーはただ者ではなかった。

大きな流れやテーマを踏襲しながらも、見事に森見節にアレンジして、京都の舞台に繰り広げられる数々の物語。原典を知っていれば、その違いを楽しめるが、そうでなくとも十分に面白いと思う。原典よりも、『夜も短し』を読んでいるほうが森見の独特の世界観に入りやすくていいかも知れない。

文体はどれも森見特有の堅苦しい言い回しを滑稽に使う手法が取られているが、作品ごとに雰囲気は違う。原作との変化のつけかたで言えば『走れメロス』がダントツだ。『夜も短し』で登場した「詭弁論部」の本領発揮というところで、詭弁に全力をつぎ込み京都を縦横無尽に疾走するさまは、拍手喝采、非難轟々の大盛り上がり。

自らの才能を過信し、敗れ去った男が異形の元と化す『山月記』の主人公は、プライドだけは異常に高い男を描かせたら日本随一の森見の本領発揮の力作。それぞれの言動が食い違うために、真相が不明のままで終わる『藪の中』では男女の三角関係を描かれているが、ここでもそれぞれのプライドを守るため、また傷つきたくないという思いがあり、それら自意識過剰さが現実を歪めてしまって、それぞれの言動に大きな影響を与えている。

『桜の森の満開の下』は舞台から人から全て置き換えられているが、原作にとても忠実な内容なので、坂口安吾の方を読んでいるのと似たような気分で読み進めることができ、読後感も近い。原作が傑作とはいえ、この雰囲気をだせるのは見事だと思う。森鴎外『百物語』はこのなかでは知名度が最も低い。僕はたまたまホラーアンソロジーに入っていたので読んだけど、『百物語』というタイトルなのに百物語は起きないし、集まりからも途中で帰ってしまう不完全燃焼な読後感だった。森見の『百物語』はこの本の登場人物たちが一堂に会するという趣向で最終話にふさわしいのだが、やっぱりなんだか奇妙な読後感。奇妙な男について書かれた物語なので、まあ妥当なのだが。

読みやすいにもかかわらず、読み応えのある内容。僕は原作を知っていたために、比較することに気がそれて、物語に集中できなくて、純粋に楽しむにはマイナスだったかも知れない。選ばれたのは日本文学の名作揃いなので、原作と比べるとさすがに見劣りしてしまうのが当たり前だが、原作の魅力をうまく引き出しているから、面白くないわけがなく、森見自身の持ち味が加わえることによって、あまり文学に興味のない人も楽しめるエンターテイメント作品に仕上がっているのはお見事だと思う。

★★★★★


■関連書籍


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