※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください

[独名]Eibe
[学名]Taxus-baccata
イチイ科
10mになる(最大15m)/多幹性/常緑
生長が遅い/樹齢は2000年も重ねられる
[葉]:暗緑色の針葉樹/平ら
[樹皮]:赤みを帯びる
[花期]:5月
[実]:8~10月に果実をつける/透明感ある淡紅色/1~2個の種がある

【分布・育て方】
◆全ヨーロッパに散らばる/アルプスでは標高1200mまでの所
◆湿った場所/石灰質土壌/陰になった場所で生育する/ほとんど光は必要ではない(日陰に強いモミの木の半分でよい)

【伝承など】
◆[暗いイメージの原因]:たいていの場合「他の木々が生えない場所(荒れ地,泥炭地)に悲しげにひとりぼっちで生えている,常緑で奇妙なほど不変である」という外見上の特徴がある。キリスト教下では不変な理由として「悪魔と契約して不死性を獲得した」ように見られた。この不気味な外見に毒持ちという特徴が加わった
◆[古代ローマ]:復讐の女神フリア(アレクトー・ティシポネー・マガエラの総称)が手にするかがり火はイチイの木/ローマ人は「有毒な木」だとしていた/ローマ人は未開の地を覆うイチイを開拓のために伐採していった
◆[北欧神話]:弓矢の神ウルは「ユーダリル(イチイの谷)」に住む/ルーン文字では「偉大な治癒力がある」とされていた/イチイの名を留める地名例:「タクスベルク,ユーバースハイン,ユーバ,ユーバッハ,タクスエルデルン」
◇今日ではイチイ(アイベ)は全く見られないが「イバッハ」のような地名は、昔はイチイがよく見られたことを示している
◆[ケルト文明]:1年の最も暗い局面(冬)を象徴する死の女神に捧げた/「最古の木」という意味を与えられた/根は死者の口の中で成長する/木を通じて子孫は死者と話しできる/ディアドラの伝説に出てくる
◆[弓への利用]:イングランド・スコットランド・ウェールズ(最もイチイを怖れ敬った古代ケルト文化を受け継いだ3国)では弓の材料として大陸から輸入しなければならなかった。最大の輸入先はアルプス(ここには地名にアイベンコーゲル/アイベンベルク/アイベングラーベンなどと残っている)、他にはポーランドとスペインも重要な輸出国だった
◆[森林破壊]:ニュルンベルクのフュラー・ストッカマー商会は、3世代の間にオーストリア ・アルプス地方からイチイの木を伐採し、軍隊用の弓の材料としてイギリスに運んだ。商会は事業を独占的に営み、40年間に毎年20,000の弓を納入し、領邦諸侯は弓1,000につき平均34フローリンの金を得た。結果はイチイの木の絶滅だった
◇イチイは保護される対象となっていった(早くも中世後期に:ドイツ)

【民俗学的なこと】
◆[永遠の生命の象徴]:常緑樹・寿命が長いため/ドルイドの神殿が近くに建てられた/初期キリスト教徒がそれを真似たのでそのまま教会墓地の木となった
◆[棕櫚の日曜日に](復活祭1週間前):常緑樹なのでシュロの無い北方では使われた
◆[聖なる木][墓場の木]:神々の元へ赴く死の道程と常に結びついていた/墓番として鬱蒼と繁茂している/古代のケルト系の土地では「死者の休息のシンボル」として魔女から守る
◆[永遠の命の象徴]:死後の復活を信じる者にとっては“歓びのシンボル”だった(ヒルデガルドの記述)
◆[聖なる場所を作る]:礼拝・裁判が行われる場所はイチイの木で縁取られていた(ゲルマン人)
◆[魔除け]:イチイから作った十字架を子供の首に掛けた(南欧の多くの地方)/どんな悪魔の力も効かないと言われた(シュペッサルト地方:ドイツ)
◆[ドルイドの占い棒・魔法の棒]:イチイから作る(他にはハシバミ・ナナカマドから)/赤い実・赤い材こそが魔術的な力の象徴/新月(or)月食の晩に手の込んだ儀式を用いて切り出した/『マクベス』にその場面が出てくる
◆[魔法の椅子の材料]:「イチイ/落葉松(オウシュウカラマツ)/松(オウシュウアカマツ)/トウヒ/モミ/ヨーロッパハイマツ(Pinus-cembrea)/ヨーロッパの高原に生える松(※ヨーロッパクロマツか?)/ビャクダン/ビャクシンのこれら全ての木材をヴァルプルギスの夜(5月1日のイブ)に集め、聖トーマスの夜に切断(この時に左手だけを使う)し、瞬時にそれを背もたれの無い椅子に組み立てる」。この椅子に座れば地獄を一瞥できるという伝説

【特徴と利用法】
◇全て(とりわけ抽出液)が毒になる(例:シェイクスピアがハムレットの父を死なせるのに使った毒にも入っている)ので、イチイに触れる動物はほとんどいない
◆[長持ち][板材]:木材は紅褐色の心材を持ち美しいので材料として使われた
◆[家庭用品][棍棒]:硬い材質・柔軟さを持つために使われた
◆[弓材]:上記のメリットが好まれた/弓にはアメリカマンサク(ウィッチヘーゼル)・セイヨウトネリコも使われたがイチイが最高/長弓は長さ2mのイチイ材の弓に1mの矢をつがえた
◆[底角材]:オークよりも耐腐敗性を持つので、家の石台に直接置かれた
◆[葡萄の木の支え]:オークより長持ち
◆[黒いイチイ]:“ドイツの黒壇”として鉄塩で黒く着色したイチイを化粧板・象眼細工に用いた
◆[箒]:イチイの枝を束ねた(チューリヒのオーバーラント)
◆[紐]:コピスにした細い幹は強くしなやかなので丈夫な紐になる
◆[毒矢]:タキシンというアルカロイドを果実以外の全てに含む(含有量は冬に最高となる)
◆[動物にも毒]:馬・牛・ロバ・犬・猫に有毒/ノロジカ・イノシシ・兎は枝を食用にしても大丈夫/鳥は果実をついばむが種を吐き出す習性をもつ

【料理】
◆[実を食べる]:熟して紅色になった仮種皮を食べるが種は猛毒
◆[果実酒]:蒸留酒に漬けたりする

【症状と薬効】
◆中世でも毒以外に有効な利用法は見出せなかった
[堕胎薬]:しばしば死をもたらした
[痛風][リウマチ][肝臓病]:葉から取ってホメオパシー(同種療法)にのみ用いられる