若い従業員は会社の2階に上がり専務を呼びに行ってくれた。
待つこと5分。階段から降りて来たのは先ほどの若い従業員だった。
スミマセン、専務は忙しくて出掛けてたみたいです。
そう言葉を発する若者の目は明らかに泳いでいた…
まさか居留守じゃ…
しかし、それを口にすることは門が立つだけに、僕もそれ以上は何も言えなかった。
そうですか、じゃあ専務が戻られる時間を見計らってまた来ます。
ちなみにお戻りは何時で?
えっと、その…
若者の狼狽が更に激しくなっていた。
仕方ない…じゃあ今日はこちらの会社さんは何時までお仕事されているんですか?と尋ねた。
6時です、と確認すると、じゃあ5時半頃もう一度伺いますので、その旨専務にお伝え下さいと言ってその会社を離れた。
時計を見ると12時半だった。
じゃあ、僕も今のうちに食事でもしておくか…と食べ物屋を探した。
しかし不思議なことに食べ物屋が周囲に一軒もなかった。
かなり離れた場所にコンビニが見えたが、コンビニで買い物なんてハナから考えていなかった。
そうして更にあちこち周囲を歩くもやはり食堂おぼしき店は見当たらなかった。
ため息をついて、白山に来たのは失敗か~と自問自答した。
せっかくコンタクトがあったからわざわざ僕の方から来たのに…
だけど、それは恩着せがましい言い方だと自分でも分かっていた。
そしてこうも思った。もし僕が専務だったらダメ元でも要件を聞いていただろう。
だが、結果としてこの出来事が今日の僕の運命の扉を開いていたのである。
運命とは時に不思議なモノで、僕がこの地に5時30分まで居ると自分で縛りを入れたことが結果的に大正解だった。
だが、僕はまだその運命的な出会いに全く気付いていなかった。
つづく
※この日の出来事は全てノンフィクションです。
不屈座