open sesame


●Freddie Hubbard  “Open Sesame”


1960年録音の作品。
ジャズトランペッター、フレディ・ハバードのリーダー作です。
もうジャケの写真が『どうだ俺うまいだろ?』と言ってるようにしか
見えません。


これがデビュー作らしいのですが、すでに完成度が高いというか
「こんな時代もあったのね」的なことを言わせない圧倒的なテクニックを
聴かせてくれます。50年近くも昔にこんな上手い人がいるとは
嫌になってしまいます。


ジャズのトランペットといえば、帝王と呼ばれるマイルス・デイビスが
真っ先に名前をあげられますが、彼の作品はスピリチュアルすぎて
どうもとっつきにくいと言う人も多いと思います。


その点、このレコードは曲がとても聴きやすく

ポップといっても差し支えないくらいだと思います。
テナーサックスのティナ・ブルックスによる1曲目“open sesame”なんか
大半の人が格好いいと思ってくれるだろう名曲です。


今まであまりジャズを聴いたことがない人に

何か薦めなきゃいけないときは、この作品を挙げようかなと思っています。


ベリッシマ!

●pizzicato five : Bellissima!


オリジナルラブの田島貴男がピチカートファイブに在籍していた
1988年の作品。


メンバーは小西康陽、田島貴男、高波慶太郎の3人で
そのサウンドと詞は、男の美学を追求しているようにも聴こえます。
昔これを聴くまではピチカートファイブ=お洒落でキャッチーな
女性ボーカルである野宮真貴の印象が強かったのですが…
(『メッセージ・ソング』や『東京は夜の7時』で名前を知ったので)


昨今のオリジナルラブでの田島貴男の歌い方からすると
この作品では驚くほどにあっさりとしています。
このくらいがいいなあ、などと言うと怒られるのでしょうか。


選曲はメロウなものが多く、
アレンジも、ストリングスやコーラスが上品に入っていて
音楽オタクもライトユーザーも気分よく聴けると思います。


もっとこの時期のピチカートファイブのサウンドを聴きたかったと思います。

再結成ブームに乗って、またこの3人でレコード作ってくれたり
しないものですかね。(きっとそういうの嫌いだろうけど。)



smooth ace


●SMOOTH ACE “AOR//DAY:”


中古CDショップを適当に物色しているときにタイトルの『AOR』という
文字が目に入り、めでたく購入することになった一枚。


男女混声ヴォーカルグループ、SMOOTH ACEが2003年に出したアルバム。
もちろんAORを意識した楽曲で、コーラスアレンジも良く
偶然見つけられてよかったと思えるCDです。


メインボーカルの重住ひろこさんの歌い方は程よく甘くポップで
聴きやすいです。
なんだかアカペラとかヴォーカルグループのメインの人って
力が入りすぎてて見ていて辛い気持ちになることが結構あるのですが
そんなこともなく、まさにスムース。


バッキングの楽器のアレンジは、コーラスがだいたい常に入っている為か
コード楽器のギターや鍵盤が控えめで、
バランス的にはドラムとベースが前に出ている印象です。


AORといってもギターとシンセがかなり目立ってるTOTO系の音を
期待しているとちょっと残念に思う人もいるかもしれません。
僕は、曲と歌詞と最大の特徴であるコーラスワークが生かされている
このバランスはかなり絶妙だと思っていますが。


どうもAORって「こうすればAORだぜ!」と言える明確なものは
存在しないと思うのですがどうでしょうか。




マリアシュナイダー

●Maria Schneider / sky blue


芸術の秋にふさわしい一枚。純然たる芸術。
2007年に発売された女流コンポーザー・アレンジャーの
マリア・シュナイダーによるビッグバンドジャズの作品です。


産業的な音楽とは遠いところに身をおき、
芸術としての音楽を追求した結晶であるレコードだと思っています。

運転中や何か作業をしながら聴くことはお勧めしません。


タイトルとジャケットデザインが音楽の内容に非常にマッチしているので
だいたいこのCDを流すときは目に見えるところにジャケットを立てています。


編成はトランペット4本、トロンボーン3本とバストロンボーン、サックス5本
にピアノ、ウッドベース、ギター、ドラムという
一般的なジャズビッグバンドのラインナップなのですが
サックス隊はフルートやクラリネットに持ち替えたり
さらに一部アコーディオンとコーラスを加えることによって
より透き通って広がりのあるサウンドが作られています。


