『ちーちゃんは悠久の向こう』日日日/新風舎文庫 | 砂場

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本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。



著者: 日日日
タイトル: ちーちゃんは悠久の向こう

「日日日は、モビルスーツを着用した乙一といえる」啓文社営業企画部・児玉憲宗

新風舎からのFAXによると、3月7日のNHK「クローズアップ現代」は『若手作家がなぜ今、台頭しているのか』という内容だとか。これは要録画だ。えっと、NHK総合で19時半からと……録画予約完了。

で、その番組中で高橋源一郎が若い作家の小説を何冊か紹介していて、その中の一冊がこの『ちーちゃんは悠久の向こう』。さすが高橋源一郎、えらい!

日日日(あきら、と読む)は、昨年度のライトノベル系新人賞の五冠王。しかも、現役高校生。彼がライトノベル界に留まらす、小説界でも注目されているのは、高橋源一郎が番組で取り上げていることでも分かる。

ちーちゃんこと歌島千草は小さなころから幽霊とか妖怪とか、そういうまがまがしいものにときめいてしまう難儀な性質を持っていた。道端にお地蔵さまを見つけるとどこからともなくトンカチを持ちだしきて、いきなし地蔵を粉々に粉砕して『バチが当たるかな』とかわくわくしてしまうような奴だった。

高校生の主人公とオカルト好きの幼馴染である、ちーちゃん。平凡な日常が非日常へと崩れ落ちていくジュブナイル・ホラー。と簡単に紹介してしまうとライトノベル好きの人か、ホラー小説好きの人しか手をださないだろう。もしくは「ちーちゃん」という名前に引き寄せられた若槻千夏ファン。ということで、ホラー小説好き&若槻千夏ファンである僕は迷わず購入した。

だが、そんな不純な動機で購入したものの、ライトノベルだと甘く見て読んでたら、ひと癖もふた癖もある小説なことに気づき、途中から気合を入れ直し、夢中で読んだ。天才と呼ばれるのも頷ける。間違いなく彼は才能がある。

ちーちゃんこと歌島千草はむやみに頑固な女の子で、何事も徹底的に追求しなければ気がすまないという厄介な性分を持っていた。真面目というのか、神経質というのか、否――やはり頑固というのだろう、どんなことでも上から下まできっちり把握したがった。

まず文章のリズムがいい。語彙を選ぶセンスも巧い。ライトノベルだけ読んでいる高校生ではないことは確かだ。文章は苦手だと言い切ってしまう某ライトノベル作家とは別物。解説の久美沙織も書いているが、彼は文学の方向性ではないかと僕も思った。

これは。
こんなのは。
こんなのはおかしい。
こんな場所が僕の生きている現実であるはずがない。
ここはおそらく地獄だった。
薄い押入れの扉一枚越しに、地獄が充満していた。


どこまで計算しているのか分からないが構成が巧い。物語の面白さで引っ張るのではなく、その見せる視点、角度が絶妙。このあたりが他のライトノベル作家と大きく違うところだ。コミックや映画でいいじゃないかという小説が多いなか、彼はきっちりと小説を書いている。これは、ある作家のデビュー作を読んだときと同じような印象だ。作品の面白さもあるのだが、それ以上に、作家の才能の片鱗に惚れてしまう。まさに、乙一の『夏と花火と私の死体』を読んだときの衝撃に近い。

そう思っていたら、新風舎のFAXで紹介されていたコメントに、こういうものがあった。

「日日日は、モビルスーツを着用した乙一といえる」啓文社営業企画部・児玉憲宗

モビルスーツというのはライトノベルに特化していると言う意味だろう。ライトノベル仕様にパワーアップした乙一。日日日がこれからどこまで活躍するか、本当に天才なのかはまだ分からない。だが、本書は今後の作品を読んでみたいと思わせる魅力に溢れた小説だった。そして、この才能が本物であるなら、いつの日かモビルスーツを脱ぎ捨てた日日日の小説を読んでみたいと思う。