そこに線を引いているのは誰なのか | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です


『ボーダー 移民と難民

(佐々涼子 著)


日本語教師の経歴を持つ著者が

入管問題、難民認定、

技能実習制度などについて

10年に渡り取材した

ルポルタージュ。


大きく分けると

・入管と難民認定

・技能実習制度と移民

・民間の難民保護施設

の3章で構成されている。


◇◇◇


記憶に新しい

スリランカ出身の

ウィシュマさん死亡事件。


非人道的な入管の実態が

これだけ世間に知れ渡ったのは

SNSの発達も一つの要因だけど

ウィシュマさんが日本に好意的な

若く美しい女性であった影響も

かなりあるだろう。


これまでも

入管で亡くなった事件はあったけど

新聞の片隅の小さな記事にしか

ならなかったもの。


ウィシュマさんの事件が

世間の注目を集めたことで

入管法の改悪を防げたのは

良かったことだけれど

日本人の無意識にある

差別や偏見が

結果的に功を奏したのは

とても皮肉なことだと思う。


この改悪案は

折を見てまた提出してくるだろうから

これからも気に留めていきたい。


ウィシュマさんは

入管が適切な治療を与えなかったために

亡くなってしまった。

でもそれだけでなく

同居男性からDVを受けていた。

警察に相談したにも関わらず

オーバーステイを通報され

入管に収容されてしまった。

犯罪被害者なのに。


ウィシュマさんの最期を知りたいと

遺族が訴えても

録画記録の一部しか開示しなかったり

黒塗りの文書を提出してきたり

事件後も入管は

不誠実な対応を繰り返していた。


地検は

当時関わった入管職員

全員を不起訴とした。

検審による再捜査も行われたが

死因の特定がされず捜査終結。

ウィシュマさんの死亡と入管の対応との

因果関係が証明されることはなかった。


若くて健康な女性が

そう簡単に亡くなるはずがない。

入管というブラックボックスの中では

一体何が行われているのだろうか…


◇◇◇


生命からがら母国を脱出し

助けを求めて来たのに

「難民ではない」と言う。

それが私が住んでいる

ニッポンという国だ。


逆を考えてみる。

もしも

日本国内で内戦が起きたり

他国に侵略されたとしたら

私たちはきっと

周辺国に避難するだろう。

その時に難民と

認めてもらえなかったら

どうだろう。


どこもかしこも人手不足。

少子化には歯止めがかからない。

国力は下がっていく一方。

食料自給率は極めて低く

他国からの輸入に頼らざるを得ない。

それなのに

労働力をきちんとした形で

受け入れることを頑なに認めない。

それが私が住んでいる

ニッポンという国だ。


技能実習制度などという

おためごかしは

もう通用しない。


先進国はどこも

労働力が不足している。

労働力は売り手市場。


日本のような

外国からの労働力を

安く買い叩き使い捨てる国は

もう選ばれない。


過去に日本が

身近な労働力として

重宝していた国だって

他国からの労働力を必要とする

買い手側に回っている。

変化に追いついていないのは

日本だけだ。


このまま労働力を

移民として受け入れないのであれば

日本の社会システムは

いずれ機能しなくなるだろう。

例えば

日本が食料の輸入を止められたら

飢えてしまうのと一緒。


いま以上に労働力が不足すれば

野菜を収穫する人がいなくなって…

水産加工や

食肉加工する人もいなくなって…

コンビニ弁当を作る人もいなくなって…

建設現場の作業員もいなくなって…

そうなれば日本の社会は

機能不全に陥るだろう。


ありとあらゆる

目に見えない場所で働いて

いまの日本の社会システムの

最底辺を支えているのは

外国籍の労働者だということに

気づかないほど

この社会のレイヤーは分厚く

複雑になっている。

それがとても恐ろしい。


◇◇◇


私は公営住宅に暮らして

もう20年近くなる。

築40年と建物は古いけど

財政が豊かだった頃の建造物は頑丈だし

周辺と比べ家賃が安い。

建物の老朽化は避けられないが

公営のため定期的に手を入れてくれる。

3年程前には水回りがリフォームされ

快適になった。


しかしながら

住民の高齢化だけは止められない。

独居の高齢者が

全戸の大多数を占めている。

自宅で介護サービスを受ける

高齢者も多い。


だから

いまやマイノリティとなった若年層が

自治会の負担を一手に引き受けている。

このままじゃいずれ破綻するだろう。


高齢者の次に多いのが

外国人居住者だ。

フィリピン出身者が多いけど

これまで聞いたことない国の人も

最近は増えた。


日本語が話せる人、話せない人

日本語の読み書きができる人…

自治会の役員をしていた時

引越してきた人の入会手続きで

色んな人がいることを知った。


みんな真面目な人ばかりで

日本語が分からない外国人でも

会費を滞納する人は一人もいなかった。

長期滞納するのは日本人だけ。


これまで世間話する程度で

彼らの立場まで

深く考えたことはなかった。

はっきり言って無関心だった。


だけど

高齢化著しい

この地域コミュニティを運営していくには

彼らの力を借りなければ成り立たない。


それには

既存の運営システムを早急に

誰もが分かりやすいものに

切り替えていかなければならない。


◇◇◇


本の内容とは

だいぶかけ離れた

感想になってしまったけど

私の身近な問題も

全て地続きだと思う。


日本の入管の対応

難民認定率の低さ

技能実習制度に

問題だらけなのは

私が言うまでもない。


本書を読んで

これが私の母国だと

誇れる気持ちには到底なれなかった。

とてもショックだったけど

著者を始め

地道な努力を続ける人たちがいることも

同時に知ることができた。


だから

私があれこれ論じるよりも

先ずは多くの人に

この本を読んで欲しい。


そして

いまの日本の現在地を

目を逸らさず確認して欲しい。

そしたら

目指す方向が見えてくると思う。


そういう人が一人

また一人と増えていくことで

社会は変わっていくのだと

私はまだ信じたい。