(朝日新聞より)
「嫌中」動画、気軽に下請け 台本沿いAIで量産「恨みはない」
今朝の朝日新聞の一面が、「嫌中動画作成の下請け」でした。政治思想のない20代の若者が、気軽に作成。ターゲットは文字を読むのが苦手な人、特に高齢者。詳細は2面にありましたが、こちらは図書館などでご覧いただければと。 pic.twitter.com/N63tltkuWF
— 西成見物 (@Tengachaya999) May 7, 2026
「日本の新幹線に世界が震撼(しんかん)」「桜を荒らす中国人 彼らの身体に異変が」――。
インターネットの動画投稿サイトを開くと、扇情的な文言の動画があふれている。日本の文化や産業を称賛したり、日本にいる外国人を非難したりするような動画だ。
AI(人工知能)で生成したとみられる画像が紙芝居のように次々現れ、無機質な音声が物語を進めていくものが目立つ。
実話か創作かが明記されていないものもあり、再生回数は多い動画で数十万に上る。多くは広告が挿入され、再生数に応じて収益を生む。
そんな動画の編集作業を「下請け」していたという男性が3月、朝日新聞の取材に応じた。
男性は記者に「個人的な主義や主張、外国人への恨みとかは一切無い。知らず知らずのうちに、とんでもないことに加担していたのかもと怖くなった」と語った。
始まりは、副業を探していた2年前
男性は、20代の会社員。もともと人と関わるのが苦手で、大学卒業後に入った会社は体調を崩して1年足らずで辞めた。次の会社では適応障害を発症して休みがちになった。年収は約250万円。学生時代の奨学金の返済もある。将来に不安を感じて副業を探していた2年前、その仕事に出合った。
きっかけは、大手の仕事仲介サイトで見つけた動画編集の求人だった。
求人内容は、AIを使って動画に登場する人物や場面の写真を生成、編集するというもの。自分のペースで作業できて、簡単に見えた。募集ページには「中国批判系など海外の反応YouTube動画のお仕事」とあったが、その意味を深く考えることはしなかった。
発注者とはチャットでのやりとりに終始し、顔を見たことも声を聞いたこともない。「お金さえもらえればいいのかなって。相手のことも特に気にならなかった」
作業は「手順書」に沿って
作業は「手順書」と題するマニュアルに沿って進めた。台本やサムネイル(表紙画像)の作成、画像生成など、担当が細分化されていた。
仕事を始めて半年ほど経ち、こうした「嫌中」動画が誰に、どんな見られ方をしているのかが気になってきた。
台本のタイトルを投稿サイトで検索してみると、手がけた「作品」が次々と画面に現れた。
見る人の憎悪をあおり、時に思考をゆがめるネット動画。その一端には、顔の見えない者同士が結びつき、AIで量産する「効率の良いお金もうけ」があった。
あおるほど稼げる、という現実 あふれた称賛コメント「社会を分断させたかも」
「嫌中」動画や日本称賛系動画のコメント欄には、内容を事実と疑わないような称賛と憎悪があふれていた。
「この動画で目が覚めた」「外国人は許せない」
動画が関心を集め、再生数が増えるほど、収益を生んでいることを実感した。得た報酬は、多い月で約5万円。「お金のためだった。でもそれが誰かの思想をゆがめ、社会を分断させたのかもと気づいた」
今年1月、発注者から「収益化ができなくなった」と知らされた。
仕事は途絶えた。だが焦りや不安より、後悔の念にさいなまれた。「外国人への影響を想像することもしなかった。人として、間違ったことをしたんじゃないか」
取材に応じたのは、「過度な中国批判は、お金もうけのために人為的に作られたものかもしれない。内容を信じてしまう人が少しでも減れば」という思いからだ。
発注者とはチャットでのやりとりに終始し、男性は最後まで顔も声も知らなかった。
■発注者は
「日本が大好きな方、中国が嫌いな方」募集 規制で収益消え政治系に転向「すごく簡単。2週間で50万円」
朝日新聞は昨年12月、この発注者に取材していた。
東京都内のオートロック付きマンション。インターホン越しに取材と伝えると、白髪交じりの男性が降りてきた。「家族が『外でやって』と言うので」
男性は近くの路上で、大手仕事仲介サイトに「嫌中系」をうたう動画制作の求人を出し、つくった動画をYouTubeに投稿してきたことを認めた。
なぜ、「嫌中」動画をつくったのか。
計5回の取材に語ったところによると、男性は60代。有名私立大学を卒業し、外資系など複数の金融会社で20年近く働き、2000年代に国家公務員に転職した。
