第二回星新一賞の締め切りが9月30日と迫ってきました。
まったきの文系の頭のくせに下手の横好きでSFが好きな身としては、理系文学を書きたくても書けないジレンマが集約された賞でもあります。
星新一賞はいいですよねえ。書けるなら人工知能でも応募可能なんですよ。読んでみたいなあ。
〇
〇
〇
・佐藤賢一『黒王妃』(’12講談社)
・西條奈加『上野池之端鱗や繁盛記』(’14新潮社)
・道尾秀介『ノエル』(’12新潮社)
・仙川環『極卵』(’14小学館)
・小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』(’12新潮社)
・佐藤賢一『黒王妃』
――生意気な嫁、忌々しい寵姫、周囲からの悪口。すべてに耐え、国王亡きあと政情不安な国を支えたフランス王アンリ二世の正室、カトリーヌ・ドゥ・メディシス。生涯黒衣をまといつづけた人生を、一人称の独白を交えて大胆に描く。――
またまたフランス史はよく知らないのですが面白く読みました。
書かれていることは史実に則した事柄で、フランス王アンリ二世の亡き後から、王位を継いだ息子たちの王母として政治的手腕を奮ったカトリーヌ・ドゥ・メディシスの、聖バルテルミーの虐殺に至るまでの時系列と独白が交互に配されています。
常に冷静に振舞い、何事にも動じないカトリーヌ・ドゥ・メディシス。しかしその胸中は夫の寵姫に対する憎しみ、息子の嫁でありスコットランド女王であるメアリ・ステュアートに対する侮蔑、「野蛮な」フランスという国に対する優越感が溢れています。
手づかみで食べていたフランスの食事にマナーと料理を持ち込んだのも、フランスの菓子と思われているマカロンを持ち込んだのも、下着を持ち込んだのもカトリーヌだとは知りませんでした。
王を支配し、虐殺を起こした張本人として世紀の悪女と呼ばれることもあるカトリーヌ・ドゥ・メディシス。暗殺なども積極的に行っていたとされています。
作中ではカトリックとプロテスタントの対立に対し、一貫して融和政策を執ろうとしたものの、御しがたい息子王と、ユグノー派の提督コリニィの暗殺事件が重なって結果的に虐殺になってしまった、というように読めました。
歴史好きにはたまらないかもしれませんが、登場人物が多すぎて把握しきれない面が無きにしも非ず。
歴史を知らない意見としては、現代では日本人はひとくくりにヨーロッパ、と言っているけれど、昔は各国で絶え間なく戦争していたんだなあと。宗教戦争って不毛ですよね。
・西條奈加『上野池之端鱗や繁盛記』
――騙されて江戸に来たお末の奉公先「鱗や」は料理も接客も三流の料理店だった。少しでもお客を喜ばせたい。お末の願いが同じ志を持つ若旦那に通じ、名店と呼ばれた昔を取り戻すための奮闘が始まった。甦った名物料理と粋なもてなしが通人の噂になる頃、お末は若旦那のもう一つの顔に気づいていく……。美味絶佳の人情時代小説。――
時代小説です。筋立てはまあよくある感じです。少年少女料理漫画的、もしくは朝の連続テレビ小説的。
いや、決して面白くない訳ではありません。よくまとまった話です。
騙されてというか、まあ騙されてか、江戸の料理屋に奉公に来た14歳のお末。話に聞いていたのとは全然違う実態に一度は絶望しながらも、持ち前の真っすぐさで色々な試練を乗り越えていくという、連作短編です。
違うのは若旦那の存在。店の者にも親切で、常に優しい若旦那。頼りがいもあって店の事も熱心に考えているようで……時折見せる若旦那のひやりとする視線、辛辣な言葉、冷たい態度。
それらが明かされる時、鱗やにまつわるなかなかに因果な話がわかってきます。
でも最後はやっぱりラブでしょう。そりゃあもう。
・道尾秀介『ノエル』
――物語をつくってごらん。きっと、望む世界が開けるから―暴力を躱すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を喪い、生き甲斐を見失った老境の元教師。切ない人生を繋ぐ奇跡のチェーン・ストーリー。――
