信じていないからこそ | 読書日記

読書日記

神郡が読んだ本の感想や、諸雑記を書いていくブログ。
知り合いには見せられないなあ。

幽霊ってどこまで存在してるんでしょうかね?

あんまり落ち武者以前の時代の、例えば縄文人やネアンデルタール人の幽霊を視たという話は聞きませんし、動物霊にしても魚介類の幽霊が出たという話もそんなに聞きません。
キツネ憑きはあっても、牛豚鳥の三大食肉家畜の幽霊は祟らないのでしょうか。

「霊感」がある人には幽霊は疑う余地のない存在なのでしょう。
是非世界がどう見えているのか訊いてみたいものです。イクラとかタラコとか蚊の幽霊もいるんでしょうか。





・阿部公房『壁』(新潮社)
・乾緑郎『完全なる首長竜の日』(’11 宝島社)
・深水黎一郎『テンぺスタ~天然がぶり寄り娘と正義の七日間~』(’14 幻冬舎)
・古川日出男『MUSIC』(’10 新潮社)
・米田夕歌里『トロンプルイユの星』(’11 集英社)
・星新一『おのぞみの結末』(新潮社)



・阿部公房『壁』

――ある朝、突然自分の名前を喪失してしまった男。以来彼は慣習に塗り固められた現実での存在権を失った。自らの帰属すべき場所を持たぬ彼の眼には、現実が奇怪な不条理の塊とうつる。他人との接触に支障を来たし、マネキン人形やラクダに奇妙な愛情を抱く。そして……。独特の寓意とユーモアで、孤独な人間の実存的体験を描き、その底に価値逆転の方向を探った芥川賞受賞の野心作。――


現実なのか夢なのか……不条理な小説です。

第一部「S・カルマ氏の犯罪」第二部「バベルの塔の狸」第三部「赤い繭」に分かれていますが、それぞれに繋がりはありません。実質短編集といってもいいと思います。「赤い繭」は更に『赤い繭』『洪水』『魔法のチョーク』『事業』に分かれています。


第一部「S・カルマ氏の犯罪」は、朝目覚めて異変が起こるところや流される主人公はカフカの『変身』を思い起こさせます。
「名刺」が自分になり変わったり、服や靴が動きだしたり、裁判を受けるところは『不思議の国のアリス』のようです。無茶苦茶なことを言い出し、詭弁を通す登場人物も。

でも表現や読後感はやはり純文学という印象でした。
特に一人称で語っていた男がスクリーンの中、「世界の果」である男の部屋に入り込み、「ぼく」が「彼に」変わる瞬間や、「不眠症の匂いのする朝」というフレーズとか。


第二部「バベルの塔の狸」は取らぬ狸の皮算用から生まれた「とらぬ狸」が出てくる話で、言葉遊び感が強いのかと思いましたがストーリーは意外と冒険的要素が強くてエンターテイメント志向でした。


第三部「赤い繭」の『赤い繭』は、家のない男がつま先からほどけて繭に変じ、ようやく家を得るが帰る自分がいない、という詩のような話。
『洪水』は急に人間が液体に変わってしまうというSF。けるるー。
『魔法のチョーク』は描いたものが現実のものとなる赤いチョークを手に入れた貧しい画家の悲しい話。
『事業』は非常にブラックな話でした。

阿部公房の世界観って、どれも実際には体験したくない世界ばかりだなあと思いました。他の作品も含めて。



・乾緑郎『完全なる首長竜の日』

――少女漫画家の和淳美は、植物状態の人間と対話できる「SCインターフェース」を通じて、意識不明の弟と対話を続けるが、淳美に自殺の原因を話さない。ある日、謎の女性が弟に接触したことから、少しずつ現実が歪みはじめる。――


第9回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
うーん、ミステリー?

殺人事件だ、犯人はお前だ、タイプの話ではなく、半分SF半分ミステリ、いや、サスペンス? といった話です。途中まで何が謎なのかすら謎。

漫画家の淳美の日常生活を軸に、子どもの頃の記憶、現在の仕事の描写、昏睡状態の弟との「SCインターフェース」を通じての対話、を繰り返して進行します。

少しずつ綻んでいく日常、何が現実で何が非現実なのか、胡蝶の夢を引き合いに出して語られる世界、そしてところどころに現れる首長竜のイメージ。
これは誰の見ている夢なのか、これは誰かの夢なのか?
というような感じです。

タイトルはサリンジャーの『A Perfect Day for Bananafish(バナナフィッシュにうってつけの日)』からだそうです。読んだことはないのですが、作中であらすじが述べられていました。
ある男が海辺で子ども相手に、「バナナフィッシュ」がいると嘘をつきます。もちろんそんな魚はいないしでたらめだったのですが、子どもはただ知ったかぶりをしたくて「知っているわ」と。
その瞬間男は自分の空想が現実になってしまったのかと不安と恐怖に襲われ、夢か現実かを知る為に拳銃で頭を撃ち抜く――という話らしいです。

