(PresidentOnlineに載った、ジャーナリスト「小林一哉」さんの記事です)

兵庫県「おねだり知事」を今辞めさせてはいけない…「川勝知事の電撃辞任」を見てきた私が最も危惧していること

兵庫県庁の男性幹部職員が斎藤元彦知事への告発文を残し自殺した問題で、斎藤知事に辞職を迫る論調の報道が続いている。ジャーナリストの小林一哉さんは「静岡県の川勝知事もメディアの圧力に耐えかねて知事職を放り出した結果、静岡県政はリニア問題でますますの混乱を招いた。斎藤知事を今辞職に追い込むことは、兵庫県政の闇を明らかにすることにつながらない」という――。

斎藤知事へ「辞職」を迫るマスコミ、副知事

兵庫県の斎藤元彦知事(46)へ辞職を迫る厳しい論調の報道が連日のように続いている。

パワハラ疑惑、おねだり疑惑など斎藤知事の7つの違法行為等を告発し、兵庫県議会の百条委員会に証人として出席する予定だった元県幹部のAさん(60)が自死した。

Aさんは「一死をもって抗議する」「百条委員会を最後までやり通してほしい」という趣旨のメッセージを残していた。

そのメッセージと「おねだり」をしたとされる肉声が公表されてから、斎藤知事への風当たりがますます強くなっている。

Aさんの死の直後、片山安孝・副知事(64)が県政の混乱を招いたとして、7月末で辞職すると表明した。

その際、5回にわたって斎藤知事に辞職を促したが、拒否されたことも明らかにした。

それだけでなく、斎藤知事が「嘘八百」などと述べた初動対応を誤り、県職員や県議らとのコミュニケーションが不足していると批判した。

「辞職を巡る攻防」でも川勝知事は辞めなかった

いくら斎藤知事と親密な仲とは言え、副知事が知事に辞職を迫り、知事の対話能力に問題があると批判したことに強い違和感を覚えた。

静岡県では、ことし5月、川勝平太知事(76)が任期を1年以上残して、突然、辞職した。

それ以前には、静岡県議会が辞職勧告決議を突きつけ、さらに不信任決議案が1票差で否決されるなど、県議会で何度も辞職を巡る攻防があった。

それでも川勝知事に辞める選択肢はなかった。2人の副知事も知事を守り、支えた。それが本来の副知事の役割である。

斎藤知事の場合、Aさんが議会関係者、警察、マスコミ等へ告発文のかたちで情報提供した。伝聞調のあいまいな内容が多かったため、百条委員会で特別調査することになった。事実関係はこれから明らかにされるはずだ。

当然、9月県議会でも、斎藤知事への厳しい責任追及が始まるのだろう。

いま辞めると「斎藤知事の疑惑」が雲散霧消する

県議会の審議の場で、知事の盾となるはずの副知事が

 

 

てのひらを返したように知事に辞職を迫って、辞めてしまうのだ。

副知事がメディアなどと一緒になって「水に落ちた犬をたたく」という感じがして、どうもしっくりとしなかった。

まるで事実関係にすべて蓋をしてしまいたいように見えた。

パワハラ疑惑や「おねだり」というAさんの告発は自身の経験ではなく、他の職員からの伝聞であり、その告発が客観的に正しいのかどうかを判断するのは非常に難しい。

実際には、百条委員会を最後までやり通しても、真実が明らかになるのかどうかわからない。

しかし、斎藤知事が辞職してしまえば、非を認めたことに等しい。

そうなると斎藤知事を巡る兵庫県政のゴタゴタは闇に葬られる可能性が高く、その後、県政の立て直しを焦点とした知事選に世論の関心は向けられるだろう。

そもそも亡くなったAさんが告発した7つの問題を見ていくと、斎藤県政への強い反感はあまりにも主観的であり、具体的な説得力に欠ける。

斎藤県政のゴタゴタの根っこにあるものを指摘したい。

「告発文」はすべて「客観性がある」と言えるか

Aさんは、告発文書の第1番目に、「五百旗頭(いおきべ真・ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長の逝去に至る経緯」を取り上げた。

五百旗頭氏が急性大動脈剥離で突然、倒れたのは、その前日に片山副知事が同研究機構を訪れ、2人の副理事長を再任しないことを五百旗頭氏に伝えたことだとある。

その結果、理事長、副理事長らの任命権者である同機構会長の斎藤知事を糾弾している。

この告発内容はどう考えても客観性に欠ける。

急性大動脈剥離を発症した80歳の五百旗頭氏の血圧が高かったことは予測できる。

だからといって、五百旗頭氏と面会した片山副知事が大きなストレスを与えたことが、「五百旗頭氏の命を縮めたことは明白」とはあまりにも飛躍しすぎである。

告発文では、斎藤知事を「井戸(敏三前知事)嫌い、年長者嫌い、文化学術系嫌いで有名」などと一方的な批判をした一方で、五百旗頭氏については「井戸敏三前知事から懇願され、兵庫県立大学理事長をはじめ兵庫県政に深く関わってきた」と高く評価している。

