著者: 恩田 陸
タイトル: 夜のピクニック
本屋大賞候補作。恩田陸は僕の苦手な作家。1冊しか読んだことが無いが、登場人物たちの楽しげな高校生活があまりに自分の高校時代と違うため、イライラしてしまった。この小説もそんな高校生たちの物語。修学旅行の変わりに、夜を徹して80kmを歩き通す「歩行祭」という高校生活最後のイベント。池上冬樹絶賛。「本の雑誌2004年度ベスト10」第1位。
永遠普遍の青春小説という肩書きに眉をひそめながら読み始めた。青春小説は苦手だ。本屋大賞の候補作でなければ読まなかっただろう。特に高校生が主人公となると厳しい。僕の高校生活は青春と呼ぶには程遠かった。恩田陸の小説にでてくる高校生はまさに青春を満喫している。まったく共感ができない。別世界の物語のようだ。もう過ぎ去った高校生活に憧れを抱くことなどできるわけもなく、取り戻せない時間に、ただ悔しさがつのる。やはり馴染まないか、と思いながらも読み進めていると、こんな一節があった。
大人と子供、日常と非日常、現実と虚構。歩行祭は、そういう境界線の上を落ちないように歩いていく行事だ。ここから落ちると、厳しい現実の世界に戻るだけ。高校生という虚構の、最後のファンタジーを無事演じ切れるかどうかは、今夜で決まる。
どうやら僕の高校生活は境界線から落ちていたようだ。そう思うと何かがふっきれた。別世界の人間ではなく、この小説の登場人物たちも同じ世界にいる。ただ、彼らは高校生活というファンタジーを演じているだけだ。そう思うと、今まで現実味のなかった言葉の数々が、突然、生き生きと僕に語りかけ始めた。池上冬樹の「新作にしてすでに名作」という言葉はただの煽り文句ではなかった。
とにかくノスタルジックで、リリカルで、いつまでも読み続けていたい小説だ。懐かしくて、切なくて、愉しくて、もう最初から最後までワクワクしてしまった。生きてあることが嬉しくて、誰かに感謝したくなるような幸福感がひしひしとわきあがってくる。(中略)子供からは心の汚れた親へ、親からは純真さを失いそうなわが子へと贈られるにちがいない。新作にしてすでに名作。必読!
池上冬樹
そこからは夢中になって読んだ。不思議なことに退屈だった僕の高校生活までも、大切な思いでに見えてきた。ファンタジーを演じるとは、どんな人生でもそれを楽しむ、受け入れるということではないだろうか。読み終えて、ぼんやりとそんなことを思った。
みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう。