※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください

[英名]Holly
[学名]Ilex aquifolium
モチノキ科/常緑低木
時には高さが6mに達する(※もっと高いという説明もある)
[全体]:よく枝分かれしてピラミッド形の樹形になる
[枝]:若枝は無毛
[葉]:短い柄/互生する/長楕円状卵形/長さ4~8cm/縁は波打つ/数個の鋭く尖った三角形の歯牙がある(老樹ほど少ない)
[花期]:5~6月
[花]:小さくて白い花/4~5個の萼片/雌雄の花は別株/前年枝の葉腋に房状に咲く
[実]:12月に直径約6mmの球形の核果が鮮やかな赤色に熟する


【分布・育て方】
◆ヨーロッパ中
◆ヒイラギという名にも関わらず、本来のヒイラギ(Osmanthus heterophyllus)とは全く縁が遠い

【伝承など】
◆[古代ケルト]:セイヨウヒイラギ/ヤナギは“7種の神聖な木”聖木として生木を火にくべたりすることを固く禁じられた/この枝(冬も緑を保つ)で家の周囲を飾って森の精霊を迎えた/春の若芽・青葉の到来を保証するものとされた
◇ケルトの冬の神(グリーン・マン)は、モミ・セイヨウヒイラギで飾られハシバミの枝を携えていた(そのシンボルはサンタクロースに引き継がれた)
◇“緑の騎士”は西洋ヒイラギを象徴しているという
◆[古代ローマ]:12月17日のサトゥルナリア祭(サトゥルヌスの祭=農神祭)にこの木を供えた/犠牲のロバを殺した/この風習を初期キリスト教徒が真似たことがクリスマスの慣習となった
◆[キリスト教]:十字架上のキリストから落ちた血が実を赤く染めたとされた/冬でも緑が濃いので永遠の生命の象徴ともされた/キリストの荊の冠が西洋ヒイラギで作られたとも言われた
◇キリスト教では「異教の風習」としてクリスマスのヒイラギなどを禁止したが全く徹底せず、一転して容認となった

【花言葉】
 『家庭円満』『予見・洞察力』

【民俗学的なこと】
◆[古代ギリシアの女性預言者]:ヒイラギの枝で自分を鞭打つ・マットレスの中にヒイラギの葉を詰めて寝る、といった自虐行為は、神の預言を得るための陶酔状態へ入る1つの手段だった
◆[クリスマスの飾り]:鋭く尖った歯牙のある硬い葉/赤い実を使う/中世のクリスマスでも飾られていた
◆[クリスマス・キャロル]:古いものには少なからず登場する:“クリスマスの季節は/花嫁のようにやって来る/ホーリーとアイビー(キヅタ)をまとって”
◇キヅタは男性的・セイヨウヒイラギは女性的とされた(ローマのバッカスの祭礼にて)
◆[家畜は元気に育つ]:クリスマスイヴに家畜の目につく所へ吊しておくと良い
◆[焼いて終わる]:クリスマスの西洋ヒイラギは十二夜には取り払って焼き捨てる。焼かずに捨てるだけでは後に祟りがある/十二夜後まで残しておくと残った葉・小枝の数だけ災難が降りかかる
◇青いうちに焼くのは大凶だが、教会に飾った一枝だけを屋内にしまっておけばその年中は縁起がよい、という
◆[灰の水曜日]:燃えた西洋ヒイラギの灰で額の上に十字架を描いた
◆[棕櫚の日曜日](枝の主日):飾り木の柱となるモミ・ハシバミを飾り付けるものの1つとして、ヒイラギの赤い実が用いられた
ヒイラギの輪飾りをかぶり
◆[害毒を防ぐ][雷除け][魔除け]:家・畑の近くに植えておく/サトゥルナリア祭の頃に小枝を贈って互いに無事を祈り合った(byプリニウス)
◇雷除け・魔除けはイギリスでも言い伝えられた
◇一般に棘状のものは、魔女・悪霊を防ぐという
◆[凶事のもと]:花枝を折る/友人にその小枝を贈ると(ウェールズ)
◆[家庭内不和を引き起こす]:クリスマスイヴ前にこの木を屋内へ持ち込むのは凶
◆[実を踏むと祟りがある]:実は聖鳥コマドリの冬の餌だから
◆[天候占い]:秋に実が多ければ厳しい冬を迎えるしるし
◆[夢占い]:クリスマスイヴ/大晦日/ミッドサマーイヴ/ハロウィンに
◆[病気を移し取ってくれる]:くる病・ヘルニアの子供にこの木の枝の間をくぐらせる(サリー州)/霜焼けを枝で打つと治る(ダービシア)

【特徴と利用法】
◇葉は苦い収斂/強壮性のハーブ
◇果 実は有毒
◆[小間物][家具植物][ろくろ細工][象嵌細工][数学器具]:材質が固い・木目が細かい・重みがある・虫が食わない、のでこれらの材料に向く
◆[杖][鞭の柄]
◆[鳥もち]:雀類を捕らえるのに良い,樹皮を押し潰す/発酵させて作った
◆[釣りの餌]:針にはヒイラギの実を刺して釣りをする
◆[動物にとって]:3mくらいから上の葉にはトゲがない。そのため冬場の小鳥・シカに餌と隠れ家を提供している
◆[生垣]:生育が遅いので好適/トゲのある葉がびっしり茂ってあらゆる侵入者を防ぐ

【症状と薬効】
 利尿/解熱作用がある
[マラリア][天然痘][間欠熱][気管支疾患][インフルエンザ][肋膜炎][喘息][中風][リウマチ][黄疸]:葉の煎じ汁を内服する(古くから)
[発汗剤]:葉を使う
[吐剤][下剤]:実を使う
[骨折][脱臼]:樹皮・葉の煎じ汁
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください

[独名]Eibe
[学名]Taxus-baccata
イチイ科
10mになる(最大15m)/多幹性/常緑
生長が遅い/樹齢は2000年も重ねられる
[葉]:暗緑色の針葉樹/平ら
[樹皮]:赤みを帯びる
[花期]:5月
[実]:8~10月に果実をつける/透明感ある淡紅色/1~2個の種がある

【分布・育て方】
◆全ヨーロッパに散らばる/アルプスでは標高1200mまでの所
◆湿った場所/石灰質土壌/陰になった場所で生育する/ほとんど光は必要ではない(日陰に強いモミの木の半分でよい)

【伝承など】
◆[暗いイメージの原因]:たいていの場合「他の木々が生えない場所(荒れ地,泥炭地)に悲しげにひとりぼっちで生えている,常緑で奇妙なほど不変である」という外見上の特徴がある。キリスト教下では不変な理由として「悪魔と契約して不死性を獲得した」ように見られた。この不気味な外見に毒持ちという特徴が加わった
◆[古代ローマ]:復讐の女神フリア(アレクトー・ティシポネー・マガエラの総称)が手にするかがり火はイチイの木/ローマ人は「有毒な木」だとしていた/ローマ人は未開の地を覆うイチイを開拓のために伐採していった
◆[北欧神話]:弓矢の神ウルは「ユーダリル(イチイの谷)」に住む/ルーン文字では「偉大な治癒力がある」とされていた/イチイの名を留める地名例:「タクスベルク,ユーバースハイン,ユーバ,ユーバッハ,タクスエルデルン」
◇今日ではイチイ(アイベ)は全く見られないが「イバッハ」のような地名は、昔はイチイがよく見られたことを示している
◆[ケルト文明]:1年の最も暗い局面(冬)を象徴する死の女神に捧げた/「最古の木」という意味を与えられた/根は死者の口の中で成長する/木を通じて子孫は死者と話しできる/ディアドラの伝説に出てくる
◆[弓への利用]:イングランド・スコットランド・ウェールズ(最もイチイを怖れ敬った古代ケルト文化を受け継いだ3国)では弓の材料として大陸から輸入しなければならなかった。最大の輸入先はアルプス(ここには地名にアイベンコーゲル/アイベンベルク/アイベングラーベンなどと残っている)、他にはポーランドとスペインも重要な輸出国だった
◆[森林破壊]:ニュルンベルクのフュラー・ストッカマー商会は、3世代の間にオーストリア ・アルプス地方からイチイの木を伐採し、軍隊用の弓の材料としてイギリスに運んだ。商会は事業を独占的に営み、40年間に毎年20,000の弓を納入し、領邦諸侯は弓1,000につき平均34フローリンの金を得た。結果はイチイの木の絶滅だった
◇イチイは保護される対象となっていった(早くも中世後期に:ドイツ)

【民俗学的なこと】
◆[永遠の生命の象徴]:常緑樹・寿命が長いため/ドルイドの神殿が近くに建てられた/初期キリスト教徒がそれを真似たのでそのまま教会墓地の木となった
◆[棕櫚の日曜日に](復活祭1週間前):常緑樹なのでシュロの無い北方では使われた
◆[聖なる木][墓場の木]:神々の元へ赴く死の道程と常に結びついていた/墓番として鬱蒼と繁茂している/古代のケルト系の土地では「死者の休息のシンボル」として魔女から守る
◆[永遠の命の象徴]:死後の復活を信じる者にとっては“歓びのシンボル”だった(ヒルデガルドの記述)
◆[聖なる場所を作る]:礼拝・裁判が行われる場所はイチイの木で縁取られていた(ゲルマン人)
◆[魔除け]:イチイから作った十字架を子供の首に掛けた(南欧の多くの地方)/どんな悪魔の力も効かないと言われた(シュペッサルト地方:ドイツ)
◆[ドルイドの占い棒・魔法の棒]:イチイから作る(他にはハシバミ・ナナカマドから)/赤い実・赤い材こそが魔術的な力の象徴/新月(or)月食の晩に手の込んだ儀式を用いて切り出した/『マクベス』にその場面が出てくる
◆[魔法の椅子の材料]:「イチイ/落葉松(オウシュウカラマツ)/松(オウシュウアカマツ)/トウヒ/モミ/ヨーロッパハイマツ(Pinus-cembrea)/ヨーロッパの高原に生える松(※ヨーロッパクロマツか?)/ビャクダン/ビャクシンのこれら全ての木材をヴァルプルギスの夜(5月1日のイブ)に集め、聖トーマスの夜に切断(この時に左手だけを使う)し、瞬時にそれを背もたれの無い椅子に組み立てる」。この椅子に座れば地獄を一瞥できるという伝説

【特徴と利用法】
◇全て(とりわけ抽出液)が毒になる(例:シェイクスピアがハムレットの父を死なせるのに使った毒にも入っている)ので、イチイに触れる動物はほとんどいない
◆[長持ち][板材]:木材は紅褐色の心材を持ち美しいので材料として使われた
◆[家庭用品][棍棒]:硬い材質・柔軟さを持つために使われた
◆[弓材]:上記のメリットが好まれた/弓にはアメリカマンサク(ウィッチヘーゼル)・セイヨウトネリコも使われたがイチイが最高/長弓は長さ2mのイチイ材の弓に1mの矢をつがえた
◆[底角材]:オークよりも耐腐敗性を持つので、家の石台に直接置かれた
◆[葡萄の木の支え]:オークより長持ち
◆[黒いイチイ]:“ドイツの黒壇”として鉄塩で黒く着色したイチイを化粧板・象眼細工に用いた
◆[箒]:イチイの枝を束ねた(チューリヒのオーバーラント)
◆[紐]:コピスにした細い幹は強くしなやかなので丈夫な紐になる
◆[毒矢]:タキシンというアルカロイドを果実以外の全てに含む(含有量は冬に最高となる)
◆[動物にも毒]:馬・牛・ロバ・犬・猫に有毒/ノロジカ・イノシシ・兎は枝を食用にしても大丈夫/鳥は果実をついばむが種を吐き出す習性をもつ

