甲子園で高校野球が始まると、バックネット裏には、各マスコミの取材陣とともに、多くのプロ野球のスカウトが陣取ります。
彼らは、全国から有力選手が一堂に集まる大会を、朝から熱心に見ています。もちろん、これからスカウトしようとしている選手を見極めるためです。
ある夏の大会のことです。試合終了とともにスカウト席がどっと沸きました。好投手を要したチームが敗れたのに、なぜ喜ぶのか。
ある球団のスカウトはこういいました。
「彼がこの1試合で終わったんで、ほっとしている。このくそ暑い中で、決勝まで投げ続けていたら、とてもプロでは使いものにならないからね」
当時、投手の投げ過ぎは現在のように社会問題になっておらず、有力投手の連投は当たり前。勝ち進むと連日の登板です。
2006年の夏の甲子園で〝ハンカチ王子〟として話題になった早稲田実業の斎藤佑樹(ゆうき)投手は、4連投、948球という史上最多のボールを投げ込み、早稲田実業に初優勝をもたらす立役者となりました。
試合後、優勝に導いた選手はヒーロー扱いされ、プロでの活躍が期待されます。斎藤投手も例外ではありませんでした。
しかしプロ入りした彼は、とくにこの3年間は勝ち星なしと、期待にこたえられていません。
プロの選手でさえ、4、5日間隔で登板しているとき、成長期の高校生が炎天下で、ほとんど休みもなく投げ続ける。ひじや肩、体を壊さない方がおかしいですよ。
西武の松坂大輔投手(現西武ライオンズ)や、メジャーリーグからふたたび日本に戻ってきた田中将大(まさひろ=楽天)投手などは、例外中の例外です。期待されて入団した投手の多くが、活躍できないままプロ野球界を去っています。
近年は投手の投げ過ぎが大きな問題になり、高校野球でも複数投手を育てることが真剣に追及されています。
ただ、激しい地方予選を勝ち抜いてようやく出場したのに、「選手の将来の配慮とか甘いこと言っていたら、勝負にならない」という監督も、少なくありません。選手自身も、目の前の勝利に目の色を変えています。
この現実を変えていくのは簡単ではありません。
今大会は18日も雨で再延期となりました。加えてコロナ禍が猛威を振るい、宮崎商と東北学院が試合を辞退する異例の事態が起こりました。
オリンピックの開催には厳しい意見を表明してきた朝日新聞社が、自社主催の催しには甘ーい判断をしてしまったとは言えませんか。
大会開催強行はどうだったのか、厳しく検討をしていただきたい。