その本は、漫画古書価値としては全くのゼロになる。
漫画古書は綺麗な保存状態であればあるほど価値があるのに対して、雑誌や付録をバラすなんて
自殺行為
以外のなにものでもなかった。
ここで有志の何人かが『月光仮面0号』の制作にリタイアした。
無理もない、自分の大事な価値のある本が無価値になるんだ、誰もその人間を責めることは出来ない。
そしてその中のマニアの一人が数年後お亡くなりになった。
その方が所有していた本は少年クラブ昭和33年3月号だった。
こうしてGさんの企画は頓挫し幻に終わった…
かのように見えた。だが、それから数年後ひょんなことで再び刊行の動きが始まる。
偶然にも少年クラブ昭和33年3月号を僕が持っていたからだ。
僕が少年クラブ昭和33年3月号を持っていたのは何も月光仮面が目的ではなかった。
この本には他にも手塚治虫作品が掲載しており、漫画マニアの中で一番多い手塚治虫マニアなら僕が必要としている横山光輝本を持っているかもしれない…
そう、僕は交換本扱いとしてこの本を持っていたのである。
そして僕はGさんと名古屋で有名な漫画古書専門店で偶然出会った。
今はどうか分からないが、当時の漫画古書の世界は、名古屋が最前線地域だった。
僕は大阪から名古屋に月一の割合で足を運び自分の探求本を探していた。
その延長でGさんと出会った。
Gさんは僕に幻の『月光仮面0巻』の話をし「あと少年クラブの昭和33年3月号さえあれば…」と呟いた。
Gさんは頓挫後も月光仮面掲載号の少年クラブを一人で探し続けていて、あと昭和33年3月号の一冊で月光仮面のコレクションが完成するのである。
ええっ!?…僕その本持ってますよ。
今度はGさんが驚く番だった。自分が長年求めた本をこんな若造が持っているなんて…
そこには彼の殺意めいた視線が僕に向けられてもおかしくなかった。
つづく