圧倒的な熱量 ページを捲る手が止まらない | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

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大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です


「黄色い家」

(川上未映子 著)


人はなぜ、金に狂い、罪を犯すのか


2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶――黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出すことになる。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい......。


黄色は、希望。黄色は、危険。
黄色は狂気一一

揺らぐ境界線、押し寄せる感情の波。
かつてない読書体験をあなたに。

(中央公論新書 特設ページより転載)


年末に読んでいた別の本が

あれよあれよと

年明けまで持ち越してしまった。


そちらのレビューもまだ

書いていないのだけど

年明けたら読み始めたいと思っていた

「黄色い家」に手を出してしまった。

読みたくて待ちきれなかったのだよ。


圧倒的な熱量に押されて

ページを捲る手が止まらなかった。


それでも

やらなきゃならないこと

いっぱいあるからって

後ろ髪引かれながら本を閉じる。


で、やること終わらせたらまた本を開く。

その繰り返し。


時間が許すなら心置きなく

もっとどっぷり浸りたかったな。



🌼 🌼 🌼



本来なら護られる存在である少女が

生きていくために

夜の闇に足を踏み入れていく。


それは確かに

自分で選んでいることなのだけれど

選ばされているというか

誰かに何かをということではなく

選ばなければならない状況に置かれている。


必要以上に

自分が何とかしなければと思ってしまう。

思わなくてはならない状況に置かれている。


それはもう個人の範疇ではなく

そう思わざるを得ない社会の構造に

絡め取られてしまっているということ。


何も考えない、考えられない人は

それに流されていくが

花は自分で考えて行動する人間だから

より深みに嵌っていったとも思えるし


なにより

いま居る場所以外

どこへも行き場がないという切迫感が

花を駆り立てていたのだとも思う。


それに

花は子どもだった自分を

救い出してくれた黄美子さんの印象を

壊したくないというか

信じ続けたいというか


自分の方が黄美子さんよりも

大人になってしまったことを

直視したくないというか


それを

自分が黄美子さんを護らなくては

という気持ちに

すり替えているように思えて

それがとても切なかった。



ふんわり風船星 ふんわり風船星 ふんわり風船星



作中とても印象に残ったのは

映水さんの言葉。


最初から決まっている「でかいこと」は、「誰も」「なにも」選べない。血ってなんなのか。優劣があるのか。それはどういう意味なのか。もしそれがあるというなら、それをなにで見分けるのか。それを言うヤツらも分かっていない。分かっていないから言える。分かっていないことを話す時、人はいちばん調子に乗れるから。


家族もいない、昼の世界とも繋がっていない、身元も適当で、今日とつぜんいなくなってもなんの問題もない。そういうヤツが夜にはたくさんいる。ある意味「物」みたいな。いろんな遣い道のある「物」。都合がいい「物」。「金の成る木」。



ちょうちょ ちょうちょ ちょうちょ



花と黄美子さんと蘭と桃子の4人で

スナックを経営し

同じ家に暮らして

最初は楽しい生活だったけど

その土台はとても不安定で

いつひっくり返ってもおかしくなかった。


自分たちはいま確かにここに在るのに

それを証す術が何一つないということが

どれほど不安なことか。

それに真正面から向き合うことが

どれほど怖いことか。


何かに縋って

その縋っているものだけを

見つめていなければ

不安や恐怖に飲み込まれてしまうだろう。


だから花は

確かな実態のある「金」を

心の拠り所にしたのではないか。

現金こそが目に見える安心の象徴。


だけど「金」は力、権力の象徴でもあり

「金」で支配されることでまた

自分も「金」の力で

他者を支配していくようになる。


「金」が増えたことで

安心を得たはずなのに

増えたら今度「減る」不安に苛まれる。


「金」からの支配が結局は恐怖を呼び

恐怖に支配されると

今度は他者を恐怖で支配していく。


女性4人で暮らしているにも関わらず

何の疑いもなく当たり前のように

「家父長制」のような支配の構造が

再生産されていった。


🍋 🍋 🍋


だけど

彼女らのやっていたことが

どこから正しくて

どこから間違っていたかなんて

その渦中に在って

境界を見極めることは難しいだろう。


それに気づけるくらいの人なら

それ以上に自分の無力さを

思い知ることになると思うし。


かと言って

正しさと誤りだけが在る訳でもなくて。


白と黒とグレーが混ざり合った世界を

無関係の人間の正しさで計るのは

とても暴力的に思える。



まじかるクラウン まじかるクラウン まじかるクラウン



一つの答えに導かない

何度も大きく心揺り動かされる物語だった。

いままで読んだどの物語とも違う。


勢いに任せて

ここまで書き綴ってみたけれど

自分が感じたことの

半分も書けていない気もするし

どんなに時間を掛けても

全ての思いを書くことはできない気もする。


分かりやすい答えは用意されていないから

読む人それぞれ感想も違ってくるだろうな。


年明けから

ものすごい読書体験ができた。


今年はどんな本に出逢えるかな。

楽しみ楽しみニコニコ