前日、初黒星を喫した横綱照ノ富士(てるのふじ)が、10日目、どういう相撲を取るか。
初対戦の宇良(うら)戦は、1分30秒を超える熱戦となりました。
互いに両ひざを大けが、序二段まで陥落しながら再び這い上がってきた〝闘魂の力士〟。
宇良は頭をつけて下から攻め、肩透かし、足取り、もう一度肩透かし、最後は投げに裏返しにされながらもまわしに手をかけるなど、最後まであきらめないたたかい。
これに対して照ノ富士は慌てず、宇良の動きをよく見ながら、大熱戦を制しました。
前日の敗北を引きずらない、落ち着いた取り口でした。
前日、大栄翔(だいえいしょう)に敗れた相撲は、照ノ富士の両膝の不安を改めて示しました。前日までは、もろ差しを許しても、上からがっちり組みとめて強引に攻め、多少不利な形になっても、ジワジワと得意の型に持ち込んできました。
しかし押し相撲を本職とする相手には要注意でした。ズルズル後退すれば、膝に大きな負担がかかり、残す力がそがれてしまう。大栄翔が、強烈な押しを徹底して貫いたことで、横綱は封じ込めてきた弱点を、ぽろっとさらけ出しました。
盤石の横綱をどう攻めるか。頭をひねっている力士の中には、思わず〝これだ!〟と叫んだ人もいたかもしれません。
大相撲界は、優しげな顔をみせながら、平然と〝生き馬の目を抜いてしまう〟社会です。
初場所、あれよあれよという間に幕内優勝を遂げ、次は大関か、とまで言われた大栄翔が、このところ思うような成績をあげられなくなっているのも、翌場所から徹底して研究されてきたからです。
こういう世界で、横綱が敗北を引きずらず、大熱戦を展開したのはさすがでした。