【料理】
◆[実を食べる]:熟して紅色になった仮種皮を食べるが種は猛毒
◆[果実酒]:蒸留酒に漬けたりする

【症状と薬効】
◆中世でも毒以外に有効な利用法は見出せなかった
[堕胎薬]:しばしば死をもたらした
[痛風][リウマチ][肝臓病]:葉から取ってホメオパシー(同種療法)にのみ用いられる
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


◎野バラ

[英名]Dog-Rose
[学名]Rosa-canina
バラ科/落葉性低木
3mまでの高い茂み
[茎]:湾曲したトゲがある
[葉]:互生/5~7の小葉からなる奇数の羽状複葉/柄は短い/縁に鋭い鋸歯あり
[花期]:6月(“薔薇の月”と呼ばれる:ドイツ)
[花]:薄桃~桃色/僅かに芳香あり/花弁は5枚
[実]:9月半ば過ぎには実(ローズヒップ)をつける/果肉は真っ赤/甘味は初霜の後に強くなる

【分布・育て方】
◆道端・林縁・畦・日当たりの良い場所で生育している/広葉樹林が背面にあればなお育ちやすい
◆下記の栽培種とは異なる/生命力はつよい/野焼き・放牧しても生き残る(地下の根はしっかり守られて再三再四新しい枝を伸ばす)

【歴史】
◆[早くから存在]:古代から中世までには既に栽培されていた/牧草地・畑・屋敷・中庭の理想的な囲いだった

【花言葉】
※多過ぎるので略

【伝承・民俗学的なこと】(各種共通)
◆[美・愛・喜び・青春の象徴]:赤いバラを女神アフロディーテとエロスに捧げた(ギリシア神話)/ローマ神話ではウェヌス(アフロディーテと同じ)
◇ニュルンベルクの公衆浴場に“薔薇の湯”という名がある(12世紀)
◇『薔薇物語』(13世紀)は中世において最も人気のある文章の1つであった。夢の物語であり、語り手は薔薇を求めて行く(それは性の征服を探すのだ)が、様々な擬人化(富・公正・歓迎・恥のような)による助け(or)妨害を伴う
◆[古代ゲルマンにて]:ゲルマン人はバラを女神フライア(フリッガ)の聖域に植えた・生垣のバラを捧げた/金曜日(フライアの日)だけはバラを摘んで良いとされた/これを治療・呪術に使った/カール大帝は破壊を命じた
◇俗信では、バラは「神聖な森,供儀のための祭壇があったところ,埋葬地」に好んで成長するという
◇オーディンは自分の命に服さなかったワルキューレを眠りの茨で刺し、恐れを知らぬ英雄(シグルズ)が救いにくるまで眠らせておいたとされる
◆[5月祭]:セイヨウサンザシとともに野から採ってきたバラを戸口に飾る
◆[結婚式][勝利の祝い][出航・帰航する船]:バラの花を飾る(古代ギリシア・ローマ)/クレオパトラは床に30cmもの薔薇を敷き詰めたという
◆[バラを使った花占い](6月24日のミッドサマー):「愛してる、愛してない、愛してる…」のお馴染みのもの/花びら数の多いローザ・センティフォリアバラを使う
◆[葬儀の花][墓に飾る]:墓に入った故人を守るという迷信がある(古代ローマ)/恋人クレオパトラの想い出からアントニウスは「自分の墓にバラを撒いてほしい」と頼んだという/墓には香りのよい花を添えるのが基本
◇棺の中にもバラをいれる習俗がある
◇民話で「悲恋の2人が隣り合わせに葬られた後に、2つの墓から育った野バラが互いに絡み合って離れない」という類のものが多い(例:トリスタンとイゾルデ)
◇愛/生と死は表裏一体だから(女神は生も死も司る)
◇“薔薇の園”はドイツ全土に普及した墓地の呼称。さらに天国も極楽も黄泉の国も“薔薇の園”の言い表しがついた
◆[死の花としてのシンボル]:秋に白バラが咲く・冬にバラの木が花を付けるのは死を意味する/バラが変な咲き方をするのは禍・不幸・死を予示する/白は亡き者の墓に供えられるバラ/バラを病室に持って行ってはいけない/白バラが死者の血によって赤く染まる
◆[健康へのおまじない]:瀉血した血をバラの木の根元に注ぐ(バイエルン)
◆[新生児の健康を祈る]:生まれた赤ん坊の最初の産湯をバラの木の根元に撒く(ブランデンブルク地方・シュレージェン地方)
◆[純潔・霊的な愛の象徴]:白いバラは聖母マリアと結びつけられた/聖人の祝日に教会でバラを撒くことは多い/泉の祭りにもバラを飾る(※古代の泉の女神は聖母マリアに置き換えられている)/多くの画家がマリアとバラを一緒に描いた
◇古代のあらゆる女神信仰を聖母マリアが引き継いだから
◇ユリはマリアの清らかさの象徴とされた
◇初期キリスト教の著作家たちは「バラは天国発祥」と考えていた
◆[紋章]:十字軍の遠征の際に紋章に取り入れることが流行った(11世紀~)
◆[ボッティチェリのバラ]:盛んに描いた/フィレンツェのメディチ家に植えられていたバラを写生したらしい(14世紀)
◆[神秘主義思想]:美しさ・人の愛は移ろいやすいので現世の儚さの象徴ともなる。それは(西欧では)刹那的な快楽主義=「性的快楽の奨励」へと繋がる(バラは女陰の象徴とされた)。そして神秘思想は(曼荼羅志向と同じく)女陰に集中しているという
◆[狂犬病の薬]:根を煎じた汁を傷に使った(古代ギリシア)
◆[免役地代として]:賦役の代わりにバラを代納した場所もある/中世イングランドではこの貢租はごく僅かばかりの純粋な『承認料』の性格を持つ(ショウガ・食肉用雄鶏・バラといったものが年1度納められた)/これで薔薇水を作り花びらをナプキン代わりにした

【特徴と利用法】
◇実(ヒップ):9・10月に熟したら摘み取って生(or)乾燥させて使用/煎じ薬にする(or)シロップにして菓子類にする
◇蕾:5~6月に(花がすっかり咲ききらない夜がまだ明け切らない頃を選んで)集める
◇花:6月/集め方は下記
◆[うがい薬]:花びらの抽出液を薄めて使う
◆[小鳥が好む]:実を食べる

