
著者: 角田 光代
タイトル: 対岸の彼女
第132回直木賞受賞作。本屋大賞の候補作にもなり、本書が角田光代の代表作と言えるだろう。
30代、既婚、子持ちの「勝ち犬」小夜子と、独身、子なしの「負け犬」葵。性格も生活環境も全く違う二人の女性の友情は成立するのか!?
という出版社の紹介文だが、こんなに的を外した紹介文もすごい。腹立たしい程だ。この文章を書いた人は「負け犬」ブームにあやかって、とにかく目を引く文章を目指したのだろうが、紹介文のイメージと内容がこれほどかけ離れてしまっては流石にダメだろう。
おとなになったら。友達をつくるのがとたんにむずかしくなる。働いている女が、子どもを育てている女となかよくなったり、家事に追われている女が、未だ恋愛をしている女の悩みを聞いたりするのはむずかしい。
「負け犬」ブームとは逆な雰囲気で物語りは進んでいく。既婚、子持ちの「勝ち犬」小夜子は公園デビューを失敗し、公園ジプシー(特定の公園でなく、いろんな公園を彷徨う状態を言うらしい)となって、鬱々とした日々を送っている。そこで仕事を始めることとなって出会うのが、独身、子なし「負け犬」葵。彼女は自分で会社を立ち上げ社長となり、自由奔放に人生を歩んでいる。この二人の友情というのが大きな軸となっているが、もうひとつ仕掛けがある。
高校生のころはかんたんだった。いっしょに学校を出て、甘いものを食べて、いつかわからない将来の話をしているだけで満たされた。
葵の高校時代の物語が織り込まれていて、これが強烈な友情物語でかなり読ませる。小夜子と葵、葵とナナコという二つの友情が平行して描かれるのだが、面白いのが葵の立場が現在と過去では逆転しているところだ。葵の今は明るくて無邪気な様子だが、高校時代はおとなしくて控えめな小夜子に似ている。そして現在の葵は高校時代の親友だったナナコにそっくりなのだ。
大人になれば、自分で何かを選べるの?
葵の高校時代に何があって、そんなに性格が変わってしまったのか。葵とナナコの友情という硬い絆。小夜子と葵の関係が信頼から友情へと移り行く様。家庭という生活の孤独感。仕事に生きるという厳しさ。これだけのテーマを見事にまとめあげる力量はさすがだ。今まで読んだことが無かった角田光代の実力をまざまざと見せつけられた。女性のほうがより楽しめると思うけど、男性でも十分に読み応えのある物語。
『対岸の彼女』というタイトルと装丁を、読後の余韻に浸りながら眺める。直木賞の帯は邪魔なので外す。そしてカバーを外して、しばらく眺める。この本を買ってよかったなと思った。
けれど私は思うのだ。あのころのような全身で信じられる女友達を必要なのは、大人になった今なのに、と。
蛇足
ダヴィンチ3月号の特集「作家が愛した装丁家」で、角田光代×池田進吾の本書が取り上げられている。ちょっと目を奪われて手にとってしまう綺麗な装丁。直木賞を取ったので掲載される『オール読物』3月号を買ったほうが安上がりだったけれど、この装丁に負けました。ちなみに彼が担当した装丁は、「装丁・池田進吾(67)」とあるのだけど、別に67歳というわけではなく、「ロクナナ」という事務所らしい。