五百旗頭氏の死因となった急性大動脈剥離を発症したのは、2人の副理事長を再任しなかった「五百旗頭、井戸の両氏に対する嫌がらせ」がきっかけだったとしている。

斎藤県政に反感を抱くAさんの感想だろうが、その因果関係をちゃんと証明できるはずもない。

斎藤知事、片山副知事だけでなく、ふつうこのような極端な糾弾をそのまま受け入れる人はいない。

「お友達人事」はどの組織でも存在する

この情緒的で極端な告発の内容を見れば、Aさんが井戸前知事に近かった人物であることがわかる。

またこの告発から、Aさんは、2021年7月の知事選で、井戸前知事の後継者だった金沢和夫・前副知事(68)を応援したことも容易に想像できる。

知事選で金沢氏が敗れたことへのうらみがAさんの文書からはっきりと見えてくるからだ。

金沢氏が知事となっていれば、Aさんにとって理不尽な人事が行われていたはずもないからである。

告発の2番目では、知事選で斎藤知事を応援した県職員4人がトントン拍子に出世したことを地方公務員法違反だとしている。

4人が昇進したのは事実だろうが、それはAさんの個人的な恨みつらみを並べているに過ぎない。

Aさんは西播磨県民局長で定年を迎えるはずだった。出先の局長級でも県幹部なのだろうが、Aさんには不本意だったこともわかる。

金沢知事が誕生していれば、そのようなことはなかったのかもしれない。

どこの組織でも、権力者が変われば、それに伴う人事が行われる。

静岡県政でも、川勝知事の“お友だち人事”は有名であり日常茶飯事だった。

県立大学学長、県立美術館長やさまざまな要職に川勝知事の“お友だち”が就いている。

 

本庶佑氏に独断で県民栄誉賞を贈った川勝前知事

 

なかでも2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏に静岡県民栄誉賞を贈った経緯には驚かされた。

本庶氏は、2012年4月から5年間、県公立大学法人理事長に就いた。選考委員会などはなく、川勝知事の指示で任命された。本庶氏は静岡県と何らの関係もなかった。

週2回静岡県に来てもらって、月額約105万円の報酬を支払っていた。途中で本庶氏から週1回にしてくれとの要請があり、報酬は半額となった。

多額の報酬を支払っていた本庶氏が2018年にノーベル賞を受賞すると、川勝知事は県民栄誉賞を与え、県主催の祝賀パーティーなどを開いた。

ほとんどの県民は、本庶氏と静岡県の関係など全く知らない。

本庶氏の県民栄誉賞受賞は川勝知事のマッチポンプである。県民栄誉賞が川勝知事の「権限」で決まるのだから、誰も反対できなかった。

それに比べれば、兵庫県の財団の2人の副理事長を交替はそれほどの問題ではない。斎藤知事(あるいは片山副知事)のお手盛りであることに不思議を感じない。

人事などそんなものであり、誰が理事長、副理事長などの名誉職に就いてもおかしくないからだ。

1番目、2番目の告発文書を読めば、Aさんの個人的な恨みつらみ、不満でしかない。

斎藤知事の疑惑にまとわりつく「政治的なニオイ」

2021年7月の兵庫県知事選は、5期20年という長期にわたった井戸県政の評価が焦点となった。

井戸県政を真っ向から否定した斎藤知事が、井戸知事の後継とされた金沢・前副知事を25万票の大差で破って当選した。

金沢氏は自治省出身のキャリア官僚であり、1998年から4年間、兵庫県の総務部長、企画管理部長などを務めた。熊本県副知事などを務め、2010年から11年間、井戸知事を副知事として支えた。

井戸知事は後継者として、金沢氏を副知事に迎えたのだろうが、そこに斎藤知事が割って入った。大阪府で圧倒的な人気を誇る維新の会が擁立して、「変化」を求めた兵庫県民は斎藤知事を選んだ。

考えればわかるが、Aさんを含めて井戸知事のシンパと見られる職員は数多く、また都合15年間も兵庫県に務めた金沢氏と一緒に仕事をした職員も数多いだろう。

当然、井戸前知事や金沢前副知事は、ふだんから斎藤県政について親しい職員から事情を聞いていただろう。Aさんもその1人だったのだろう。

前回選は保守分裂で自民党は割れたが、次回選は金沢氏でまとまるのかもしれない。兵庫県のゴタゴタの根っこからは、政治的なにおいがプンプンしてくる。

政治的な力がさらに加わり、斎藤知事への非難や糾弾が続くから、斎藤知事がどこまで持ちこたえられるのかが焦点である。

 