【料理】
◆[葡萄酒][ヴィネガー][砂糖漬け][タルト]:実を(伝統的に)調理してきた
◆[ローズヒップシロップ]:①果肉を細かく刻んで茹でる/②その液を漉す/③砂糖とともに再度加熱して出来上がり
◆[ジャム][ゼリー][コーディアル][デザート]:ローズヒップシロップを材料に用いる
◆[実をティーにする]:コーヒー流入以前は好まれた/肉食・バターを使った料理の後にはその酸味がサッパリさせてくれる

【症状と薬効】
◇実:酸味あり/収斂性・強壮性のハーブ/ビタミン類を豊富に含む
◇蕾:緩下/収斂/強壮/止血/筋硬直をほぐす作用がある
◇花:冷却作用をもつ
[風邪][インフルエンザ][軽い伝染性疾患][壊血病][下痢][胃炎]:内服する
[目やに]:完全に開ききった花びらを瞼の上に載せる(byビンゲンのヒルデカルド:12世紀)
[おでき][傷口]:子供用に/同じく花びらを湿布・軟膏にする
[瞼の腫れ][火傷]:摘みたての新鮮な花びらを上に載せる
[歯肉炎][口内炎][腐敗性口内炎]:花びらの抽出液をうがい剤・歯磨き剤に使う

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◎イギリスの野バラ

[英名]Sweet-Brier/Wild-Brier
[学名]R. eglantine
全体的にDog-Roseよりも細い/小葉は揉むと芳香がある
[茎]:トゲがある
[花]:明るいピンク/香りはない/1輪ずつしか咲かない/花柄にトゲがある
◆イギリス固有/特に南部に多い
◆[生け垣]:囲いとして好まれる
◆[タルト][砂糖漬け]:実を調理してきた

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◎野原のバラ

[英名]Field-Rose
[学名]R. arvensis
[花]:白い花/香りはない

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◎ローサ・ガルリカ

[英名]Apothecary's-Rose
[学名]Rosa-gallica-var.officinalis
直立性の小低木
[花]:上向きに咲く/濃いピンク~深紅色/香りは強い
◆[栽培条件]:日向/水はけの良い/中性~アルカリ性/湿った/肥沃な土地を好む(下記2種もほぼ等しい)
◇栽培は主に南ヨーロッパ
◇ニンニクを周りに植える/ワイルドパセリを傍に植えるとバラの成長が促されるとされた
◆[歴史]:古代地中海世界で栽培されていた(とりわけペルシア・エジプト・エーゲ海地方)/イスラム教徒のヨーロッパ侵入によって西アジアからもたらされた(7世紀)/中世では薬用として主に修道院の庭で広く栽培されていた
◇上記の野バラとは別系統
◇鑑賞用にもされてもいたが(現代のものとは全く違い)花は小さい・八重ではない

【利用法の歴史】
◆[薔薇水・薔薇油としての利用]:香料として古代地中海世界から貴ばれてきた/薔薇水・薔薇油については『植物誌』(テオフラストス)・『博物誌』(プリニウス)にも記述されている/王侯貴族に珍重された
◇ただし蒸留法が発見されたのは中世のことなので(※1187年とされるがもう少し古いという話もある)古代ローマの薔薇水・薔薇油はもっと原始的なもの(※オリーブ油に花びらを漬けるなど)
◇蒸留によって作られた「真正の」ローズウォーターは高価なものとなる
◆[宴会で]:香りを楽しむために花を挿す・花びらを部屋に撒いた(古代)
◆[風呂]:蒸留した薔薇水を香水として入れた(エジプトからローマ世界に流入した風習)/風呂にバラを入れる楽しみ方もある(『パルチヴァル』166節:13世紀ドイツ)
◆[化粧]:薔薇水を使う(エジプトからローマへ)
◆[贈り物とする]:(エジプトからローマへ)
◆[薔薇油の練り物]:固めて練り物のようにして、シルクロード経由で中国の絹と交換した(古代)
◆[香辛料]:新鮮な葉を肉・デザートの香辛料とした(中世の修道院)
◆[化粧品](美白効果・贅肉を取る):クックーパインの根を粉末にしてローズウォーターに入れて蒸発するまで陽に当てておく。これを2・3回繰り返して出来た粉末を塗る(by『バンクスの本草書』:1525年)
◆[シワ取り]:焼いたユリの根にローズオイルを混ぜる
◆[花帽子](花の冠):スミレ・バラ・キンセンカなどで作る/パリでは花帽子作りの仕事は他の仕事とは完全に区別されてそれだけで生計を立てられた/小さな被りものは「シャプレ」と呼ばれた(中世)
◆[食事時]:テーブルの上に指洗い用の手桶水を置き中にバラ・ハッカ・ヴァーベイン(クマツヅラ)の花びらなどを浮かべる(中世)
◆[宴席での香り]:ローズマリー・バジル・マジョラム・セイヨウノコギリソウ・ゲッケイジュなどを砕いて、ローズウォーターの小さなボウルに浮かべた(中世)
◆[葡萄酒の保存]:松脂を添加し、ブドウジュース・バラの花びら・フェンネル・セロリを混合した(ビザンツ)

【調理】
◇料理に微妙な香りを持たせるために使われた(以下は全て中世の料理)
◆[アーモンドバター]:粉にしたアーモンドを砂糖とバラ香水で混ぜて固めて作られた/(四旬節など)食事抜きの長い時間の気分を和らげるのに使えるが高価
◆[フレンチトースト]:謝肉祭のために発明された/①牛乳と卵に浸した食パンをフライパンで焼く/②これを葡萄酒とバラ香水に浸す/③よく泡立てられた卵の中で丸めて砂糖をつける/④揚げてから再び砂糖をつける
◆[バラ砂糖]:バラとスミレの香りと味のついた砂糖菓子
◆[パンを着色]:赤いパンにした/収穫感謝祭に出てきたという
◆[葡萄酒の着色料]:薄まって色褪せたワインは、沸騰させた上でバラから作った着色料を加えた
◆[梨のコンポート]:薔薇水と蜂蜜で煮た