道尾秀介の作品があんまり映像化されないのは、叙述系トリックが多いせいなのでしょう。
でもさすがにこれだけ同じ作者の作品読み続けていれば、さすがにわかってきます。
道尾秀介は「そんなに」、残酷な落とし方をしないってことくらいは。
それなので、ファンの方には安心して読めるいつもの、オチだけはほんわかストーリーズです。
あまり読みつけない方にはハラハラものかもしれません。
オチはほのぼのなのですが、そこに至る過程がまたエグいのも特徴です。
主人公たちは何かしら傷ついていて、追い詰められています。
そして物凄く自然な心理描写と共感でもって恐ろしいことを考えます。
本作だと二話目に当たる『暗がりの子供』が技ありで面白かったというか、怖かったです。狂っていく感じが。
・仙川環『極卵』
――有名自然食品店で売り出された卵は、極上の味がキャッチフレーズの高級商品『極卵』。安全、安心だったはずなのに、猛毒による食中毒事件が発生する。時間が経つうちに感染者が急増し、次々に死亡。過激化した消費者団体は業者を糾弾し、大手マスメディアは過熱報道を増していく。しかし取材を始めた元新聞記者の瀬島桐子の前に、隠蔽された驚くべき真実が浮かび上がってきた…。医療ミステリーの第一人者が現実の先を描ききった渾身の書き下ろし小説。――
最近書評を読んだので読んでみました。まだ新しい作品です。
面白かったです。今回のナンバー2。
食中毒を引き起こした高級卵『極卵』。その取材をしたジャーナリストの桐子、極卵を食べた息子が中毒になったカリスマ主婦純子。二人の視点を追いながら、何故食中毒は起きたのか、世論は操作可能か、消費者団体はこんなにカルトチックに暴走するのか? 事件の真相は……といったスピード感あふれる作品です。
社会派小説、意外と好きなのかもしれないと思い始めた最近です。
事件の真相よりも、作中に出てくる暴走した自然派食品支援団体の暴走っぷりが光ります。
メシアンは恐ろしいですね。でも好きです。
・小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』
――大阪の旧家で今日も起こる幸せな奇跡。本だらけの祖父母の家には禁忌があった。書物の位置を決して変えてはいけない。ある蒸し暑い夜、九歳の少年がその掟を破ると書物と書物がばさばさと交わり、見たこともない本が現れた!本と本が結婚して、新しい本が生まれる!?血脈と蔵書と愛にあふれた世界的ご近所ファンタジー。――
これめちゃくちゃ面白い。文句なく今回一番面白かった。今まで読んでこなくて損した気分。そして人に薦めたい作品。
文体は森見登見彦のような、人をすかした一人称。それに十行に一度ボケが入る。それがいい感じにくすりとくるし、なんだかにやりとしてしまう。
最初は一体何の話をしているのか掴みづらく、どうやら語り手が息子にあてて手紙を書いているようだとはわかるかれども、回り道や余談が多くなんだか面白いけど何だろう? という感じでした。
しかし中盤から後半にかけて、実は最初に出てきた余談も伏線だったり、回り道でしていた話の裏にはこんな出来事があったのかとわかり、感慨深いつくりです。
またユーモアにあふれる語り口ですが、その分戦中のシーンが非常にシリアスさが際立っていて、すごく真面目なことを書いています。
こう、これだけの勢いでまくしたてられる小説はどこか笙野頼子にも通じるところがあるようなスタイルです。
真似できるセンスではないですね、素晴らしかったです。
〇
〇
〇
しかし、三十年くらい使いこまれた携帯電話なら、予測変換で小説を書くことももしかしたら出来るかもしれないですね、擬似人工知能として。
擬似人工知能が何かを説明できない時点で理系の才能が欠片もないことを証明してしまっていますが。
ではまあ、また。
さようなら。
『かがくの ちからって すげー!』