『花まんま』朱川湊人/文藝春秋 | 砂場

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朱川 湊人
花まんま

直木賞受賞作。少し不思議な6篇のノスタルジックな物語。舞台は昭和40年代の大阪。「三丁目の夕日」の雰囲気が好きな人なら楽しめる秀作。


デビュー作『都市伝説セピア』が短編小説の技巧に走りがちだったのに比べると、この6篇はとても落ち着いて雰囲気で読ませる内容だ。生まれ変わりを扱った表題作「花まんま」などベタな話なのだが、ついつい主人公の少年に感情移入してしまい、泣きそうだった。ちなみに、どの物語の主人公も少年少女だ。


友情と差別問題をからめた「トカビの夜」「凍蝶」や、大阪のノリをうまく使い、死者と生者の関わりを描く「摩訶不思議」「送りん婆」など読後感も良くて楽しめる。昭和40年代というのが、絶妙なのだろう。きっと幽霊など不思議な出来事が日常として受け入れられる最後の年代だ。遠くて死んだ親類が枕元に立っても許されそうな気がする。今となっては無理な話だ。


ここには、たとえるなら、宮部みゆき的な人知を超えたものとの不思議な交感と情愛、重松清的なエモーショナルな盛り上がりがある。今年の収穫の一冊だろう。(読売新聞書評欄・池上冬樹)


上記のある5篇は心温まる物語と言っていい。だが、「妖精生物」は違った。著者が日本ホラー小説短編賞を取っていることを思いださせる怪奇短編だ。ホラー好きの僕としてはこういう物語を読むことは至福のときなのだが、「三丁目の夕日」の単行本のなかに古賀新一の読み切りが混じっているような激しい落差。あまりに読後感が違うから、これは別物として、後日に分けて読んだほうがよかったかも知れない。


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