【特徴と利用法】
◇ローズウォーター:半開きのバラの花を蒸留してその蒸気を冷やして凝縮したもの
◇ローズオイル:ローズウォーターを最蒸留して上層の精油をすくい取ったもの/石炭酸の7倍の消毒力を持つ
◆[百花香](ポプリ):乾燥した花弁を加える(乾燥すると香りは強まり数年間は持続する)
◆[浴用剤][スキンケア]:薔薇油・蜂蜜水
◆[サラダ]:花びらを加える
◆[菓子など]:香味料として薔薇水を用いる
◆[砂糖漬け][シロップ]:花びらを用いる
◇花が最初に開いた時に集める
◇薔薇油・薔薇水を蒸留する/生をシロップにする/生を潰してペーストにする
◇芳香・収斂・強壮性のハーブ
◇細菌感染防止/治癒促進/意欲改善作用がある
[風邪][気管支感染症][胃炎][下痢][鬱症][嗜眠]:内服する
[喉の痛み][眼の炎症][軽い傷][皮膚疾患]:外用薬として
[耳鳴り]:キダチハッカ(サマーセイボリー)の汁液をローズオイルと一緒に温めて耳に垂らす(中世)

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◎ローザ・センティフォリアバラ

[和名]セイヨウバラ
[英名]Cabbage-Rose/Provins-Rose
[学名]R. centifolia
[花]:結球キャベツ状の重弁/60弁以上/径5~6cm/普通はピンク色
◆古代地中海世界で栽培されていた(クレタ島にはB.C.3000年頃にあったと考えられている)
◆中世ヨーロッパにはナヴァラ王兼シャンパーニュ伯だったティボー4世(1201‐53)が聖地から持ち帰り、大市の町プロヴァンに植えた(後にバラで有名な町となる)。相続者はバラを記章とした
◇こちらの八重のバラに中世の人々は夢中となる
◆後にジョン・オヴ・ゴーント(1340‐99)がブランシェ・オヴ・ランカスター(シャンパーニュ伯の血を引く)と結婚した時に、シャンパーニュの赤バラを記章とした。後にランカスター家の赤バラの紋章となる
◆歴史的な使用法はローザ・ガルリカの項目に準じる([香辛料]を除く)

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◎ダマスク・ローズ

[学名]R. damascena
[花]:花弁は多数/花が散房状に多数つく濃赤色の花弁を持つ/赤・ピンク・白/芳香はきわめて強烈
◆[歴史]:薬用として古代地中海世界で広く栽培されていた(クレタ島にはB.C.3000年頃にあったと考えられている)/小アジアからヨーロッパに流入(16世紀)/医薬として最も有用な種
◆歴史的な使用法はローザ・ガルリカの項目に準じる([香辛料]を除く)

【特徴と利用法】
◆[百花香](ポプリ):乾燥した花弁を加える
◆[香水]:香油成分に富むことから
◇収斂・強壮・強心作用がある
[喉の痛み]:蜂蜜に入れて飲む
[頭痛]:酢に漬けて額に張る
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


[和名]:オウシュウモミ/樅
[学名]:Abies alba
マツ科/常緑針葉樹
60mまで
[樹皮]:はじめはツルツルして茶色/後に角張った鱗屑が剥離して銀色に光る/そのために“白モミ”ともいう
[針葉]:偏平/ねじれる/先端に刻み込みあり/表面は光沢ある暗緑色/裏面は2本の青みがかった縦縞/8~11年で新しくなる
[花期]:5~6月
[花]:雌雄同株
〔雌花〕6cmの長さ/薄緑色の毬果/後に茶色になり上の枝につく
〔雄花〕2.5cmの長さ/黄色の尾状花序/びっしりと咲く
[毬果]:全体は地面に落ちずに鱗片のみが落ちる/軸は木に残る
[種子]:柔らかくて幅の広い翼あり

【分布・育て方】
◆中部・南部ヨーロッパ,山林/標高1500mまでの中級山岳林に生育
◆日陰に強い(イチイはもっと強いが)/ただし荒っぽい人為の干渉に敏感(中世以降に大きな面積を失った)

【伝承など】
◆[古代ゲルマンにて]:冬の世界(闇・死・寒さが支配する)における希望・堅実さのシンボルとして崇拝された/特別の神に捧げられた訳ではない/ただしオークの無い地方では樅の木に神々の住居があったとされる
◇民間伝承では針葉樹をあまりキチンと区別しないので、モミ・トウヒ・マツに関する風習は重なることが多い
◇聖タンドリンは古いモミを伐り倒してその木から十字架を作ったことから、怒った異教徒に殺された
◇これ以降聖職者たちは長い間、モミの木を異教的慣習(樹木崇拝)として退けてきた
◆[最初のクリスマスツリー]:ブレーメンのツンフトの記録では、りんご・胡桃・色紙で飾られた小さな樅の木がツンフト会館に立てられ、クリスマスに組合メンバーの子供たちがそれを揺するのを許された(1570年)。バーゼルの仕立屋の徒弟たちが、リンゴ・チーズで飾った緑の木を持ち歩き、後で宿舎に持って帰って立て、飾った物を取って食べた(1579年)

