- 奥田 英朗
- サウス・バウンド
本屋大賞ノミネート作品であり、今回の大本命と噂されているのが本書だ。この大本命というのにはまっとうな理由がある。紀伊国屋の書店員さんが選ぶ「キノベス 」というものがあり、2005年度の1位が本書。実は前回、前々回ともキノベス1位が本屋大賞を取っている。書店員が選ぶのだから似たような傾向になるのは当然なのだが、毎回同じだと本屋大賞の存在意義が……。
さすがキノベス1位。とにかく面白い。二部構成になっていて第一部は舞台が東京で、物語の中心は主人公の少年と不良の対決だ。理不尽な要求をしてくる不良に対して怯えながらも立ちむかう。そんな脇で元過激派の父親は好き勝手な生活をしている。家庭訪問にきた担任の先生に君が代論争をふっかけたり、年金の徴収にきた税務署職員と大激論をかわす。ドタバタ喜劇だが、同級生で不良の手下となっている黒木が助演男優賞をあげたいほどの熱演(?)で物語を引き締めて盛り上げる。
そして第二部は沖縄が舞台となる(ものすごい勢いで引っ越した)。電気も水道もない生活に困惑する少年と妹。だが、東京では役に立たない怠け者だった父親が沖縄の西表島に引っ越すと、理想とする自給自足の生活のため毎日毎日働く。額に汗する父親の姿を生まれて初めてみる少年。なんでも物を分けてくれる島民のひとたちや6人しかいない小学校の子供たちとも仲良くなって、西表の生活も落ち着いてくる。そんななか、実は住んでいた家はリゾート開発用の土地であり、立ち退きの要求がされる。その世界では超有名な元過激派の父親からすれば、まさに水を得た魚だ。
元過激派の父親の強烈なキャラクターに魅せられる。本書を読んだ人はみんなファンになってしまうだろう。登場人物たちそれぞれ個性が強く、西表島に引っ越してから毎日が楽しそうで若返ったように見える母親、いつも不機嫌でたまにしか帰ってこない姉などなど、脇役の人たちもそれぞれ印象的だ。それぞれの登場人物たちが元過激派の父親と接するときの距離感の違い、そしてうまく距離感がとれない主人公の少年の成長ぶりなど読みどころだろう。
清々しい読後感。一気読みのできる痛快な小説。ぜひドラマ化や映画化して欲しいと思う。これが本屋大賞というのはかなり「あり」だ。