津村記久子の作品。
2023年に毎日新聞出版から刊行。
毎日新聞で、2021年7月から2022年7月まで連載していた。
津村作品を、私はわりと読んでいる。
この作品も「新作が出たのか、読もう」と思っていたら評判がよく、谷崎潤一郎賞を受賞した。
本作は4つの年の話でできている。
1981年から、10年刻み。
始まりは、高校を卒業した姉・理佐と、小学3年生になる妹・律が家を出て、2人で暮らすところから。
なぜそういうことをするのかは、母と婚約者が関わっている。
姉は、妹への仕打ちを知って、家を出ることにする。
幸い、住まい付きの仕事を見つけられた。
そば屋のそば粉を、石臼に入れるのが主な仕事。
入れるタイミングは、ヨウム(鳥)のネネが教えてくれる。
ネネの世話もしつつ、そば屋で接客することもある。
複雑だが、理佐は10年、勤める。
そこから10年進んで、91年、01年、11年の話が描かれる。
11年の話では、東日本大震災のこともたくさん出てくる。
理佐たちがいる場所がどこなのかは最後までわからないが(岐阜あたりなのか)、震災の影響は大きい。
人によって違うだろうが、衝撃はすごかったことがわかる。
40年の間に理佐は結婚し、律は町の人に見守られながら成長し、仕事をするようになる。
話が進むにつれ、亡くなる人も、新たに登場する人もいる。
ネネはずっといて(ヨウムは50年くらい生きる)、おしゃべりをしている。
音楽が好きで、人と接するのも好きな鳥だ。
最後は、エピローグとして2021年が描かれる。
そこには、「ほんの少し前なのだけど、すぐ近くに感じられるような温度」がある。
ラストは、「そうかあ、そうねえ」、と、もう少し書ききってもいいように思うが、理佐や律はいるのだ。
連載で一緒に載っていたであろう、挿絵も時々出てくる。
装丁もかわいい。
あとがきも見逃せない。
誰かと話をしたくなる作品だ。
登場人物それぞれへの思いも、溢れてくる。
私は藤沢先生と、聡が特に印象的。
この作品を経て、津村がどんなところへ連れて行ってくれるのか。
次作も楽しみにしている。