- 本田 透
- 電波男
歴史史上初の「オタクによるオタクの勝利宣言書」
もはや現実の女に用はない。真実の愛を求め、俺たちは二次元に旅立った。
本書はジャンルでいうと啓蒙書となる。啓蒙書というと「ビジネスマン」や「女性」に向けて書かれた生き方指南の本だが、本書は「オタク」に向けだ。文化・社会現象としてのオタクを分析した本は多くあるが、オタクに向けて「俺たちこそが勝利者なのだ!」と宣言した本などみたこともない。
現在の社会を「恋愛資本主義」として、資本主義の構造的欠陥である貧富の差(ここでは、もてる人はどんどんもてて、もてない人はさっぱりもてない)が大きくなっている状態と分析する。この恋愛資本主義構造から抜け出し、「萌え」という独自の市場を生み出し、脳内妄想の幸せな世界に生きるオタクこそ勝利者だという内容。
そして、恋愛資本主義的な価値観に捕らわれた「負け犬」本を書いている『負け犬の遠吠え』の酒井順子や『だめんずうぉーかー』のくらたまに喧嘩を売っている。
俺の心のなかで何かがスパークした。こいつらは、「自分はモテない負け犬」とか「自分はダメな男にばかりひっかかるだめんず」とか自嘲しながら、次の瞬間には口をそろえてこう言うのだ。
「それでも、オタク男だけは相手にしたくない!」
(中略)
なんだなんだお前ら! 結局、自嘲しているふりをして、オタクを馬鹿にしたいだけじゃないか! オタクという「自分より下の存在」がいることで安心して「下には下がいるから、自分たち全然大丈夫」と思いこみたいだけじゃないか!
これらの分析にプラトンやらニーテェなどの哲学の概念を取り入れているところも凄い。
ニーチェはキリスト教を「弱者のルサンチマンから生み出された奴隷道徳」であり、人類を衰亡させる原因として糾弾した。人間は神を捨て、自らの意思で生きる「超人」へと進化しなければならない、というのがニーチェの思想の根幹だったが、これは言うまでもなく、神との契約関係に基づいたアナログ女との関係を捨て去り、自らの意思で脳内世界を築き、二次元キャラと萌えまくる「オタク」への進化を予言していたわけである。
予想より読み応えがあり、楽しめた。冗談と本気が融合された「電波」男。あとがきで書かれた著者の過去のあまりの悲惨さに、なんだか読後感が重いのが残念。