その話をしながら、弟の浩一はセンシング(インターフェースを通じての対話)中に何度も淳美の目の前で自殺を繰り返します。

それも伏線と言えば伏線なのですが、オチは結構わかりやすい話でした。
設定は好きだったので、SFにするならもっと特化してよかったのかなと思います。
南の島やおじいさんの過去のエピソードは面白かったので、そちらだけに絞るとか。
ちょっと詰め込み過ぎな印象でした。

映画化もされたらしいのですが、どうなんでしょう、設定が恋人同士になっている……。



・深水黎一郎『テンぺスタ~天然がぶり寄り娘と正義の七日間~』

――笑いあり、懐かしさあり、最後に驚きと感動あり! 凸凹コンビが織りなすドタバタエンターテイメント!
東京で大学の美術の非常勤講師を勤める賢一。30代も中盤に差し掛かっているのだが、ギリギリの収入の中、一人ほそぼそと日々の生活に忙殺されて過ごしている。
そんな中、田舎に住む弟から一人娘を一週間預かって欲しいとの連絡がある。
しぶしぶ引き受けることになった賢一を駅で待っていたのは、小学四年生の美少女・ミドリ。
しょっぱなから、毒舌で得体の知れないミドリに圧倒されながら、賢一とミドリの一週間の共同生活が幕を開ける・・・。
ミドリの純粋でまっすぐな心に触れるたび、日々の生活で無くしてきた何かが見つかる、心の箍を外せる感動の長編小説――



以前、深水黎一郎の本を読んで、キャラクター性ではなく論理で読ませるタイプの作家さんだなーと思ったので、おもいっきりキャラクターものの作品を読んでみました。

9歳の生意気少女ミドリと、30歳半ばの心臓が悪く気弱な賢一。正直、賢一のほうが可愛いと思いました(笑)
連続少女誘拐事件が起きる最中、上京してきたミドリとの一週間の東京観光。
ミドリの新鮮な疑問と単純な正義感、それに対する大人の建前や危惧など、ドタバタの中にも考えさせるところもあります。
そんな中やはり起きるミドリ誘拐。心臓の悪い賢一だが必死で犯人に食い下がり、なんとか無事に一週間が過ぎる――

というのが前振りです。ここまででかなり後半まで来ており、このままエンディングかと思ってしまいましたよ。そんなわけはありませんよね。
凸凹コンビが織りなすドタバタエンターテイメント!  はここまでです。このあとの出来事が本作の肝です。

読後感は、面白かったのですが、少しもやもやします。この後のことを考えるとどうなんだろう? という。爽やかと言えば爽やか、でも一歩間違えたら、うーん。

ミステリー風味のエンターテイメント、という小説でした。



・古川日出男『MUSIC』

――響き、響き。き、キキキ。聞こえてくるよ、猫笛、祝祭、大地の歌声―。青山墓地で生まれた無敵の天才野良猫スタバ。猫笛を操る少年佑多。学校を離れ独り走る俊足の少女美余。恋人を亡くした性同一性障害の北川和身。猫アートの世界的権威JI。孤独な人間たちは一匹の猫によって、東の都東京から西の都京都へと引き寄せられ、ついに出会う。そして究極の戦争が始まった…。溢れる音楽と圧倒的なビートで刻まれる、孤独と奇跡の物語。――


面白かったです。
文字だけど耳に残る不思議な文体で、しばらく「響き。き、キキキ」が離れなくなりました。

前回『4444』が面白かったので同じ作者で読んでみましたが、この作家さん好きです。

話はオムニバス形式で、天才猫スタバ、猫笛で猫語を操る少年佑多、走りながら音楽を感じる少女美余、性同一性障害の和身、アーティストのJIの目線を代わる代わる読み進めながら、収束感を味わえる小説です。

調べたらこの作品は『LOVE』という作品の続きものみたいですね。そちらは読んでいないのですが、充分楽しめました。
今回のナンバーワンです。

しばらくこの作家さんを追ってみたいと思います。



・米田夕歌里『トロンプルイユの星』

――第34回すばる文学賞受賞、鮮烈なデビュー作!
ある日突然、私のそばから人や物が次々に消え始め、それらは最初から「無かった」ことになっていく・・・。当たり前の日常が孕む不確かさと、今ここにある世界のきらめきを色鮮やかに描きだす。

