爺、何事だ | 読書日記

読書日記

神郡が読んだ本の感想や、諸雑記を書いていくブログ。
知り合いには見せられないなあ。

三日程前に、道尾秀介『骸の爪』篠田節子『ホーラ―死都―』を読んだのでこの感想でも書こうかと考えていたが、今はついさっき読み終わった本の話をしたくてたまらない。


宮部みゆき『孤宿の人 上・下』

現代ものもだけど、時代劇もまた凄く巧い。ただファンタジーはあんまりだなあ。『ドリームバスター』だけは表紙を山田章博が描いていたので読んでいました。文庫版やコミック版はむしろ拒否反応が出るんだ不思議と。


海と山に囲まれた、讃岐国丸海藩。そこに、江戸から流罪人が流されてくる。幕府で勘定奉行をしていた船井加賀守守利(ふないかがのかみもりとし)。妻と子を毒殺し、部下を切り殺した鬼とされる人であり、死罪にすると悪霊となって更に祟るのではないかと恐れられ流刑になった。

そんな中、丸海藩では毒死や怪異が相次ぎ加賀殿の所為ではないかと噂され――。


感想というか、感想を言える程まだ整理がついていないかもしれない。読後感は複雑。ハッピーエンドにはなれなかった。

内容は簡単。だけど人や町の決まりごとが多くて簡単では無くなっていく。江戸幕府の思惑、藩主の思惑、武家の思惑、奉行所の管轄、漁師町と城下町の対立、毒死、流行病、雷害、噂、信仰、身分と制度、真実と建前。

何が一番悪かったのかって、幕府の政策なんじゃないかと思える程何が悪かったのかわからない。


丸海藩は、罪人とはいえ幕府からのお預かりを疎かにすることは出来ない。何に変えても厳重に丁重に扱う他仕様がない。丸海藩を天領地にする為にお取り潰しの機会を狙っている輩もいるため、不始末を仕出かすことは藩の存続に関わる為だ。それ故、不祥事は事件ごと抹消され、口を噤む以外に手はない。騒ぎ立てるものは始末される。

そんな中で起きる毒殺事件、刺客の襲来、罪人を軟禁している涸滝屋敷の15年前から続く祟りの噂、それらはすべて隠蔽され「加賀さまの祟り」に姿を変えていく。

いつしか病も災害も加賀さまの所為になり、人々は恐怖を募らせ抑圧されていく。

やがて丸海藩で雷避けの神様として信仰されている神社が雷害により全焼したことが発端で、漁師町と堀外町で酷い暴動が起き、町が焼け大勢の人が死ぬ騒動に発展する。

同時に涸滝の屋敷に雷が落ち、加賀殿は亡くなる。雷害をもたらす雷獣と、鬼に変化した加賀殿が相討ちとなった、という噂とともに。

幕府お預かりの方を死に至らしめてしまったが、神として祀られることになったためお咎めはなく、丸海藩は無事存続することになったのでした。

めでたしめでたし?


概要は以上だが、そこに絡んでくる加賀殿も含めた人々それぞれの思いがまったくばらばらで、また複雑。


主人公は「ほう」という小さな女の子。江戸で大きな建具商「萬屋」の、若旦那の妾腹の子として生まれ、母親はすぐに亡くなった。

望まれない子だったのですぐに名前ももらえず、やっともらったのは阿呆のほうという名前。金貸しの老夫婦に養子に出され、ほとんど相手にされず野良犬のような扱いで8つまで育った。しかし萬屋の旦那と若旦那が続いて寝付き、原因は萬屋に恨みを持つ者の祟り、つまりほうの母親とされる。

穢れを払うために金毘羅様参りに出されたほうは、丸海藩まで来たところで意地悪な女中に路銀を持ち逃げされおいてきぼりになる。

身寄りのないほうを引き取ってくれたのは、代々藩医を務める井上家。「匙」と呼ばれる役職に就く家で、女中としてやっとまともな生活を送り始めるのも束の間、雷雨の日に井上家の娘・琴江が毒殺される。

犯人を目撃したほうは、何やらわからぬままにそれは幻だと言い包められ、井上家を追い出される。

引手(岡っ引き)の見習い、宇佐という女性に引き取られしばらく安穏に暮らしていた矢先、突然流罪人であり鬼悪霊とされる加賀殿のところで急死した女中の代わりをすることになり……。

ほうは純真で、真っ直ぐで良い子。頭が鈍いと言われ続けても誰を恨むこともなくいじけることもなく、ひたすら一所懸命生きている。


ほうを引き取った宇佐。女のくせにと言われながら、引手見習いとして健気に頑張っていた。琴江毒殺事件に関わったことが元でほうに出会い妹同然に接する。真犯人を知っており、表沙汰にしたくない藩の意思により引手を辞めさせられる。その後は屋敷へ行ったほうの身を案じながら寺子として働き、ほうの帰りを待つ。

しっかりした17才で、気立てもいいし働き者だし正義感も強いし、いい子だったのに……。


渡部一馬。同心。井上家と親しく、琴江の兄啓一郎とは道場仲間だった。琴江に思いを寄せており、必ず犯人を捕まえようと意気込んでいたが、上からの強い圧力に命の危機を感じ口を噤んでしまった自分に絶望している。宇佐とともに別の変死事件を調べていたが、その事件が思いもよらず15年前の涸滝屋敷と繋がっており、さらにその事件を調べていた医師が変死を遂げたことから脱藩を考えるようになる。

だが、やはり犯人が許せず、琴江が喜ばぬことは知っていても仇討ちを行い、死ぬ。


加賀殿。刺客に驚いたほうが偶然座敷へ迷い込んでしまってからほうに目を掛け、手習いをほどこした。

鬼悪霊と恐れられた所業は、自分の養家を守るための配慮だった。妻と子供は毒を飲んで自死したのであり、部下は口封じのために切った。妻は大奥出身であり、上様からの賜り物を失ってしまったことは切腹に値する。しかし、腹を切ればお家そのものの不名誉となる。自分が悪鬼となり全ての元凶であるとすれば家は守れる。

自分がどのような政策に利用されているか知っており、その責を理解している。ほうに「宝」のほうという名前を与えた。


一体何人死んだんだろうか、この流刑騒ぎで。

引手の嘉介親分の子供たちが、面白半分で屋敷に忍び込もうとした。切り捨てられた。それだけじゃなく、親の責任として両親も死んだ。警備の責任者が腹を切った。皆、病で死んだと言われた。

屋敷で問題が起きると、必ず誰かが腹を切る。理不尽だと思うのは現代に生きているからで、この時代なら当然と受け入れていたことなのかもしれない。名誉は重い。


しかしまあ、暗い話は好きだしなあ。こういう嫌な読後感の残るほうが印象深いのもまた事実。よく一晩で一気に読んじゃいました的な宣伝文句があるけれど、そういうのは忘れるのも早いし、予定調和のハッピーエンドじゃ読んで損した気分になる。やっぱりそうなるのか、最初から予想できたよ、では読まなくても同じだから。

ミステリでも、犯人やトリックが途中でわかるとがっかりする。

次こそは道尾秀介の話でも。伏線とその回収が巧いし、予想の上をいくトリックが好きだ。


今日はこの辺で。さようなら。


「ねんがんの アイスソードを てにいれたぞ」

「 ふーん きょうみないね

  たのむ ゆずってくれ!

>ころしてでも うばいとる」