知事が任期途中で職を辞す影響は大きい

 
斎藤知事も、辞職を迫るこれだけ激しい“攻撃”にさらされれば、疲れ果てて、不本意ながら辞職してしまうかもしれない。

筆者は「いま斎藤知事は辞めるべきではない」と進言したい。

斎藤知事が辞めれば、調査権限を有する百条委員会の役割は形骸化され、真実を追及する姿勢までも失われてしまう。川勝知事が不適切なタイミングで突如辞職し、リニア問題で多くの「負の遺産」を残したのはこれまで述べてきたとおりだ。

斎藤知事を留まらせ、兵庫県政の闇の部分を少しでも明らかにすべきだ。

斎藤知事は知事という身分のまま百条委員会で証言してほしい。

 

パー券購入強要疑惑、キックバック疑惑…

 

Aさんの告発文書の5番目の「政治資金パーティー関係」と6番目の「公金横領、公費の違法支出」については、まさしく犯罪行為の疑惑であり、斎藤知事を含めてすべての証人を呼んで事実関係をしっかりと調べるべきである。

告発文書には、2023年7月30日の政治資金パーティーで、県内の商工会議所、商工会に補助金削減をほのめかせて、パーティー券を大量に購入させたとある。

また兵庫県信用保証協会の保証業務を利用して、パーティー券購入を依頼させたともある。いずれも関係者すべてを呼び、さらに関係書類を提出させて、事実を明らかにすべきである。

昨年11月23日の阪神・オリックスの優勝パレードの費用が集まらないので、地元信用金庫への補助金を増額させてキックバックさせたと告発文書にある。

寄付集めに奔走した産業労働部課長はうつ病を発症して病気休暇中であり(後に4月に亡くなっていたことが判明)、公金横領、公費の違法支出があったとしている。

その陣頭指揮には副知事が当たったとしている。

 

人が亡くなっているからこそより慎重な対応を

筆者は、川勝知事に関する記事の中で、一度、斎藤知事の退職金を取り上げた。

静岡県知事の退職金は1期4年で約4060万円であり、兵庫県知事の約4050万円とほぼ同額である。

初当選した川勝知事は公約で1期目の退職金を受け取らなかった。また静岡県では県庁OBの3人の副知事が退職金を受け取っていなかった。

2021年7月、初当選した斎藤知事は、退職金を50%減額、給料、ボーナスを30%減額にすると公約した。

県議会で条例改正を行い、1期4年務めれば、斎藤知事の退職金は約2000万円となる。

また副知事も退職金の25%減額、給料、ボーナスは15%減額とする条例改正も行っている。つまり、斎藤知事に準じた形を取っている。

告発したAさんは自ら命を絶ってしまった。人が亡くなっているからこそ、「仇取り」のような感情論に終始せず、より慎重に責任の所在や事実認定を進めていくことが必要だ。

 

逃げ得!【牛タン倶楽部】斎藤知事の側近4人組の内、3人が現場から離脱!百条委へ向け病欠予定か?

兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラなどの疑惑を内部告発された問題で、県が実施した内部調査の責任者だった井ノ本知明総務部長が7月30日から病欠していることがわかった。片山副知事が県政の混乱を招いたとして7月31日付で辞職。前理事も体調不良で休んでおり、県政の中枢を担ってきた幹部3人が現場を離れる事態となった。

 

(FRIDAY DIGITALの記事より)

【県議が衝撃証言】「知事は傀儡だった」兵庫・斎藤知事のバックにいた「疑惑の黒幕」へ集まる痛烈批判

 
「傀儡だった」の衝撃証言

「県政の混乱は斎藤元彦知事(46)の問題だけではありません」

ある兵庫県政関係者はこう語り、憤りを隠さない。

「『斎藤知事は興味があることでしか動かない』というのは、職員の間では有名な話。自転車、生殖医療、ドローンなど、自分が好きな分野、体験したことには口は出すけど、その他のことへの動きは鈍い。一部の幹部職員以外とは全くコミュニケーションを取らないから、現場を知らないし、県政の状況にも非常に疎い印象です。そのため、Aさんの告発文にあった阪神とオリックスの優勝パレードやパーティ券を巡る問題は、とても知事一人で絵を描ける疑惑だとは思えないのです。『知事は早々と辞職した片山安孝副知事(64)の傀儡だった』というのが我々の見方です

片山副知事は「自分の辞職と引き換えに百条委員会の設置を考え直してくれないか」と最大派閥の自民党会派に頼み込んだとされる知事の右腕である。

7月12日に辞職を表明した際、「斎藤知事に計5回にわたり辞職を進言した」と述べたが、県内ではそんな片山副知事への不満も溜まっている。前出の県政関係者が打ち明ける。