転機は定年退職した数年前。「独立し、クリエーティブなことで稼ぎたい」。目をつけたのがYouTubeだった。
当時、顔を出さずに、静止画や機械音声を使った動画がはやり始めていた。元手がほぼいらずに稼げることに魅力を感じた。セミナーに入り、収益を増やすため、「成功者」たちから編集や台本の外注方法も学んだ。
最初に始めたのは、大谷翔平選手を扱うチャンネル。広告収益は最高で月150万円に上ったが、浮き沈みも激しかった。それに、移籍先のことなど、ニュースを追わないと再生数は伸びない。「大変だった」
しばらくして、「嫌中」がはやり始めた。中国人と関わったことはないが、中国批判をする雑誌への投稿歴もあり、参入にためらいはなかった。「中国人は嫌い。自分のやりたいことと、視聴者の需要が一致した」
仕事仲介サイトの記録によると、男性は24年7月~25年12月、「嫌中」や、日本が中国など他国よりも優れているとする「日本称賛」の仕事ばかりを発注。募集文には、「中国人の迷惑行為、その後、自業自得になったり、天罰が下ったりするフィクション動画」「応募条件は日本が大好きな方、中国が嫌いな方」などと書かれ、少なくとも30人以上と業務委託が成約していた。
男性によると、大谷選手の動画も嫌中系も、視聴者の大多数は65歳以上。ただ、嫌中系は最後まで見る人が多く、広告単価は、大谷選手の動画の約3倍に。収益は「多くて月約60万円で、安定していた」と話す。
男性は取材に、「あくまで中国を批判しているだけ。嫌中は何年も許されてきたし、他にやっている人もたくさんいる。今さら問題視するのはおかしい」と憤った。
仕事仲介サイト上の募集は昨年12月、「差別につながる可能性が高い」として非公開処分に。「嫌中」チャンネルも今年1月にYouTubeに広告収益を止められたという。YouTubeは1月、AI(人工知能)による「低品質動画」を規制する方針を示していた。
すると男性は1月、新たな「政治系チャンネル」を開設。高市早苗首相を取り上げつつ、野党や、自民党でもネットで不人気の政治家を批判した。
外注せず自ら編集し、「すごく簡単。2週間で50万円稼いだ」と豪語する。まもなく広告収益を止められたが、こう語る。
「これからもYouTubeで稼ぎますよ。これを中心に、妻子を養っていくんで」
YouTubeの運営会社Googleは、「スパムや詐欺などの欺瞞(ぎまん)行為」などを禁止。同社は25年10~12月、ポリシー違反があったとして世界で約340万チャンネルを削除したが、男性のものとみられる「嫌中」チャンネルは、5月上旬も削除されていない。
■アテンションエコノミー 怒り・嫌悪で引きつけ広告収益、視聴者は一呼吸置いて
国際大学・山口真一教授
SNSや偽・誤情報の問題に詳しい国際大学の山口真一教授(社会情報学)は、「嫌中」動画が出回る背景に「負の感情をあおるほど収益につながる『アテンションエコノミー』の構造的な問題がある」と指摘する。
山口教授によると、特定の国や集団への反感を刺激する内容など、怒りや嫌悪といった感情は人々の注意を引きやすく、制作者は広告収益を得やすい。「発信者の信条や差別意識だけではなく、経済的動機も無視できない」と言う。
山口教授は、「視聴者に現実の出来事と受け止められれば、差別意識の強化や現実認識のゆがみにつながりかねない」と話す。
「誰にでも起きうる問題」とする一方で、山口教授らの2023年の調査では、50、60代の視聴者は若い世代に比べ、偽・誤情報や陰謀論を「やや信じやすい」傾向にあった。背景に、「テレビでYouTubeが視聴できるようになり、テレビ番組や新聞に近い感覚で接している可能性がある」という。
動画には、露骨な差別表現は使わずとも、間接的に特定集団への嫌悪や偏見をあおるものも少なくない。
山口教授は、「明確なポリシー違反と断定しにくい『境界線上のコンテンツ』にプラットフォーム企業が適切に対処できるかが問われる」と指摘する。
具体的な対策として、問題のあるコンテンツを量産するアカウント群をより早く把握し、広告収益を停止することや、動画を視聴者にすすめる「アルゴリズム」を、特定の動画については抑制することなどをあげる。
視聴者は、強い反感をかき立てる動画ほど、「(直接の当事者の証言や公式発表などの)1次情報はあるか」「投稿の目的は何か」など一呼吸置いて考える習慣が必要だと指摘する。
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