『ビッグバンドジャズ』というと例えばベニーグッドマンやグレンミラーの楽団など
ダンスパーティーの伴奏になりえる4ビート中心の構成が多いのですが
現代のビッグバンドでは変拍子やテンポチェンジによる複雑で難解な構成の
アレンジが当たり前になってきています。


逆にフリージャズに寄りすぎていて理解できずつまらない、
という作品も増えてきているのですが
この作品は前衛的にはなりすぎず絶妙なバランスで
メロディとリズムとハーモニーの流れを楽しむことが出来ます。
1曲目のthe 'pretty'road なんか最高です。


ちなみにこの作品の4曲目“Cerulean Skies”は50回のグラミー賞において
Best Instrumental Compositionという部門で受賞しているのですが
そのわりに日本ではかなりマイナーな存在なのが残念です。


現在、彼女はArtist Share(http://www.artistshare.com/home/default.aspx )という
インディーズ的な会社からレコードを出しています。
流通や資金の関係など、新しいことに取り組んでいるようですね。
是非もっと頑張っていただいて、日本にもこのような良質な音楽が
広まるようにして欲しいと思っています。



river


●Herbie Hancock / RIVER : the joni letters


昨年2007年9月に発売された新しいCDです。
邦題は『ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』。その名のとおり
ピアニスト、ハービー・ハンコックによるジョニ・ミッチェルの楽曲のカヴァー集です。


ジョニミッチェル本人をはじめ、ノラ・ジョーンズやコリーヌ・ベイリー・レイなど
人気ヴォーカリストがゲストとして参加。
演奏もデイヴ・ホランド(bass)とヴィニー・カリウタ(drums)の最強コンビに
ハービーとは長い付き合いのウェイン・ショーター(ts,ss)も参加しています。


歌ものでのウェインショーターの演奏は素晴らしいですね。
彼特有のへろへろとした音色でありながら、どっしりとした存在感もある。
ジョニミッチェルの楽曲の独特な雰囲気にベストマッチだと思います。


さてこの作品は2008年のグラミー賞で「年間最優秀アルバム賞」と
「最優秀コンテンポリー・ジャズ・アルバム賞」を受賞しています。
なのでこんなマイナーなディスクレビューであらためて紹介しなくても
どのレコード店でもプッシュされて売れまくっていることでしょう。


本当に演奏もサウンドも上質で、聴けば聴くほどいいレコードで
演奏家としてみても大いに参考になります。



しかし個人的には不満が残る部分はあります。


やはりハービー・ハンコックといえば“処女航海”や“speak like a child”のように
60年代に出された他のジャズコンボの作品群とは明らかに異なる雰囲気を生みだしたり
“ヘッドハンターズ”や“フューチャー・ショック”のように「なんだそりゃー!」と
衝撃を与えてくれるレコードを作る革命的な人というイメージがあります。


もちろん僕はリアルタイムでこれらのレコードを経験していないので
現代の色々なレビュー等をもとに遡っていって身につけたイメージに過ぎないのですが。

それらの今でも語り継がれる彼のレコードたちと比べてしまうと
この作品はインパクトが低いかもなあ、と思ってしまうのです。


ハービーハンコックがお馴染みの強力なミュージシャンと人気のボーカルを呼んで
作ったジョニミッチェルのカヴァー集なんて、素晴らしいに決まってるじゃないですか。
そりゃグラミー賞もとれますよ。


想像して期待していた通りの素晴らしいレコードなんですが
その期待のもっとはるか上をいって欲しかったと思ってしまいます。


まあ、単なる外野からの言いがかりなんですけどね。
例えるなら
『小笠原とラミレスとイスンヨプを集めてクリンナップ打たせてたら
勝てるに決まってるじゃねーか!どうせなら130勝くらいしろよ!』
などと言ってるのと同じことなのです。