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宇治京子にもう一度電話をかけようとしたそのときだった。
「すみません! 投資屋のみなさん、申し訳ありません!」
宇治京子だ。 走ってきたのだろうか。 息切れしている、 さらに髪も乱れていた。 それだけでない。 手ぶらだった。
「あれ? 京子さん、お金は?」
比奈が言い寄ると宇治京子は口を開いて告げた。
「さきほどひったくりに襲われて・・・91万円が取られてしまいました。」
「あら、それは大変ですね。 どうしましょうか?」
比奈はどえらく冷静だ。 宇治京子はまだ話があるらしい。
「井浦和彦が・・・数分前に、手術中に感染したであろう感染症を発症して、重体なんです。」
最悪だ。 俺たちが投資した90万円は使われたにも関わらず、意味のない結果に終わり、さらに返済予定の91万円まで失ってしまったと来た。
「困りましたね。 エース君、資産家の兵藤さんと取り合ってきて。」
「え、あっはい。」

やばい。 あの人には冗談が通じない。 下手すれば本当に撃ち殺される。 なんとかできないのか・・・
「私、謝ってきます。 本当にすみませんでした。」
「しかし、井浦和彦さん、残念ですなー。」
倉沢は少し空気を読め。 まあ確かに残念ではある。 せっかく未来で多くの人の命を救う存在になろう人がここで亡くなるかもしれないと思うと・・・
「そうか・・・ 別になんとかなるかも知れん。」
俺は思わず脳内で思い浮かんだことを口に出した。 いや、出さずにいられなかったのかもしれない。
「井浦さんってさー新薬開発したじゃん。 取り合ってもらう方法はあるよ。」
「でも、残りの資産は9万円しかなくて・・・どうすればいいでしょう?」
「いや、大丈夫。なんとかなるよ。」

俺は資産家の兵藤正人にすぐに謝りに行った。 全ての事情を話して。
「何をしているんだお前らは! 苦し紛れに絞って出した少ない金だったんだぞ!」
兵藤正人の第一声はこれだった。 無理も無い。 お金が返ってこないのだから。
「それに、当の手術を受けた本人は感染症にかかり、返済する予定のお金はひったくられるって、 まるで病院とひったくりに投資みたいなものじゃないか! お前らは一体、何に投資をしたっていうんだ! 意味の無い投資をしやがって!」
「俺たちは、井浦和彦さんの開発した新薬を待っている人のためにこのお金を投資することにしたんです。」
「もちろん、出資した分、俺に少しは配当があるよな?」
兵藤正人は金のことばかりだ。 苦しいのはわかるが、そこまで必死にならなくても・・・っていうか働け。
「いえ、それは無理です。 でも、俺たち、そして、あなたのしたことは世の中にとって+に動いているはずです。」
「ひったくりに投資したっていうのにか?」
「いえ、俺たちが投資したのはひったくりではありません。 俺たちは未来に、投資したんです。 今まで助からなかった人々を助けるために、その可能性を伸ばすために投資をしたのです。」
兵藤も言葉が詰まる。
「だから、俺たちの投資を、井浦さんの努力を、意味が無いだなんて言わないでください。」

―なんとか兵藤さんには承諾してもらい、問題は解決した。
そしてその数日後、井浦和彦は病床に伏せたまま、二度と目覚めることなく永眠したのだった。

「ありがとうございます。和彦は手術成功後、あなたたちには感謝しきれないと申しておりました。」
宇治京子と話していたわけだが、彼女は割りとすがすがしい気分でいるようだ。
「まあ。 そういうのが俺たちの仕事なんで。 井浦さんの努力は、これからずっと永遠に、他の人々を助ける資産となっていることでしょう。」
俺はそういうと、比奈と倉沢のいる事務所へと帰っていった。 終わり