 小さなイベント事務所で働く藤田サトミは、職場の久坂から「気になる交差点があるから、次の休みに一緒に観察に行こう」と誘われる。戸惑いながらも、喫茶店で並んで、ひとで溢れかえる休日の交差点を見下ろすことに。「通行人の中から、あるひとを探したい」という久坂と話すうち、職場とは違う彼の一面に触れ、不思議と心惹かれていく。
 時を同じくして、サトミのもとに人材コンサルティング会社の遠野と名乗る男が現れ、業界大手への転職を持ちかけてくる。けれど、その頃からサトミの周りで物や人が不意に消滅しはじめる。引き出しにいつも入れていたハッカ飴の缶、採用されたはずのアルバイトスタッフ、進行中だったイベント。自分の記憶と周りの人の記憶に食い違いが生まれ、混乱するサトミに対して、久坂は自分のせいだと語り出す。失われ続ける世界のなかで、失いたくない人を見出した里美は、必死に消滅に立ち向かうが・・・・・・。――



今回読んだ中の半分が、現実と非現実が曖昧な世界観でどうしようかと思いました。

『壁』が不条理、『完全なる首長竜の日』が胡蝶の夢ならば、『トロンプルイユの星』は日常系パラレルワールドもの? でしょうか。個人的にはタイムパラドックスっぽいのかな? と思いました。

というのも、「物や人が消える。同時にその記憶も消える」という現象の原因が解明されないのです。究明もそれほどしないですし。
話の焦点はサトミの日常と、キーパーソンである久坂との関係です。
「必死に消滅に立ち向かう」というのはせめて自分だけは忘れないようにしよう、という範囲で、でも原因も対処方法もわからないのならそうすることしか出来ないか、という等身大の話でもあります。

設定はSFですが、内容は純文系です。

タイトルの「トロンプルイユ」はフランス語で「だまし絵」の意味があるそうですが、作中で説明されることはなく最後にちらっとその言葉が出てくるのみなので、読んでいる間は何のことだろうと思っていました。

話がだまし絵的構造かといわれれば、うーん、そういうわけでもないです。
でも嫌いじゃない文体でしたし、面白かったです。
本当は高橋源一郎が帯で絶賛していたのにつられて読んだのですが、読んで損はない作品だと思います。

そして巧妙なハッカ飴のステマ……っ!



・星新一『おのぞみの結末』

――超現代にあっても、退屈な日々にあきたりず、次々と新しい冒険を求める人間……。その滑稽で愛すべき姿をスマートに描き出す11編。――


もう話のネタは星新一がすでに書きつくしたんじゃないだろうか。そして我々はただその話を脚色して膨らませているだけに過ぎないのだ――
と思わせるようなショートショートです。この人凄過ぎ。

表題作の『おのぞみの結末』は、大金を運ぶことになった銀行員が金を着服しようとするが同行者がいて手出しできない、しかし偶然が偶然を呼びついには……どんでん返しな話です。メロンライスにガムライス。

『現実』は、日々に飽き飽きした独身の男が夢を見ると、その夢が現実になっていく。昔の恋人と結婚し社長になった夢、それに飽きると秘密情報部員になった夢を見て、やはりそれが現実になっている。学生時代の夢、子どもの頃の夢、そして最後に男が見た夢は……

『要求』は、憎い女を殺したいと考えていた男がいる。ある日、宇宙船が地球にやってくる。宇宙人は人類を見下し暴言を吐きながら、見せしめのために幾つもの街を破壊し大勢の人々を殺してしまう。
ついに宇宙人に降伏した地球は、宇宙人の要求を聞く。その要求とは、人間の思考をコントロールする機械を作ること。
人々はその機械を作らざるを得なくなり、結局宇宙人に渡してしまう。
そして宇宙人がその機械でしたこととは……たまにびっくりするくらいブラックな話を書きますよね。こんなに非道な宇宙人は初めて見ました。でも何故こんなことを?


さくさくっと宇宙人が出てきたり悪魔が出てきたり万能の科学が発達していたり、星新一の世界観は多様で面白いですね。
まさにショートショートの神様です。





個人的には幽霊や天国地獄、輪廻転生はさっぱり信じてはいないのですが。

つい先日、長年飼っていたペットを亡くしました。
もうかなりの老齢だったのでショックはなく、最後の3日間はずっと苦しそうだったので楽になって良かったね、という安堵が強いです。

ただ、当たり前ですが死んだことがないので、死んだらどうなるか、ということが気になりました。
天国に逝ったと思うほどロマンティストでもないし、幽霊は矛盾が多すぎるので信じる気にはなれず、かといってただ「死んだ」で終わらせるのも寂しいような気がして。

現実的に考えて、死んだあとで残された者が「死者の為に」といってすることはすべて自分たちの為なのはわかっているんですが、やっぱり、寂しいですねえ。


では、また。
さようなら。



『この世は、うたかたの蝶の夢……』