『私が語りはじめた彼は』三浦しをん/新潮社 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。



著者: 三浦 しをん
タイトル: 私が語りはじめた彼は

本屋大賞候補作。連作短編集。胸が締め付けられる物語が6つ。どの物語が好きかなと、パラパラと読み返す。どれも捨てがたい。これは間違いなく傑作だろう。


べた褒めするしかない作品が生まれた。
どこでもいい、適当に開いて一、二頁読んで欲しい。
胸を突く文章に必ず会える。金原瑞人(「波」6月号)


淡々とした残酷な物語。絶望こそが人生であって、幸福とは手の届かないどこかにあるもの。どこにでもいるような人達の物語だ。少しばかり誰かを愛しすぎてしまっただけ。それとも現実を直視しすぎたのか、この物語の登場人物は誰もが抜け殻のようだ。

「あなたの心に打ちこまれた杭は、いずれ溶けますよ。でもぽっかりと空いた穴はいつまでも残るでしょう。それは痛み続け、そこを通る風音があなたを眠らせぬ夜もあるかもしれない。だけど私は、この痛みをいつまでも味わい続けていたいと思うのです。それが、私の生きてきた、そしてこれからも生き続けていくための、証となるからです。私の痛みは私だけのもの。私の空虚は私だけのもの。だれにも冒されることのないものを、私はようやく、手に入れることができたのです」