裸足で草を踏みしめ、「生」を駆ける。 | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

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大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です

『草の響き』

(2021年 日本)


函館シネマアイリス企画・プロデュース

佐藤泰志原作の映像化作品。


『海炭市叙景』

『そこのみにて光輝く』

『オーバーフェンス』

『きみの鳥はうたえる』

どれも役者の演技が光る

好きな映画ばかりだ。


『草の響き』も例に漏れず。

東出昌大、奈緒、大東俊介

繊細で奥行きのある演技が

実に素晴らしかった。



メンタルが不安定な時期の公開で

映画館では観られなかったけど

いま観るのがちょうど

わたしのタイミングなんだと思う。


わたしのブログを

長く読んでくださってる方は

よくご存知だと思うけど

わたしは東出昌大が大好きだ。



ちょっと変な声。喋り方。

不思議なのにリアリティのある存在感。

観る度に別の顔を見せてくれる

驚異の伸び代。

ま、言ってみればただのファンである。


STORY

心のバランスを崩し、妻と一緒に故郷・函館へ戻ってきた工藤和雄。精神科の医師に勧められ、治療のために街を走り始めた彼は、雨の日も真夏の日もひたすら同じ道を走り続ける。その繰り返しの中で、和雄は徐々に心の平穏を取り戻していく。やがて彼は、路上で知り合った若者たちと不思議な交流を持つようになるが……
(映画.comより転載)


主役の和雄は佐藤泰志本人が

モデルなのだろうか。


こころの病を抱えた和雄

彼を支える妻・純子

それぞれの孤独と苦悩が

とてもリアルだった。


和雄の唯一の友人・研二の

存在にはとても救われた。



研二が純子に話した

昔の和雄のエピソード。

あの性格ではおおよそ他人とは

うまく付き合えなかっただろう。


純子ではないが

研二はよく和雄と友だちでいるなと

思わずにはいられない。


若い頃よりは

幾分マイルドになったとはいえ

人間やっぱり基本的なところは

変わらないから

そういう純子もよく和雄と

長く一緒にいられるよなとも思う。



だけど

そんな単純なことではないのもよく分かる。

自分が好きになった当時の

その人のことって

案外忘れられないもんだしね。


和雄にはいささか

無神経なところがあるけれども

二人で作り上げてきた関係は

居心地悪くはなかったと思うし。


それでもやっぱりお互いの全てを

分かり合えることはできない。

諦めながら期待して。

他人を理解するのは本当に難しい。



和雄がジョギングの途中で出会った

金髪の少年が言っていた

「他人の心に触れることはできない」

という言葉がそれをよく表していた。

とても心に残っている。



どんなに一緒にいても

どんなに理解したいと思っていても

絶対的に人は「個」であり「孤」なのだ。

その事実とどう折り合いをつけていくか。


予期せぬ出来事やタイミングで

ふとそちら側へ踏み出してしまうことも

あるだろう。

あのスケボー少年のように…



こころの病というのを

理解したい気持ちもあるし

だけど理解し難いところもあって

薬は症状を和らげる反面

自己が失われるような気もするし

特に閉鎖された環境に入れられるのは

自身を生きられないように思える。


自死を止める手段として

医療が最大限できることが

それなのだとしたら

個人の尊厳って一体何なんだろう

とも思う。


自身で窓を開け飛び出した先に広がる草を

裸足で踏みしめ駆ける和雄。

その顔に最も「生」を感じた。

素晴らしいラストシーンだった。