【花言葉】
 『時』『真実』『豪胆と誠実』

【民俗学的なこと】
◆[ユール・ロッグ](クリスマス):たいていはモミ(or)ブナだった/常緑であることを愛された/後にドイツトウヒに取って代わられた
◆[誕生の木](古代ケルトから):母子は出産後に燃え盛るモミの松明をぐるぐる回して祝福される(オークニー諸島)
◆[子供たちがやってくる場所]:“産婆が聖なるモミの木を揺すると子供たちが出てくる”(ゾーロトゥルン地方)/モミには「生命の樹」としての象徴が与えられていることから
◆[大晦日の植物霊](スイスの山奥):祭りに登場する“醜いクロイセ”は、恐ろしい仮面(豚・牛の歯,骨,角,毛皮などで作られた)を被り、身体をモミの小枝・シダ・藁・木屑などで覆い、大きな鈴を手で支えながら肩から下げている
◇クロイセとは新年の福を招く、森・山から訪れる神々のこと。この祭りは16世紀以前に原型があるらしい
◆[妖精と結びつく]:なぜか悪魔ではなく親切な妖精にまつわる話が多い
◆[泉の潔めの祭り]:復活祭後に行われる場所では、復活祭の卵を吊り下げたモミの枝を泉のそばに立てかける
◆[5月祭の樹]:ただし用いられる頻度ではシラカバに負ける
◆[聖ヨハネの日の火祭り](6月24日):ネズ・モミ・その他薬草を焚き火の中に投げ入れて、煙がたくさん出るようにする。煙で燻すと畑・牧草地・家畜の病虫害などを防げると信じられている
◆[秋の収穫感謝祭]:広場に立てた柱にモミ・トウヒの緑の枝で編んだ冠の環を頂点に吊るす場所もある/収穫祭には各地でいろんな形で登場する
◆[火の粉の日曜日]:復活祭第1日曜日で謝肉祭(ファストナハト)直後/焚き火用の薪の上にモミの枝をてっぺんに立てる場所もある/この日の火祭りはヨーロッパ各地で古くから行われていた
◆[喜びの主日]:復活祭第4日曜日/モミの木の皮を剥いで飾り付けをする場所もある(ただし中世では飾り付け無しにそのままだった可能性もある)
◆[枝の主日]:復活祭1週間前の日曜日/北部ヨーロッパでは棕櫚の代わりに用いられた
◆[復活祭]:モミの若枝などを家の戸口に飾る/家畜小屋の戸口に挿す
◆[聖霊降臨祭まで]:復活祭後50日のこの祭りまでの期間中(5月祭のように)シラカバ・モミなど若枝を窓などに飾り付けておく
◆[聖体拝受の行列]:復活祭後60日の祭り(13世紀後半に始まる)/行列の沿道ではシラカバ・モミの若枝を窓際に立てる
◆[聖アンナ祭](7月26日):西欧の全教会で聖アンナ(聖母マリアの母)の祝祭を行うようになるのは近世(1558年~)/家々では大きな青いシダをしく・とりどりの花を飾る・シラカバやモミの若枝を挿す
◆[万聖節](11月1日):家族の墓にモミの枝を添える(常緑樹だから)
◆[平和の木][不死の象徴][信仰の象徴]:建材に用いる・常緑・針葉は天を刺ようなイメージを持つことから連想された(by聖ボニファティウス)
◆[聖母マリアに捧げる]:古いモミを捧げた/プラスのイメージをもつモミだからこそ
◆[モミの巡礼地]:どこにでもある
◆[棟上式]:破風の上につける(ドイツの多くの地方にて)/生長霊を持つモミの木に家の守護の役目を与えた/①家が新築された時に近所の娘たちが美しい樅の木をリボン・金紙・花で飾って持ってくる/②それから歓声を上げながら家の周りを3度回る/③大工の親方は屋根の上から祝辞を述べる/④その後に飾られた樅の木を綱で引き上げて親方が「雷よ、嵐よ去れ。この家が子々孫々まで栄えよ」と祈ってから破風の上の梁に打ちつける
◆[悪疫除け]:戸口・家畜小屋の前に置く

【特徴と利用法】
◇葉・樹脂・材を利用する/ヨーロッパモミ類の多くは経済上重要な役割を果たした
◇葉はすき間もなく生い茂るので、木陰は昼間でも暗い
◇葉・枝を4~5月/毬果を8月に収穫
◇樹脂:(レモン・香辛料に似た)強い芳香を発する/多くの軟膏・膏薬に含まれる/“アルザスのテレピンオイル”と銘打って売られた/(近代産業では)塗料に欠かせない溶剤になっている
◇材の特徴:軽くて柔らかい/乾燥が早い/ほとんど縮まない/弾性がある/加工しやすい/曲げるのは難しい
◇中世都市でよく需要された針葉樹の1つ/シュパイアー司教はライン川を筏流しで運ばれてきたシュヴァルツヴァルト産のモミの木の角材・厚板・半丸太を扱う貯木場をウッデンハイムに設置した(1442年)
◇針葉樹の種を播いて森を更新した(中世後期):「モミの種播き」と呼ばれた/フランクフルトの市有林でも行われた(1426年)/ニュルンベルクは作業を指揮するために技術を熟知した人々(「モミの種播き屋」)を種子とともに送り込んできた
◆[船舶][帆柱][橋][土木][楽器][パイプオルガンの共鳴材料]:一般に耐久性に富むことから
◆[樽]:穀物・粉を入れて食料貯蔵庫に置かれた
◆[樹脂]:中世後期には商業流通していた/ユダヤ人商人マルドッヘ・ヨゼフはマルセイユ付近にヨーロッパアカマツ・モミの森林を所有し日雇い人に樹脂を採取させていた(1374年)
◆[薪]:樹脂が多いのでよく燃える/(スコットランドでは)細かに割って蝋燭の代わりにした/中世のパン屋ではよく使われたが「燃料としてはあまり良くない」という評価もある
◇樹液をたっぷり含んだ生の木材を使うのでなかなか炎が上がらず、煙ばかりが出るということもあったともいう
◆[森での養蜂に]:ボダイジュ・ヤマネコヤナギ・モミが向いていた

【料理】
◆[モミビール]:枝(針葉)を発酵させて作った(中世初期)

