なかなか素晴らしい順位。
僕は個人的な好みで『私が語りはじめた彼は』を1位として投票したが、この結果は満足。本屋大賞は「書店員が選ぶ、いちばん好きな本」ではなく、「いちばん、売りたい本」なので、ほぼ完璧な順位かと思う(三浦しをんが9位なのだけが納得できない。この流れなら4位でいいじゃないか)。得票数でみると『夜のピクニック』『明日の記憶』『家守綺譚』の3強。
順位の分析は最後にして、ランキング順にお勧めポイントを書いておく。大賞がいちばんお勧めなのは間違いないが、他の作品もそれぞれ持ち味があるので、気に入ったのを読むのもいいかと思う。

- 1位:374点
- 著者: 恩田 陸
- タイトル: 夜のピクニック
夜を徹して歩き続ける高校最後のイベント「歩行祭」を描いた物語。とても読みやすく、一気読みもできるので、普段本を読まない人も楽しめる内容。中・高校生なら共感しつつ読めるし、すでに卒業している人ならノスタルジックな雰囲気にひたることができる。思い出を大切にしている人なら楽しめること間違いなし。池上冬樹氏が書評で書いていた「生きていることが嬉しくて、誰かに感謝したくなるような幸福感がひしひしとわきあがってくる」というのが、読んでいてまさにその通りだったので驚いた。名作。

- 2位:302点
- 著者: 荻原 浩
- タイトル: 明日の記憶
記憶を失っていく若年性アルツハイマーになった50代のサラリーマンの物語。ラストシーンの美しさと感動は、この10作品のなかでもダントツではないだろうか。サラリーマンの人や、年齢が上の方ほどより深く共感できることは間違いないが、とても読みやすくて、どんな人でも楽しめるというところも、この10作品のなかでは最強。
- 3位:274点
- 著者: 梨木 香歩
- タイトル: 家守綺譚
こちらは雰囲気や世界観を楽しむ小説。手にとって、数行読んで、「いいな」と思ったら迷わず買いだ。読む進めるのがもったいない、じっくりと味わって読みたい物語。草木や四季の移ろいが好きな人、ひと昔前の日本的な趣に憧れがある人なら必読。犬好きな人も、ぜひ。
- 4位:185点
- 著者: 絲山 秋子
- タイトル: 袋小路の男
現代の純愛小説と絶賛された短編集。一人称で語られる物語だから「あなた」の本当の姿は見えない。神聖視し、崇拝して盲目的に「あなた」のことを想い続ける「私」。視野の狭い主人公の「私」にたいして賛否両論がある、読者を選ぶ物語だ。反感をおぼえるかも知れないが、この「私」に共感することができたらならば、この10作のなかで最も強く心を揺さぶられることになるだろう。
- 5位:155点
- 著者: 伊坂 幸太郎
- タイトル: チルドレン
直木賞候補になった連作短編集。軽く読めて、しっかり楽しめる。ほのぼの系。適当な理屈ばかり言う陣内君が主人公なのだろう。支離滅裂で荒唐無稽なことばかり喋り、その言葉は物事の本質を突いているかと思いきや、ただの自分勝手な意見だったりと、どこまでも憎めないキャラの陣内君。気合を入れて大作を読む元気がなく、ちょっと疲れているけど、何か小説が読みたいなという時には最適。やさしい気持ちになれて、少し希望がもらえる物語。こういう時、陣内君だったらどう言うかな、と考えると平和な気分になれる。
- 6位:153点
- 著者: 角田 光代
- タイトル: 対岸の彼女
女性同士の友情というテーマを描いた直木賞受賞作。直木賞をとっていなければ、これが本屋大賞でもいいと思わせる完成度の高さ。読者を選ばず、読みやすく、感動的だ。読了後の余韻の残しかたは、10作品のなかでも抜きんでている。読後にはぜひカバーを外して、さらなる余韻を味わって欲しい。

- 7位:138点
- 著者: 雫井 脩介
- タイトル: 犯人に告ぐ
劇場型捜査という奇抜な警察小説。10万部突破。週間文春2004年度ベストテン1位。このミステリーがすごい国内編8位。ダヴィンチブックオブザイヤーミステリー&エンターテイメント10位。とにかく読ませる小説で、盛り上がりっぱなしのため徹夜の危険性大。エンターテイメントという意味ではこの中でダントツ。

- 8位:102点
- 著者: 飯嶋 和一
- タイトル: 黄金旅風
硬派な歴史小説。時代検証を徹底するためか、とても寡作な飯島和一氏の4年ぶりの作品。このなかで最も読み手を選ぶ内容なので、逆に好きな人には堪らない一冊。細部まで描かれた江戸時代初期の長崎。その複雑な政治背景や他国との貿易の利益関係、長崎の町の権力構造など読み応えは十分過ぎるほど。大作が読みたいという人なら、この作品で決まりだ。

- 9位:92点
- 著者: 三浦 しをん
- タイトル: 私が語りはじめた彼は
淡々とした残酷な物語。絶望こそが人生であって、幸福とは手の届かないどこかにあるもの。どこにでもいるような人達の物語だ。少しばかり誰かを愛しすぎてしまっただけ。それとも現実を直視しすぎたのか、この物語の登場人物は誰もが抜け殻のようだ。
これが9位というのは納得ができない!僕が1位に投票したのはこの作品。研ぎ澄まされた文章が好きな人ならこの連作短編集は必読。

- 10位:74点
- 著者: 市川 拓司
- タイトル: そのときは彼によろしく
10位といっても最終選考に残っただけはあって、清々しい読後感がお勧めの恋愛小説。愛すべき登場人物たちばかりで、心地よい読書を味わえる。本を読むのは、本人の好みとその時の気分がとても大事だと思う。この物語は、他の10作品にはない「やさしさのこもった文体」「思いやりに満ちた人たち」がある。少し肩の力を抜いて、この物語の世界に浸ることができたら、きっと気持ちのいい読書の時間を過ごせることだろう。
ランキングについて。
書店員が売りたい本というのは、「内容の素晴らしさに比べて売れていない本」というのがいちばん強い。好きな本を選ぶとなると、まったく違う順位になるのは間違いないだろう。
角田光代さんは書店員が売りたい作家の代表格だったが、直木賞をとったので6位あたりに落ち着いた。『犯人に告ぐ』や『そのとき彼によろしく』『チルドレン』などは、すでに知名度も高いベストセラーということで投票する人も減ったはず。
『黄金旅風』は時代小説という読者層を選ぶジャンルで、内容も敷居が高いため8位。『袋小路の男』と『私が語りはじめた彼は』は微妙な感情を描く個性的な内容なので、読む側の価値観で好き嫌いが左右され、誰が読んでも楽しめるベストセラーには繋がりにくいという判断ができる。
やはり、普段はあまり本を読まない人に「この本、面白いから読んでみて」と薦めるとなると『夜のピクニック』と『明日の記憶』がいい。もちろん読書好きの人も満足できる傑作だ。
そして、誰が読んでも面白いとまでは言えない、雰囲気と世界観で読ませる『家守綺譚』がこんなに得票数を取り3位に入っているというのは、人気のある作家さんとはいえ、この本がいかに書店員の心を捉えたかと。書店員の愛する作家は梨木香歩で決まりだ。
僕としては、ほぼ順当な結果かと思うが、三浦しをん『私が語りはじめた彼は』の得票数が低いのには、やはり納得ができない。4位か5位ぐらいには入るかなと思っていたのだが…。
さてさて来年に向けて、また本を読まないと。今のところ候補作に入りそうな本で読んだのは『となり町戦争』だけかな。



