- 著者: エドワード ケアリー, Edward Carey, 古屋 美登里
- タイトル: 望楼館追想
現在のところ本年度ベスト1。物語の力に打ちのめされたい方にお薦め。
古い邸宅を改造した不思議な集合住宅《望楼館》。他人の愛したものを盗み、収集する《ぼく》をはじめ、住民は奇妙な人物ばかり。人語を解さぬ《犬女》、汗と涙を流しつづける元教師……。裏表紙の紹介文より
時間が止まったような変化のない生活を続ける《望楼館》。7人の奇妙な人物がいるのだが、この建物に新しい住人がやってくることから、この物語は始まる。《ぼく》と元教師は、このよそ者の侵入者を排除しようと画策する。だが、元教師、犬女、テレビの世界に浸って生きている女性が、やがて新しい住人に心を許すこととなる。そして《追憶の時代》が始まる。
追憶の時代には、思い出が溢れかえり、現在がどこかに消えてしまった。いまが何月何日の何時なのか分からず、なかには暦の読み方を忘れる者もいた。それぞれの部屋の様子や持ち物や自分自身でさえも、立ちこめる過去の歴史のなかであやふやな姿になっていた。
忘れられていた思い出たちはやがて現在へと辿りつく。動き始めた時間によって引き起こされる混乱と困惑。そして、《追憶の時代》は終わりを告げ、《沈黙の時代》へと突入する。
というのが中盤までのあらすじ。間違いなく、今年読んだ本のなかで最も面白かった。この独特の空気が読んでいる自分にまで入り込み、軽く眩暈がする。いつまでも読んでいたいと思わせる本に出会ったのは久しぶりだ。
巻末に《ぼく》が盗んだ996点のもののリストがある。本書のなかに登場するものは、ほんの僅かで、ほとんどは見知らぬ品々。「領収書」「使用済みの封筒(白)」「使用済みの封筒(茶)」「白いビニール袋」「ワインの空き瓶」「使いかけの鉛筆」など、これらの品々のひとつひとつが本書では描かれなかった物語を思い起こさせる。本書を読み終えるまえは996点とは多すぎるなと思ったが、今となっては2000点あっても1万点でもいい。それだけで一冊の本がでたら買ってしまいそうだ。