街路樹が全ての葉を落とし、やがて訪れる春を待ちながら厳しい寒さに耐えている。
雅哉は美佳の住むマンションに向かって車を走らせた。
これから行くから・・そうメールした。
それからそう時間が経たないうちに美佳の部屋に来ていた。
「おはよう。
今日は頼みがあるんだ。」
「いきなりそんなことを言われても・・。」
「美佳を描かせてくれないか。」
「えっ?」
「俺、学生の頃は絵を描いていたんだ。
美大の受験に失敗して夢は捨てた。
もう二度と描けないと思っていた。
でも、不思議なんだ、今朝目が覚めると気持ちは決まっていて、スケッチブックと鉛筆を買いに行く自分がいた。」
そう言って買ってきたばかりの紙袋を見せて照れくさそうに笑った。
美佳は少し驚いた。
絵を描く人を選んで好きになっているわけじゃないのに・・そう思うと同時にチクリ・・と小さな痛みを感じた。
「海にでも行かないか?
ホテルを取ってゆっくりしよう。
たまにはいいじゃん。」
子どものように嬉しそうな雅哉の顔。
「寒いのに、海なの?」
「海、好きだろ?
俺、知ってるんだ、海へ行くと美佳は心を休めることが出来るって。」
雅哉がふと見せる深い優しさ。
普段はふざけてばかりの彼。
この人のことを、どれだけ知っているのだろうか。
深く知ろうとしない自分が見えた。
「美佳、まだ??」
「もうちょっと待って!」
「もうずいぶん待ってる。
どれだけ長い旅をする気なんだよ~。」
美佳は大きな荷物を持って部屋から出てきた。
「お待たせ。」
「さあ、行こう。」
車を走らせて目的地へと向かう。