「涙ながらに会見する副知事の様子を省庁の一室で見ていた職員から『逃げたな』という声が一斉に上がりました。A氏のパソコンを押収し、事情聴取したのも副知事ですからね。猿芝居もいい加減にしてほしい」

 

「県政の混乱は斎藤元彦知事(46)の問題だけではありません」

ある兵庫県政関係者はこう語り、憤りを隠さない。

「『斎藤知事は興味があることでしか動かない』というのは、職員の間では有名な話。自転車、生殖医療、ドローンなど、自分が好きな分野、体験したことには口は出すけど、その他のことへの動きは鈍い。一部の幹部職員以外とは全くコミュニケーションを取らないから、現場を知らないし、県政の状況にも非常に疎い印象です。そのため、Aさんの告発文にあった阪神とオリックスの優勝パレードやパーティ券を巡る問題は、とても知事一人で絵を描ける疑惑だとは思えないのです。『知事は早々と辞職した片山安孝副知事(64)の傀儡だった』というのが我々の見方です」

片山副知事は「自分の辞職と引き換えに百条委員会の設置を考え直してくれないか」と最大派閥の自民党会派に頼み込んだとされる知事の右腕である。

7月12日に辞職を表明した際、「斎藤知事に計5回にわたり辞職を進言した」と述べたが、県内ではそんな片山副知事への不満も溜まっている。前出の県政関係者が打ち明ける。

涙ながらに会見する副知事の様子を省庁の一室で見ていた職員から『逃げたな』という声が一斉に上がりました。A氏のパソコンを押収し、事情聴取したのも副知事ですからね。猿芝居もいい加減にしてほしい

ある県議は「片山副知事も追及されるだろう」と語気を強めた。

「注目されている疑惑が二つあります。阪神とオリックスの優勝パレード開催のための寄付が集まらず、地元の信用金庫に補助金を増額してそれをキックバックさせた疑惑と、県補助金の減額をちらつかせて関係団体を脅して購入させたという疑惑です。すでに兵庫県警の捜査2課が捜査をしているとも聞いている。県内企業からコーヒーメーカーを受け取った県産業労働部長が、県警から任意聴取を受けていることも明らかになっています。正直、斎藤知事に実行力や調整能力があるとは考えづらく、本丸はあくまで片山副知事ではないか。副知事が辞任して終わり、とはなりませんよ」

(A氏の作成した告発文の優勝パレードに関する記述にも、片山副知事の名前が記されている)

8月までには県職員のアンケート結果が集まり、随時検証される予定だったが、職員の負担を考慮し、8月上旬に開催予定だったパワハラ事案に伴う職員などへの証人尋問は伸びたという。その背景には、こんな事情があった。

「維新の会派から『県職員全体へのアンケート結果は匿名を許可すべきではない』との発言があったのです。結果的に匿名になりましたが、外郭団体も含めた7000人相当のアンケートの取り方については相当、議論がなされた。特に職員への心的な不安を取り除くため、また早期の事実解明を目的に、県の職員は弁護士同席のもと出頭することも討議されました。そもそも、匿名を認めないという発言が出たり、弁護士同席を検討したりするほど職員を守らねばならない状況にあること自体が、兵庫県政の異常さを表している」(県議会関係者)

百条委員会は約11回開催された後、年内を目処に調査報告書の取りまとめがなされる見込みだ。

A氏の遺族は、12日付けで百条委員会に向けて以下のようなメッセージを送った。

あまりにも突然のことで、いまだに実感は湧きません。 しかし、主人がこの間、県職員の皆さんのためを思ってとった行動は、決して無駄にしてはいけないと思っています。 主人が最後の言葉を残していました。 そこには『死をもって抗議をする』という旨のメッセージとともに、19日の委員会に出頭はできないが自ら作成した『陳述書』および参考の音声データの提出をもって替えさせてほしいこと、そして百条委員会は最後までやり通してほしいことが記されていました。この主人が作成した陳述書および音声データを資料として委員会に提出いたしますので、委員会として、その遺志を受けとめていただきますよう、よろしくお願い申し上げます

その上で、こう切なる思いを綴っている。

職員、県民の皆さんに広く知っていただきたいと思います。 奥谷委員長をはじめ委員の皆さまのご尽力によって、この問題の真実が解明され、主人が望んだ職員の皆さんが誇りをもって働ける兵庫県庁となることを、遺族一同願っています

A氏の死と、その後の県の対応に不満を持つ職員が続出しており、新たな告発者が出てくる可能性も聞こえてきている。県民や職員たちの不信感を拭うためにも、一刻も早い真相究明が求められている。

 

 

 

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