【症状と薬効】
◇殺菌・利尿・去痰性のハーブ
◇組織の刺激・血行促進作用がある/樹脂は防腐効果をもつ
◆樹脂の医薬としての利用は中世後期には行われていたようだ/その際に「生命の樹」として信仰されていたことが影響していたに違いない
[咳][粘液性カタル][肺疾患][気管支炎][神経の高ぶり]:新芽を内服する/実から煎じ汁を作る
[傷口]:樹脂を塗る
[リウマチ][関節炎]:樹脂を混ぜる
[歯茎を強化]:小さな樹脂の粒をゆっくりと噛み砕く
[膀胱炎][おりもの][神経強化]:漉した煎じ汁を加えた浴湯で
[肺を強化する]:小さな鉢植えのモミを室内に置く/発散する芳香の効果
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください

[和名]ヘーゼルナッツ
[英名]Hazelnut/Filbert
[学名]Corylus-avellana
ヨーロッパ原産
カバノキ科/落葉低木
高さ5mほど
[樹皮]:灰色~褐色
[葉]:互生/葉柄は短い/先端の尖った丸みを帯びたハート型/5月につける
[花期]:2~3月
[花]:両性花/雌花はつぼみ状・赤色/雄花は垂れた尾状花序・黄色/秋には既に形成されて2月から花粉を飛散させる
[果実]:8~10月/卵形の堅果/縦に亀裂の入った緑の苞に包まれる/果実を初めてつけるのは9年目

【分布・育て方】
◆全ヨーロッパに分布/斜面・林縁・やぶの標高1800m以下に生息
◆明るい広葉樹原生林の巨木の添え物となっている(ドイツ)/オーク・ニレ・ポプラとともに川岸の混合林を形成/耕地・牧地の木として大きな繁みを形成
◆成育条件:冬は温暖/春は暖かい/季節はずれの寒波はほとんどない/夏は涼しくて気候を和らげる豊かな水源が近くにある

【伝承など】
◆[古代地中海世界]:ヘルメスの杖(カドゥケウス)はハシバミの枝だったとされる(ギリシア神話)/メルクリウス神は「先端に翼がついて2匹の蛇が巻きつくセイヨウハシバミの杖」を持っていた/平和・幸福をもたらす木として結婚式の夜に焚く松明に使われた/休戦・平和協定はハシバミの枝を手に持って交渉した(以上は古代ローマ)
◇ヘルメスの杖(カドゥケウス):ヘルメスがシュリンクス笛と交換に得た/(後世には)言葉による思考表現力を人間に授けた魔法の杖の原型と信じられた
◆[古代北部ヨーロッパ]:雷神トールの木であり落雷から家・墓を守ってくれる/英知の木として崇拝したので無断伐採は死刑に処せられた(ケルト人)/クルミがドイツに入ってくる以前には“木の実”といえばハシバミの実を意味した
◇ドルイドが木文字に取り上げた:9番目の文字(セイヨウヒイラギ‐葡萄の木の間)/“Coll”と呼ばれた/9人の巫女が仕える白い女神に捧げられた/9種の聖木の1つ(ベルティンなどの大祝祭でかがり火に点火するために使う)◇ハシバミの実が落ちたためにボイン川に棲む鮭はとても賢くなった
◇ドルイドの占い棒・魔法の棒はイチイ・ハシバミ・ナナカマドのいずれかから作る
◇ケルトの裁判官がハシバミの杖を持っているのは(彼岸の者によって)正しい霊感が与えられるのを期待してのこと/裁きの場・民会の場・決闘の場はハシバミの枝を挿して囲った(民会についてはオークを参照)
◇アイルランドではオーク/榛の木(ハンノキ)/リンゴ/シラカバ/ハシバミ/セイヨウヒイラギ/ヤナギは“7種の神聖な木”
◆[中世フランス]:フランスの地名に最も頻繁に出てくる木/一方で(イチイやクルミの木と同じく)“神に見放された木”の筆頭だった/以下はその理由
◇水と奇妙に関係が深く、他の樹木が生えない所(泥炭地,沼地)に芽を出す
◇煙を出さずに燃える
◇葉は落葉するまで緑を保つ
◇不安を感じさせ、靄の中の亡霊のように見える
◇黄色の木質部が、切ると赤くなって『出血する』ように見えるので、誰もが怖がった

