『十字路のあるところ』文・吉田篤弘、写真・坂本真典/朝日新聞社 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

吉田 篤弘, 坂本 真典
十字路のあるところ

街についての6つの短篇。物語が終わると、その町の写真が何枚か載っている。頭のなかにぼんやりと描かれていた街の姿が、鮮明になって現れる気持ちよさ。なんだか思っていた街と違うなんてことがまったくない。凄い。少し現実味のない夢見心地な物語ばかりだから、そんな在りえない街が、実際に存在することの不思議さにもクラクラする。

といっても写真はどこにでもありそうな街の風景。だが、物語を読んでからだと、それは特別な意味のある街となる。路地裏に佇む自転車。少し傾いた古い家。真っ直ぐと伸びていく線路。十字路。





「師匠」と「弟子」というテーマが入っている物語も多いのも特徴だ。そこに僕の好きな「夜」というテーマが加わった「黒砂糖」という短篇が、いちばん好きだ。吉田篤弘は夜を好んで描く。

僕はいつも同じ質問ばかりしていた。
「先生の話を聞いていると、そもそも驚きとは何だったか、それすら分からなくなってきます。」
「いや、そんなのは簡単だ。驚きというのは、すぐそこにあるもののことだ」
「すぐそこ?」
「いかにも、正確に言うなら、すぐそこにある見慣れたものが、突然、姿を変えてみせるのが『驚き』だ。夜はそれを教えてくれる。そして何かが姿を変えるたび、夜は優しく膨らんでゆく」
「夜がですか?」
「そう、夜は果てしなくどこまでも膨らむ。だから私は夜が好きなのだ。どれほど拾い続けてもきりがない。散歩のしがいがある。この世でいちばん楽しいのはきりのない散歩で、私はまだまだ夜を往きたい。どんどん膨らませたいのだ」