空港には志保が待っていた。
六年ぶりの再会。
「沙耶、お帰り。
元気だった?」
「うん、志保も元気そうだね。」
「ねえ、私の家に来るでしょ?」
「えっ?
いいの??」
「お父さんもお母さんも待ってるのよ。
早く帰ろう。」
「うん。」
志保の両親は沙耶を快く迎えた。
あの頃とは何も変わらない笑顔が嬉しかった。
志保の両親は沙耶の両親とは全く別のタイプだった。
優しさが滲み出ている雰囲気。
見た目は確かに沙耶の父親の方が良かったが、人間の価値なんてそんなことでは決まらない。
そうはっきりと言い切れる自分がいる。
白衣を着ている時は間違いなく『先生』なのだが、普段は『おじさん』なのだ。
気取った態度でもなく、人の機嫌を取ってやろうという野心もない。
公務員にも会社員にも当てはまらない独特な雰囲気がある。
世の中では悪い医者の話が取り上げられ、人々は『偉そうに』とか『嫌いだ』、そう言う。
確かにそんな人もいる。
一部の心無い医者。
夜、ベルが鳴って出てみると、苦しそうな子供と心配そうな親の顔がある。
そんな時だって嫌な顔一つしないで診てやる。
そんな姿を何度か見たことがある。
「どうしてお医者様に?」
そう聞いたことがある。
高三の春だった。
「私はこの仕事しか出来ない。」
そう笑顔で言った。
この人でなければならない仕事をこの人がしてるのだ。
誰にでも『これ』というものがあるのかもしれない・・。
志保の部屋に入ると懐かしさが込み上げてくる。
いつもここに来ていた。
壁の絵はそのままだ。
ここでいろんなことを話した。
試験の発表があると、食べ物をたくさん買ってきてはこの部屋にこもっていた。
外泊なんて許されないことだったが、志保の家だと言うと何も言わず行かせてくれた。
志保からは数学と化学を習い、私は古文と世界史を・・。
どうして数字にこんなに強いのかと聞くと、クイズみたいで楽しいのだと言う。
古文は中学の時から好きだった。
紫式部の『源氏物語』、清少納言の『枕草子』、教科書以外のモノを図書館で借りて読んだ。
一時間、ずっと勉強していることもあれば、十分も持たない時もある。
休憩が勉強時間と同じくらいのこともあった。
あの頃、それほど楽しい毎日を過ごしているとは思っていなかったが、時が過ぎて思い出すことといったらなぜかあの頃のことが多い。
「私、隼人に会ってみようと思うんだけど、志保、どう思う?」
「どう思うって、もう決めてるんでしょ。
会ってきなさいよ。」
志保は言った。
翌朝、沙耶は隼人に会いに出かけた。
志保が一緒に行こうかと言ったが、一人で行きたいと言った。