【花言葉】
 『交歓』『和解』『平和』

【民俗学的なこと】
◆[地名]:ハスラッハ、ヘーゼルはハシバミを示している
◆[境界垣]:ハシバミが「境界線」という意味を持つゆえにその垣材として使われた/此岸‐彼岸をわけるケルト的世界観において(向こうの混沌とした)力からの保護・向こうのエネルギーの引き込みを可能にする
◆[境界線を描く]:(境界石の利用以前に)寒村の離れ家の農民はハシバミの枝で野に境界線を引いた
◆[死者に供える]:実を死者の手に持たせる・歯の間に押し込んだ(先史時代)/実を副葬品として墓に入れる・枝の上に死者を寝かせる・墓に挿す(ケルト・ゲルマン)
◇これが『灰かぶり』に影響している
◆[聖ヨハネの夜に]:此岸‐彼岸の境界が最も脆くなる日(6月24日)に守ってくれる植物として家の中に入れた
◆[英知の象徴として]:鉱脈・水脈を見つけるダウジング/埋蔵宝の発掘にY字形のハシバミの枝が使われた。目的の場所に着くと枝が動く/音を発する、などして知らせるという(中世~)/知恵の象徴としての蛇と大地の蛇=竜(地磁気のようなもの)のイメージが交錯している
◆[魔女の杖]:ドルイドの天候を操る力を継承していると信じられたのだ(ハシバミはシデ・ニワトコと共に“女性シャーマン”=予言者の魔法の木)/以下は魔女裁判の記録(17世紀)
◇悪魔が魔女に渡したハシバミの杖で小川を叩くと、激しいにわか雨が降った
◇ある若い魔法使いがハシバミの枝で、小さな雲が湧き上がるまで水を叩くと、間もなく雷雨が降って雹が甚大な被害をもたらした
◆[教会の弾劾]:ハシバミを“悪い灌木”“価値のない有害木”とした
◆[雷除け]:マリアの訪問の祝日(7月2日)に切った枝を窓に挿す/畑にいる時には帽子に挿す/ハシバミの尾状花序を竈の火に投げ込む(アルゴイ地方)/ワイルドハント(=秋の嵐・冬の嵐)をハシバミの杖で避けられる(■そもそも雷鳴は蛇と考えられていた)
◆[蛇除け]:聖パトリックはハシバミの杖でグリーンランドから蛇をすっかり追い払ったといわれた/人間に変身した蛇はハシバミの杖で描いた円の中では金縛りにあって逃げられない(ケルト文化圏で広く信じられた)/遠出の子供にハシバミの枝を持たせてマムシ・毒蛇に襲われないようにした(シュヴァルツヴァルト地方)
◆[豊饒の力]:聖ヒルデガルドは肉欲のシンボルとした/此岸から彼岸へやってくる新たな子供を招くことができるから
◆[生命力を授ける]:シラカバ・ハシバミの枝で少女を叩く(謝肉祭・復活祭・収穫祭などで)/グリーン・マン(ケルトの冬の神:モミとセイヨウヒイラギで飾られた)もハシバミの枝を携えていた
◇グリーン・マンのそのシンボルはサンタクロースに引き継がれた)
◆[枝の主日に]:棕櫚の代わりに飾り付けの対象となる(北欧にて)
◆[子供を授かるために]:子供が産まれない夫婦は枝をベッドの上に吊した/妊婦は(出産を待っている印に)ナッツの付いたハシバミの枝を持ち歩いた
◆[恋占い]:1.ナッツ割の夜(10月31日)に恋人同士がヘーゼルナッツを2個サーマインの火に投げ入れる/2.そのまま焼ければ幸せな結婚の予兆/3.パチンとはじければ不幸な結末/4.ナッツを焼き焦がしたり割れさせたりするのは死者とされた
◆[私生児]:「ヘーゼルナッツがたくさん実れば/多くの私生児が生まれる」「ハシバミの中に行く=逢い引きをする」]「秋にハシバミがよく実れば/翌年には子供がたくさん産まれる」
◇ハシバミの繁みは恋人たちの心をオープンにしたようだ
◆[乳牛にミルクを出させる]:その年最初に放牧に出す時に枝で追い立てた/乾燥させた尾状花序を塩に混ぜた
◆[乳牛を守る]:魔法にかかった牛を枝で叩く/夏至に摘んだ枝を家畜小屋に取り付けて魔女の呪い除けにした/ベルティン祭やミッドサマーイブのかがり火を牛にくぐらせた
◆[ミルクをバターに]:うまくならない場合には「聖母マリアの被昇天の日(8月15日)の薬草の束から取った、清められた3個のナッツをバター桶に投げ入れる」
◆[ハシバミで叩く儀式]:初めて狩りに参加してウサギを撃った者は、2つ並べた椅子の上へ寝かされて「最年長者の唱え詞の下、狩猟のしきたりに従ってハシバミの枝で叩かれ『狩猟権を授与された』猟師にしてもらう」慣わしだった(近世ドイツ)
◆[火事除け]:ハシバミで作った楔を3本打ち込んだ家は絶対に火災に遭わないという(イギリス)
◆[難産に]:軟膏にヘーゼルナッツ油を擦り込んで魔女の呪いを遠ざけた
◆[赤ん坊の幸運・健康を祈る]:秋に生まれた子にはヘーゼルナッツのミルクを舐めさせる(スコットランド)
◆[願いが叶う帽子]:ハシバミの小枝を編み混ぜた帽子を被っていれば、どんな願い事もかなう(ウェールズ)
◆[治癒のまじない]:病気の部位をハシバミの棒でこすってから棒を埋め、呪文を唱えるとよい
◆[聖フィルバート]:684年に死去したこの聖人の祝日(8月21日)は、フィルバートが熟れ始める時期に一致する
◆[歯磨き][薬草を計る標準に]:女性は枝を使った/実を使った(ケルトの古い言い伝えにある)
◆[農家の庭に]:ニワトコの木と同じく欠かせない/子供が弓・鞭をしなやかな枝で作った

【特徴と利用法】
◇尾状花序を春に/堅果を9~10月に収穫
◇ただし「聖ヨハネの日(6月24日)に雨が激しく降れば/ハシバミの実は空っぽ」とも警告されている
◇タンニン酸/堅果中には多くの油脂類・タンパク質を含む
◆[獣医学]:家畜の咳に下記のお茶を与える
◆[リスの好物]:熟した実
◆[薪木][生垣][籠の取っ手][樽のたが][散歩用の杖]:木の利用方法/コピスによって伐採をコントロールした
◆[農家の壁の土台となる垣]:オーク・ヤナギ・ハシバミの細枝を編んで作る
◆[焼き串]:多くの串は鉄製だったがハシバミの木などが推奨されているケースもあった(中世後期の料理書)/野外では古くから鮭や猪をハシバミの串に差して焼いて食べた
◆[緑色の染料]:ハシバミを使う(食用染色にも)
◆[虫を集める]:部屋に榛の木の葉を撒くと、蚤が葉につかまる
◆[ワイン・ビールの清澄化]:木の削りくずを用いた

【料理】
◆[実を食用に]:新石器時代より/中世の農家が採取できた果実の1つ/道中の食料ともされた(ハシバミの実にはバターとほとんど同じカロリーが含まれている)
◆[ヘーゼルナッツタルト][クリスマスの焼き菓子][旅の非常食]:ハシバミは強壮作用をもつ
◆[挽き肉のミートボール]:“金のりんご”では、固くて丸い青リンゴのように見せかけるために、パセリとハシバミの葉のような緑色の素材で着色した衣にくるんだ(中世後期の料理書のレシピ)

【症状と薬効】
◇尾状花序には発汗作用がある/医療目的での使用法はすっかり失われた
[蛇の咬傷]:葉・実から作った特別なものを傷に塗る(古代ヒッタイト)
[インフルエンザ]:ハシバミの花1/ニワトコの花房1の小さじ2杯を熱湯1カップに浸出する
[肺の薬]:蜂蜜酒の中で煮て作る
[インポの治療]:聖ヒルデガルドによる