- 長嶋 有
- 泣かない女はいない
触れあうような、触れあいそこてたような、触れあいすぎたような、人と人との関係。なんていい小説なんだろう。――角田光代
(帯ウラより引用)
主人公の女性は大手電気メーカーの下請け会社に勤める。送られてきた伝票を事務所で処理し、倉庫内でその商品を男の社員たちが運ぶ。近くにコンビにもない辺鄙な場所にある職場。人がいいだけで頼りない社長だから、社内の雰囲気はのんびりしたものだ。OLたちは気ままにおしゃべりをして、男の社員たちは昼休みに野球をする。
ピザの斜塔は完成する前から既に傾きかけていたという。よくみれば塔の上部は辻褄をあわせるように少しづつ角度を変えて、なんとかまっすぐにみせようとしてある。建設に際し、多くの思惑が交錯した結果だろうか。それとも、携った誰もがあまりにも何も考えなかったゆえの産物なのか。
おそらくは後者だろうと睦美は思う。根拠のないのに思うのは、そうであってほしいという期待があるからだ。
(中略)
細心の注意も、万事よろしく事を運ぼうとする抜け目さもなく、ただ運のよさだけで立ち続けているということ。なんだかとても救われる気持ちがする。睦はそう思いながら電車に揺られる。
綿密な設計図をもとに人生を歩む人がいれば、ゆっくりと一歩づつ足を踏み出して足元を確かめつつ進んでいく人もいる。足元を確かめながら歩いていたらつまずかないかも知れない。けど、地面が傾いていることに気づかないだろう。
ぼんやりと何気なく積み重ねた日々が過ぎてゆき、僅かに傾いている自分の姿に気づく。真っ直ぐだと思っていたのに。それは倒れるほどではない角度かも知れない。だけど、泣かない女はいない。